異世界人をおいかえせ!

あるみす

第1話

あぁ、本当に魔法って言うのはずっこいなぁ。

何でも思い通りみたいに無から生み出しては私達を苦しめてくる。

でもそれが異世界の常識なんだって。異世界とか聞いて呆れる?だよね、私もそう思うもん。今だって世界中で理不尽に異世界からやってきた勇者とか言う人達が嬉々として私達の住む場所を侵略してきてる。

まるでゲームみたいにね。


「そろそろ覚悟は決まったか?いい加減その基地を明け渡して貰おうか」


私は数メートル離れた男を凝視する。細いが筋肉が鍛えられた体に西洋ファンタジーの様な洋装で、極めつけに両刃の剣まで持っている。その剣からは何か魔法陣の様な文様が浮かび上がり、夏だと言うのにヒンヤリとした空気が逆撫でしてくる。気づくと男の持っている剣は巨大な氷の剣に変貌していて、男の周囲の物は凍りついてしまっている。

これが魔法。私達を殲滅しようとする世界の技術。


「降参してくれたら有難いんだけど?君をこれ以上傷つけたくない物でね。幼気な少女をいたぶるのは良心に傷が付く」

「なにそれ、すっごい今更。」


私はさっきから目に入りそうに流れてくる血を雑に拭い、グローブを着けた拳をギュッと握りしめる。

私の手にイナズマが纏い、光も強くなっていくが男は気にもとめない様だ。地球の決死の技術も異世界では子供でも使えるおもちゃとでも言いたげに見える。

一触即発の雰囲気。冷や汗が止まらないや…。あぁ、帰って寝たいなぁ。


そして敵が動いた。私を殺すために。腹を括らなきゃ…。


本当に、帰ってくれないかなぁ異世界人。



事の始まりは本当に何気ない時だったらしい。日本ではよく晴れた休日でモーニングでコーヒーを嗜む人が居たり、公園でジョギングをしている人が居たりといつもの日常を送っている中、それは突然現れたの。


『異世界ゲート』


今は皆そう呼んでる謎のおっきなゲートが世界各地に現れたらしい。らしいってのは私が直接見たわけじゃないからね、何せ今から30年も前の話だから。

そんでもってそんじょそこらの大きなビルならすっぽり入りそうなくらい大きなゲートから出てきたのは自分達を「勇者」って名乗る人達だった。

何が勇者何だろうね、しきりに魔王を倒す為にやってきた!って最初は言ってたらしいけど、もちろんこの現実に魔王なんて存在しない。存在するのは国同士の醜い腹の探り合い、むしろ共通の敵がいた方が世界中協力し合えたと思うんだよね。

まぁそれは置いといて、最初の勇者が攻めてきてから早30年。未だ向こうの勢力がこの星を制圧しきれていないのは単純に攻めてくる数が極めて少ないから。

一度にやってくるのはせいぜい4.5人程度のパーティで、当時の火力兵器の尽くをその卓越した魔法で封殺してこちらを手玉にとってきた。しかし、彼等も無尽蔵の兵器という訳では無いらしく、ガス欠を起こすと再び転移して帰ってしまう。やっとこさ捕まえても消える。致命傷をなんとか与えても消える。一度に来る人数が少ないから今は何とかなっているがいつまでもそれが続くという確証はどこにもない。

そして30年経ってもろくに敵の情報を得られず、唯一分かっている事としては敵はこの地球を占領したがっているという事だろうね。本当に迷惑極まりない話だよ。


とまぁ長々と聞いてくれてありがとね。そんな私はこの日本に生きる軍人なの。軍人と言っても自衛隊じゃないけどね、ゲートが出来てから慌てて発足した対異世界防衛機構シュルツの京都支部に務めてる戦闘員ってこところかな。因みに日本のゲートは京都と北海道の二箇所にあるよ。

そして私は今真夏の早朝に散歩がてら家の近所の神社へと向かっていた。京都の夏は本当にジメジメとしてて蒸すような暑さがキツいけど早朝に限っては涼しい方だと思う。今の京都は避難勧告が敷かれているのもあって空き家ばかりが立ち並んで、辺り一帯の時だけ止まってしまったように朽ちた建物が今も帰らぬかつての住人を待ちわびている様に思わされる。

神社への参道に差し掛かると住宅街とはうってかわって木々のせせらぎやヒンヤリとした空気が身体の熱を冷ましてくれる。この感覚が気持ちいいから毎日参拝してるまであるよね。

淡々と神社へ続く山道を歩いているとふといつもと違う雰囲気を感じ取った。人の気配?もしかしたら人じゃないかもしれない。何にせよ自分以外の何かが待ち構えているような気がしてならない。

こんな事は今まで一度もなかった。神主も居ないもう古く寂れた神社に自分以外の参拝者が居るとも思えないし、異世界人かと思ってシュルツの連絡用端末を開くがゲートが起動した報せは来ていない。そもそもここはゲートから数キロは離れてるし、わざわざここに来る理由も分からない。

えもいえぬ違和感に脈は早くなり、背中には悪寒を感じる。怖い以前に気持ちが悪い。

そうこうしてる間に境内が見える位置まで辿り着いてしまった。

逃げ出したい気持ちを押さえつけ、一歩一歩階段を上がっていく。そして境内が見えそうになった瞬間だった。

何かが私の中を貫いた。………気がした。

オカルトチックに言うと霊に憑依されたとか言うのかな。とりあえず経験したことの無いような気味悪さを感じたのは確かだ。そして、その瞬間何かの知識が私の中から唐突に溢れ出てきた。理解できない。そもそも言語が違う。頭の中を知らない言語や映像が渦巻くように流れて体が耐えきれないと吐き気を催した。

おかしい。今日のこの神社は何かがおかしい。

帰りたい。だけど、体が言うことを聞かない。反転して下るだけなのにそれすらままならない。

衝動に突き動かされるように顔を上げてゆっくりと境内を覗き込んだ。

そこで目にしたものに私は目を疑った。


そこにあったのは私が知っている古びた神社とは違う神社だった。


正確には構造や装飾に至る部分は酷似していると言うかほぼ同じだった。しかし綺麗だったのだ。いつもは朽ち果て、苔やカビの温床だった境内はしっかりと掃除され、保存状態も良い立派な神社だったのだ。


「おかしい…。何これ…」

「…………ん」

「ひっ…!」


ふと聞こえた声に私は小さく悲鳴を上げてしまう。どこから?今の声どこから聞こえたの?探しても見当たら無い。目では理解できないが何故か今の私には今の声の持ち主がどこに居るのか分かった。境内に近づき、恐る恐る手を伸ばしてみると姿は見えないのにモフっとした感触が手に伝わってきた。

驚いてサッと腕を引っ込めたが、やはりソレはそこに存在しているらしい。手のひらに感じた感触が嘘偽りでない事を物語っている。意を決してもう一度手を伸ばしてみるとそれは動物の毛並みのように感じられた。ふさふさで暖かい。まるで狐の毛のような包容感がある。

少しの間私は夢中でその見えない毛並みを触っていたのだけど、ソレは私の存在に気がついたのか、声を掛けてきた。


「あなたは…ミルエーナの人ですか?」

「み、みる?ごめん私日本人なの。それより貴方は何者?」


綺麗で甘く、優しい女の子の声に私はつい返事をしてしまったのだけど、その子は何か噛み締めるように小声で呟くと、今まで隠していた体を見せてくれた。


「こんにちは!」


姿を見せてくれた彼女に私は目を疑った。木漏れ日を反射してキラキラと輝く白髪の髪の毛に長いまつ毛、小さく整った顔立ちに桜色の明るい瞳。背丈は私より少し小さい位だけど、極めつけに髪と同じ色の狐耳と見ただけでふさふさなのが見て取れるしっぽが着いているのだから。


「か、カワッ……」


普通おかしいとは思うのよ自分でも。

でもね、人間唐突にこの世ならざる可愛さを目にすると何も声が出なくなるんだなって。わたしは今日初めてそれを理解した。



これが私と狐の少女との初めての出会いだった。この子の出会いが何をもたらすかはまた後のお話という事で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界人をおいかえせ! あるみす @Arumis

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ