【WEB版】灼熱の魔女様の楽しい温泉領地経営 ~追放された公爵令嬢、災厄級のあたためスキルで世界最強の温泉帝国を築きます~
144.ドレスによって魔改造された燃えキチ、例のごとく蹂躙する。しかし、敵さんも一筋縄ではいかないようで
144.ドレスによって魔改造された燃えキチ、例のごとく蹂躙する。しかし、敵さんも一筋縄ではいかないようで
「ミラージュさまぁあああ、なんですかあれは!? 石像が動いております!」
ミラージュのところに魔獣使いの男が駆け込んでくる。
その顔からは血の気が引いており、目は充血している。
彼らの視線の先には村から現れた謎の石像にあった。
節々が赤く光る石像が謎の熱線を吐き出し、モンスターの軍団を攻撃し始めたのだ。
熱線に触れた場所は爆発し、こちら側には多大な被害が出ている。
こんな兵器は魔法が進んでいるリース王国でも見たことがない。
明らかに尋常な事態ではなかった。
「悪鬼羅刹の魔族と手を組むとは、ユオのやつ、底まで落ちたかぁあああっ!」
ミラージュは苦々しい顔をして、そう言い放つ。
あの謎の石像はおそらく魔族の力によって生まれたものだと結論づけたのだ。
そうでもなければ、破壊光線を発する石像など作ることはできないだろう。
「ひぃいいい、ふざけた姿をしておいて、なんだあの力は!?」
戦場にはちゅどーん、ちゅどーんと爆発音が鳴り響き、魔獣使いは怯えた声を出す。
敵の石像は二頭身で、頭がやたらと大きい。
まるで子供のおもちゃのようにさえ見える。
それなのに、その破壊力は舌を巻くほどだった。
子供じみた石像が口をがばりと開けてこちらを攻撃してくる様は、まるで悪夢のような光景だった。
「あ、あの顔立ち、まさかユオか……!?」
ミラージュはあの石像がユオの姿を模したものであることに気づく。
口がむやみに大きくなっているが、目鼻立ちはそっくりだ。
攻撃をする瞬間、目が笑うのも忌々しい。
「兄をバカにしやがって……!!」
ミラージュは背中に炎がついたような感覚に陥る。
おそらくユオは自分たちをあざ笑っているだろう。
そんな光景を頭の中で思い浮かべてしまったのだ。
「くそぉっ、一斉攻撃だ! やつだけを狙って突撃させよ!」
ミラージュは状況を打開するために、敵の石像だけに攻撃を集中させることにした。
観察したところ、あの石像は一定の時間間隔でしか熱線を浴びせることはできないようだ。
それならば、囲ってしまえばいいと判断したのだ。
この作戦は失敗したときの損失があまりにも大きい、一か八かのものだった。
そのため魔獣使いは手持ちの軍勢が減ることに難色を示すが、雇い主のミラージュに押し切られてしまった。
「くそぉっ、こうなったらヤケだ! あの化け物を破壊せよぉおおお!」
「おおっ!」
魔獣使いたちは大きな声をあげて、お互いを鼓舞する。
かくして、ユオの村への侵略戦争は二番目のフェーズを迎えるのだった。
◇
「燃えキチ、大丈夫か!? まだやれそうか?」
一方、そのころ、ドレスたちは燃えキチのメンテナンスにかかりきりだった。
なんせ初めての実戦投入である。
立ち上がったのは昨日のことであり、口から熱線を出せるようになったのは、今日の朝のことだったのだ。
「ひぃ、ひぃ、なんとかいけるでやんすぅ」
燃えキチは体からしゅーしゅーと蒸気をあげながら、そんな声を出す。
魔石を投げ込み燃料を投入しているとは言え、ぎりぎりの状態だった。
特に問題なのは、急ごしらえの石像の体の操作がうまくいかないことだ。
大量の熱を生じさせるために、いつ崩壊してもおかしくない状況だった。
これまで燃えキチの体を構築していたラヴァラガンガの魔石の体は数百年の時を経て形成されていた特殊なものだった。
しかし、ドレスが谷で回収した素材はユオの熱によってかなり破壊されており、利用できる部分はそう多くなかった。
もともと持っていた力の数分の一も発揮できてはいなかった。
「まずいな……」
ドレスは眉間にシワを寄せて、ぎりっと奥歯を噛みしめる。
村の方向をみるに、まだ剣聖たちが戻ってきている気配はない。
燃えキチだけで敵を撃退できるのか?
それとも、こちらが崩壊するのが先か?
ドレスの額には汗がにじみ始めていた。
「団長! やつら、気づいちまったようですぜ!」
ドワーフの一人が大きな声を上げる。
敵はモンスターを指揮して、燃えキチを先に殲滅させる作戦に出たようだ。
こうなると、攻撃と攻撃の間に休止時間を要する燃えキチの石像には圧倒的に不利だ。
イノシシのモンスターたちは地響きをたてて、こちらに突進してくる。
「ふふふ、俺っちはこんなことで負けないでやんす! あの技を使うでやんす!」
それでも、燃えキチの心は折れていなかった。
特大の魔石を飲み込むと、射撃の態勢に入る。
ドレスはこくりとうなずくと狙いを定める。
「薙ぎ払え!」
ドレスの号令とともに、より強い光が石像の口の周辺に集まる。
ぎぃいいいいいんと、より大きな音が鼓膜を刺激する。
しゅどぉおおおおおっ
そして、石像から放たれた光線はモンスターの群れをより広範囲に攻撃する。
まるでユオの技を再現したような、横一列の熱線攻撃を発生させたのだ。
ちゅっどぉおおおおおおん!!
猛烈な音と風が発生し、戦場は煙に包まれる。
おそらくは一度の攻撃で三分の一はふっとばしただろう。
「負けるかぁあああ!」
しかし、それでも半分以上は残っている。
敵の魔獣使いたちはそのまま玉砕覚悟で突っ込んでくるのだった。
「あうあうあう、やばいでやんすぅぅうう。体が、体が……」
石像からは蒸気が上がり、がくっと膝をついて前のめりに倒れ込む。
なんとか四つん這いの姿勢になるものの、非常にまずい状態だ。
ドワーフたちは必死で燃えキチの体に水をかけるも、浴びせた直後に蒸発する。
「どうした、それでもこの世で最も邪悪な精霊の末裔か!」
倒れ込む石像にドレスは必死に発破をかける。
冷却用の水はほとんどなくなり、このままでは自壊してしまう状況だった。
「こなくそぉおおおお!」
会心の一撃とでも言うべきだろうか。
奮起した燃えキチは四つん這いの姿勢のまま、大量の熱線を放射する。
体の中に溜め込んだ魔力を全部使い切る勢いの攻撃だった。
ちゅどかぁあああん!!!
凄まじい爆風と爆音をあげて、敵の残りを一掃する。
値千金の攻撃だった。
しかし。
「溶けてやがる……。早すぎたんだ」
恐れていた事態がついに起きてしまう。
石像の口部分が熱に耐えられず、溶け出してしまったのだ。
全身からは蒸気が吹き出し、もはや稼働させることはできない状態だった。
「燃えキチ、よくやったぞ!!」
ドレスは石像の胸部分をこじ開け、燃えキチをなんとか回収する。
焼けた石像をこじ開けたので、ドレスは手にやけどを負ってしまう。
だが、ドレスと燃えキチには強い絆が生まれており、大した問題ではなかった。
「ひぃひぃ、死ぬかと思ったでやんす」
燃えキチは目を回しているものの、命に別状はなさそうだ。
ドレスは手を上げて、村人に一旦休憩のサインを送るのだった。
「やったぞぉおおお!」
「ドレスさんたちが、やりましたぁ!」
ララの周りの村人たちは戦況を眺め、にわかに活気づく。
ドレスの率いる石像部隊が100体はいたであろうモンスターを駆逐してしまったのだ。
戦場では敵を3分の1でも撃退できれば大手柄であるのに、全滅とはとんでもない戦果だった。
「ドレスさん、すごいですね……」
今回はここで稼働がストップしてしまったが、もしも、本格稼働した場合には恐ろしいことになる。
ララはドレスと燃えキチのもつ潜在能力に空恐ろしさすら感じるのだった。
敵軍は完全に沈黙し、おそらくは撤退するだろう。
いや、追撃を避けるために白旗をあげてもおかしくない状況だ。
そう誰もが確信するタイミングだった。
見張りの少年が声を上げる。
「敵陣から大男がやってきます! 髪が黄緑色です!!」
少年の指差す方向には黄緑色の髪を逆立てた、白目を剥いた男が立っていた。
そう、戦いのゴングは再び、鳴らされたのであった。
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