181.サジタリアス攻防戦:4人の連携によってボボギリちゃんは完全に沈黙。しかし、あの魔族が企んでますよ。ちなみにメテオとドレスも頑張ってるよ

「いっきますよぉおおおお!」


 ハンナ、クレイモア、サンライズ、そしてシルビアの連携作戦が始まる。


 まずはハンナによるかく乱だ。

 ボボギリは枝を盾のように変化させて強い打撃を防御する術を持っている。

 しかし、こちらの動きに完全に対応できるわけではない。


暗殺者の運足アサシンズダンス!」


 ハンナは風のように動きながら、ボボギリの魔石を追いかけることに専念する。

 


「膝がちょっと痛くなってきたけど、やるしかないのぉ!」

 

 次に動いたのがサンライズだ。

 彼はハンナを追いかけるボボギリの枝を落とし、ハンナを守護するのが役割だ。


 ここで役に立ったのが、サンライズの長年培ってきた経験だ。

 彼は死角からの攻撃でさえも、一瞬のうちに判断し、見ることなく切り落とす。


「おじいちゃん、やっぱり魔石は表面しか動けないみたいですよ!」

 

 ハンナが叫ぶ。

 ボボギリの魔石は縦横無尽に動くように見えるが、幹の内側に入ることはなかった。

 サンライズはここにボボギリ攻略の糸口を見つけたのだった。



 うぉおおおおおおん!!!


 だが、今回のボボギリはただの考えなしに暴れる魔物ではない。

 自分に起きていることを客観的に理解しているかのような動きをする。

 幹から腕を多数生やし、しなやかなツルのように変化させる。


 ハンナとサンライズの二人を絡め取ろうとするのだった。



「次は私よっ! 金剛氷柱よ、邪悪な敵をつらぬけっ!」


 これまでなら、うじゃうじゃと茂る枝に阻まれて倒すことはできなかっただろう。

 しかし、ここからが違った。

 シルビアの仕事は魔石そのものの破壊ではなく、魔石の動きを止めることだった。

 彼女は魔石の周囲を狙って板状にした金剛氷柱を猛烈なスピードで飛ばす。


 どどどどどっ!


 魔石が幹の中央に来たところを、金剛氷柱が取り囲むようにして突き刺さる。

 内側まで刺さった氷柱は溶けることなく、ボボギリの魔石の動きを封じ込めることに成功した。

 ボボギリの魔石は動きを封じられてしまうのだった。

 


「でりゃあああああ! 恐々打破ギガブレイクダウン!」


 ここで魔石に向かうのがクレイモアだ。

 彼女は大きくジャンプすると、大剣を頭上から一気に振り下ろす。


 狙いはボボギリの赤紫の魔石だ。

 

 それはミスリル並みの硬度を持つ。

 並大抵の力では砕くことはかなわない。


 しかし、クレイモアの渾身の一撃の前には粉々になってしまうのだった。



 うぉおおおおお……。


 魔石を砕かれたボボギリは即座に動きを停止。

 にょろにょろと伸びていた枝も、即座に枯れ果ててしまう。

 禍々しい目の光も消え去り、完全に沈黙するのだった。



「おぉおおおっ! 勝どきをあげよ! 剣聖たちの勝利だっ!」


 その様子を見ていた辺境伯リスト・サジタリアスは大声で叫ぶ。

 剣聖たちの連携によってサジタリアスが救われた。


 この戦いは後世に語り継がれることになるだろう。

 彼はそう確信するのだった。



「クレイモア、よくやりましたぁ! えらいですよぉぉっ!」


 城壁から固唾を飲んで見守っていたリリアナも大きな声をあげる。

 巨大な化け物を小さな人間が仕留めたことに、手の震えが止まらない。


 自分のよく知る仲間たちが活躍する姿に感動して、涙さえ流すのだった。



「な、なんて奴らだ!」


「すごすぎるぜ、あの四人!」


「英雄の誕生だぞぉおおおっ!」


 戦いを見ていた騎士団や冒険者たちは、サンライズたちの連携に感服した表情だった。

 彼らは自分たちが素晴らしい戦いを目撃できたことに感無量だった。


 歴史の生き証人になったような気分だった。


 

「終わったのかの……?」


 サンライズはボボギリの内側を覗き込み、その生命のありかを探る。

 経験上、油断しているときにこそ、もっとも警戒すべきであることを知っている。


 しかし、ボボギリの幹の中には光もなければ、動きもない。

 残されたのは、樹齢何百年のトレントの死骸だけだった。


「ふぅ、やれやれだったわい。骨に響いたのぉ」


 サンライズは大きく息を吐く。

 おそらくはこの化け物が敵の最終戦力だったはず。

 敵の目的は最後まで分からなかったが、ボボギリ以上のモンスターは出てこないだろう。


 サンライズは自分の手のひらを見て、はぁっと溜息を吐く。

 連戦に次ぐ連戦で体力はかなり削られていた。


 自分にかつての力が残っていればと情けなくなるが、同時にクレイモアやハンナ、あるいはシルビアといった、新しい世代が育ちつつあることを喜ばしく思うのだった。

 


 しかし、その感慨も長くは続かない。



 うぉおおおおおおん……。

 

 地響きとともにボボギリの残骸が動き始めたのだ。




◇ ドグラ、歓喜の声をあげる人間たちを嘲笑う



「ドグラ、お前の操るボボギリは壊れてしまったぞ。ふぅむ、敵も力をもっているらしいな」


 ボボギリがサンライズたちに沈黙させられたのを見て、ベラリスはむしろ嬉しそうに笑う。

 彼にとってボボギリの戦いというのは、ただの娯楽にしか過ぎなかった。

 かつての魔王大戦の際には、確かにボボギリはいくつもの城を攻め落とした。


 しかし、ベラリスは知っていた。

 人間側の剣聖や賢者と呼ばれる猛者たちが、最終的には駆逐してしまったことを。



「問題はございません、ベラリス様。あれが破壊されることなど想定内でございます」


 自分の操るボボギリが破壊されたと言うのに、ドグラは焦る様子を見せなかった。


「ベラリス様、よくご覧ください。これが魔力伝導の技法でございます」


 ドグラは目の前に3つの魔法陣を出現させると、それに手をかざして魔力を送る。

 

 彼が行っているのは、かつて禁呪として魔王から禁止された魔力伝導の術式だった。

 これは遠く離れた世界樹の持つ魔力を、魔道具を通じて別の対象へと移入することができるというもの。


 しかも、ただ単に対象を復活させるという生やさしいものではなかった。

 魔力伝導を行うことで、その魔物を強大にすることができるのだ。


「必ずや、あの剣聖を殺して見せます」


 ドグラはにやりと口元を歪めて笑うのだった。



◇ メテオとドレス、解体作業を頑張ってます!



 メテオとドレスは世界樹に取り付けられた魔力伝導装置の解体に入っていた。

 複雑な回路の上に構築された怪奇な魔法陣。


 伝動装置の内側には多数の動力装置があり、それらはランダムに動き出す。

 巻き込まれれば命を落としかねない危険な作業だった。


「メテオ、後ろ! 後ろ!」


 ドレスはメテオの後ろで歯車が回りだしたため、大きな声で叫ぶ。


「なんやねん、なんも起きてへんやん!」


 しかし、メテオが振り返ると、全く動いていない。

 

「ドレス、前や、前!」

 

 今度はメテオが叫ぶ。

 後ろを向いているドレスの前方で大きな魔法陣が動き出そうとしていた。


「はぁ? なんも起きてねぇぞ?」


 しかし、ドレスが前に向き直った瞬間に魔法陣は止まる。


 にっちもさっちもいかない状況の中、メテオとドレスは解体のために突き進むのだった。

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