切手のないラブレター
朝霧
遺品整理中
祖父の遺品整理を整理していたら、祖母が祖父宛に向けて書いたらしい手紙が見つかった。
随分と保存状態がいいそれの一番上の封筒の中身を見てみる。
そしたら中身はラブレターだった。
去年、八十八歳の誕生日の手前で亡くなった祖母は愛らしいおばあちゃまという感じの人だったが、その印象通りの丸っこい字で祖父への愛が綴られている。
そういえば昔、祖母からこんな話を聞いたことがある。
『わたしの一目惚れでねえ。何度も何度もお手紙を出したのだけど、結局一回もお返事はくれなかったのよ』
返事は一切しなかったくせにプロポーズは祖父の方からだったらしいのが意味不明だ、詳しくは聞いていなかった、というか祖父に妨害されて最期まで聞けなかったからどうしてそんな経緯になったのかは知らないけど。
祖父は一言で言うと無愛想な男だった、私はあの老人が笑ったところを一度も見たことがない。
それは祖父の娘である母も同じであったようだ、見た目は祖父似だが性格は完全に祖母似だった母はあまり気にしたことがなかったらしいけど、親から一度も笑顔を向けられずに育つのはなかなか嫌な育ち方だな、と私は勝手に思っている。
だから意外といえば意外だった、祖父が祖母からのラブレターを取っておくだけでも驚いた、しかも随分と状態がいいのでかなり大事に保管されてきたのだろう。
しかしただそれだけの話ではあったので、私は封筒をもとのとおり高級感のある箱の中に戻す。
箱の外面があまりにも高級だったのでお宝でも入っているのかと思いきや、的外れもいいところだ。
祖父は頭がいいくせに意外と考えなしだったらしい、こんなあからさまな箱の中身を、
ま、私はそういうことどうでもいいから言いふらしたりはしないけどな、妹だったらきっと騒ぎ立てたのだろうけど、私だから黙っていておいてやろう。
もう少し早く発見できていれば何も言わずに棺に詰めていたのだけど、もう無理なので後で庭でお焚き上げしておこう。
そのまま祖父の部屋の整理をしていたら、今度は随分とボロっちい箱を発見した。
これはあからさまだ。
甘いなクソじじい、こんなあからさまにゴミしか入っていなそうな逆に怪しい見た目の箱の中身を
躊躇いなく箱の蓋をオープン、中身はまた紙の束だった。
紙の束は封筒が積み重なったものだった、先ほどの祖母のラブレターと同じか、それ以上の量がある。
祖母以外の知人からの手紙か何かだろうか、と思ってひっくり返してみると、宛名の部分に祖母の名前が書いてあった。
祖母宛の手紙? なんで祖父の部屋に?
しかし何か違和感。
なんだろうとよくみると、切手が貼ってない。
なんだこれ。
意味がわからないので糊付けはしっかりされている封筒を開いて中身を見てみた。
中身は祖母へ向けられたラブレターだった。
文面も口調も堅苦しく愛想がないが、見覚えのあるやけに綺麗な字でびっちりと文字が敷き詰められている。
それを頭から終わりまでしっかり読んで、思わず溜息を吐いた。
「返事書いたなら出せよ。クソじじい」
庭で焚き火をしていたら母の悲鳴が。
何やってるの、と聞かれたので「お焚き上げ」とだけ答えて灰になっていく紙束を木の枝で突いた。
「切手は貼ってなかったけど、宛名は書いてあったから多分届くでしょ。私ってば超親切」
そう言うと母は意味のわからないイキモノを見るような目で私をみた。
そんな母は無視して、いつか私があの世に行ったら祖父に『余計なことを』っていう顔で睨まれるんだろうな、と思った。
しかしそんな日がもしきたら、何食わぬ顔でこう言おう。
「詰めが甘いんだよ、
切手のないラブレター 朝霧 @asagiri
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