二年後に逝く君と僕……ずっといっしょだった八十八年

佐倉じゅうがつ

君と僕

 どうして僕に教えたのかな。


 君が二年後に天国へ行くって。



 僕と君はずっといっしょ。


 君が産まれて八十八年、ずっといっしょ。


 ずっと同じ家で暮らしてた。


 どうして僕だけに教えたのかな。



 君が九十歳の夜に、天国へ行くって。


 神様。


 どうして僕に教えたのかな。


 僕が働き者だから、ごほうびなのかな。


 それって、ごほうびなのかな。



 ごほうびをくれるなら、僕もいっしょに行かせてよ。


 心の中でつぶやいた。



 いいよ。


 そう返事が聞こえた。


 神様の声で。



 よかった。


 僕は、君といっしょに天国へ行く。


 他のみんなは、さびしがるだろうな。


 それでも僕は、君と行く。


 僕には君が一番だから。



 君はいま、八十八歳。 


 僕のほうが、ちょっぴり年上。


 でも僕の年は、僕も知らない。


 同じ八十八歳だったら、いいな。


 天国に行ったら。


 天国でいっしょに生まれたら、同じ年だね。



 君はいま、八十八歳。


 最後の二年をいっしょに生きよう。


 二年たったら、いっしょに行こう。




 僕たちが天国に行くときは。


 僕がみんなに教えてあげよう。


 君はきっと眠っているから。


 みんなは眠っているのかな。


 僕がみんなに教えてあげよう。


 最後の音を、鳴らして行こう。






 君が天国に行くその日の夜。


 僕はみんなに教えてあげる。


 時間の数だけ、ボーンボーン。


 音を鳴らして、僕は行く。



 行ってきます。






 おじいさんが産まれた日の朝に


 買われた大きな時計は


 九十年の時間を刻み続けていましたが


 おじいさんが九十歳で亡くなると同時に


 鐘を鳴らして動かなくなったそうです。






※あとがき※

「Grandfather's Clock」

作詞・作曲 Henry Clay Work を基に書きました。

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二年後に逝く君と僕……ずっといっしょだった八十八年 佐倉じゅうがつ @JugatsuSakura

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