ぞうきん猫に愛される田村
福守りん
ぞうきん猫に愛される田村
「猫を飼うために、引っこした」
かかってきた電話の第一声が、それだった。意味不明だ。
「はあ?」
「『出会いと別れ』がテーマの漫画を、描いとったやろ……。
ちっちゃい女の子と、拾ってきた猫の話」
「それは、知ってるけど」
少し前に、短編漫画が掲載された雑誌を田村が持参してきたので、目は通した。
当初田村が描こうとしていた宇宙人の話ではなくなっていたのが残念だったが、漫画の出来は悪くなかった。
「あれな、モデルがいてん」
「モデル?」
「野良の……。猫がな。おれんちの近くにいてん。
サビ猫。わかる?」
「わからない」
「あれやって。ぞうきん猫っていう柄の」
「もっと、わからなくなった」
「黒と、茶トラが混じってる感じの」
「ああ……。なんとなく、わかった」
「ほんとは、あかんのやろうけど。餌を持っていって、あげて、写真を撮らしてもらって……。で、通いながら、漫画を描いていったんやけど」
「だんだん話が読めてきたぞ。情がうつって、飼いたくなったんだな」
「そお。こいつがまた、へんな猫なんや。
おれと初めて
その時の首の向きが、完全に左に傾いとって……。もう、頭のついとる位置がそもそもおかしいんちゃうか?って思うくらいで」
「そうか」
「けどな、妙にかわいいというか……。他にも、黒猫とか、毛のない猫とか、おったんやけど。もう、そのサビ猫しか目に入らんくなってもうて」
「はあ」
「おれの横に、おるんやけどな。今も」
「よかったな。それじゃ」
「待て待て待てーい! そやから、住所が変わったてこと。
前のアパートには、おらんからな」
「わかったよ」
「てっちゃん。今日、休みやった?」
「田村と長々と話してる時点で、察してほしかったけど。そうだよ」
「そしたら、おれんちに来る? アパートより、広なったで。
ペット可のマンションなんや」
「いいよ。行く」
「LINEに住所送るわ」
猫缶を土産に買って、田村の新居を訪ねた。
サビ猫にめちゃくちゃに懐かれている田村は、幸せそうだった。
「でれでれだな」
「そやな。かわいいやろ?」
「同意したいが、ちょっと、どうだろう。カオスな模様だな」
「宇宙の真理を感じるわ」
「この柄から?」
「そやで」
「猫の手を借りた結果が、これだったわけか」
「うん。幸せやー」
「……よかったな」
ぞうきん猫に愛される田村 福守りん @fuku_rin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます