104.魔女様、新しい温泉を発見し、やっぱり即死攻撃をしてしまう

 どんどんどんっ!



「魔女様、大変です!」


 屋敷のドアを叩く音。

 続いてハンナの大きな声。


 いつもの私なら、『せっかく温泉に入っているのにぃいいい』ってなるところだ。


 しかし、今日の私は違う!



「ふふっ、待っていたわ!」


 そう、先手を打って待機していたのだ。

 私が温泉でまったりすると事件が起こる。

 これはもう温泉に入る前のかけ湯みたいなものだ。


 焦ったり、怒ったりしちゃいけないのである。

 私の狙い通りっていうわけなのである。



「ご主人様、全裸で勝ち誇られましても……」


「ぐ……」


 ララは冷静な顔でつっこむ。

 まぁ、そうは言っても温泉に入るの待ちきれなくて服は脱いじゃってはいたけど。

 ほらまぁ、百発百中で事件が起こるわけじゃない……よね?



「村の西のはずれが大変なことになっています! わらわらといます!」


 そうは言っても、緊急事態であることに変わりはない。

 ハンナの案内に従って、現地に急ぐ。

 確か西の外れっていうのはこの村の中でも手つかずのエリアだったはず。



 

「な、なんなのあれ?」


 到着してみるとびっくり、毛むくじゃらの動物がいる。

 大きさは人間ぐらいで、10匹ぐらいが群れでいるようだ。

 遠目にはネズミ見たいに見えるけど、大きすぎる。


 モンスターのようにも見えるが、それなら魔物除けで弾かれるはず。

 第一、こちらに気づいていても襲ってこない。




「あれは大王カピバラですね。モンスターではなくて、辺境に住む動物です」


 さすがはララ、なんでもかんでも詳しいのである。

 ふーむ、どうやら野生動物が村に迷い込んできたみたいだ。



「そうなんですよ! いくらなんでも、無許可に殺傷するのはどうかと思いまして! で、どうしますか? さくっとやりますか?」


 ハンナは物騒なことを言うが、無益な殺傷は望んでない。

 っていうか、あのカピバラとかいう生き物、なんだかとってものんびりしている。

 あんなものをやっつけるなんて、なかなかできない。



「ご主人様、あの崖の方に集まっているようですよ」


「よっし、行ってみましょう」


 そうは言っても、村始まっての緊急事態なのは確かだ。

 動物が村の中に入ってきちゃったら困るし。


 私たちは大王カピバラの方に近づくが、人間を警戒せずに昼寝をしている。

 鼻をひくひくさせて、ぼーっとしている。


 か、か、かわいい。


 あっれえぇ、最初はネズミの大きいのみたいだなんておもったけど。

 この人たち(?)、けっこう、かわいいじゃん!



「あれ……?」


 そして、私は異変を感じる。

 じわじわと足元に熱を感じるのだ。



「ララ、このあたりの地面、温かいよ?」

 

 触ってみると、カピバラが集まっている場所の地面が温かい。

 

 見れば、うっすら蒸気が立ち上っている気がする。



「ご主人様、もしかすると、もしかしますよ!」


「だね……、これはもうすごいことだよ!」


 そう、この私たちの足元に熱源があるっていうことは、温泉があるかもしれないっていうことなのだ。

 

 新しい温泉が!


 居ても立っても居られなくなった私は、さっそく温泉を掘り起こすことを決意する。




「その前にこの動物の群れをどうにかしましょう」


「それなら、私がカピバラを追い払います! 素手でぽくっとやります!」

 

 ハンナはそう言ってぶんぶんっと拳を振り回す。

 いや、彼女もクレイモアほどじゃないけどおかしな戦闘能力をもっている。

 素手で殴られたら無事じゃいられないだろう。

 けっして、「ぽくっ」みたいなかわいい擬音語じゃすまない。



「いや、私がやるわ」


 そこで私が動物を追っ払うことにした。

 彼らをできるだけ安全に追い払う方法を私はもっているのだ。




 サジタリアスからの帰り際、私はずっと考えていた。


 私の能力はちょっと派手すぎるんじゃないかって。


 目から熱線をだしたり、眉間からなんでも燃える円を出したり、触れるものみな燃やしたり……。

 相手が即死する技が多すぎる。

 これまでは頑張ってばれずにすませてきたけど、ちょっと派手すぎる。



 これじゃ、おしとやかで深窓の令嬢である私にふさわしくない。

 ……いや、そこまで大切に育てられてはいないか。


 とはいえ、相手が死なない技も大切なのだと思う。

 特に人間相手だと死なせちゃったら、とても厄介なことがおきそうだし。



「あんたたち、ちょっとどいてね。ここら辺、危ないよ〜」


 そういうわけで、私はカピバラに向けて熱の波を発する。

 じりじりと焼けつくような熱気だけど失神するわけでもない、それぐらいの温度。



 ぴぎぃ!?

 ぴぎゃぎ!?


 異変を感じ取ったカピバラたちは一目散に森の方に向かって逃げ出すのだった。

 思ったより素早い。

 ごめんね、せっかく来てくれたのに。



「さすがはご主人様、殺さずに追い払いましたね! ……でも、ちょっと物足りなかったです」


「そうですよ、魔女様は『薙ぎ払え!』って感じでやってほしいです!」


 ララとハンナからは不興を買う。

 こいつら、私のことをなんだと思ってるんだ。


「言っとくけど、私がいつまでも即死攻撃ばっかりやってると思わないでよね!」


 とはいえ、かっこよく私はまとめるのである。

 そう、私だって成長するのだ。


 これからは危ない仕事はハンナやクレイモアにだけ任せるようにしよう。

 

 カピバラもいなくなったし、よぉっし、温泉を掘るぞー!




 どっがぁあっぁああああん!!



 二人に見栄を切った刹那、近くの崖が崩落する。

 すさまじい土煙が舞い起こり、気づけば目の前に大きな魚の化け物が現れていた。


「グレートアースフィッシュです! 前見たのよりも大きいです」


 そう言えば、こいつは私が村に来た頃に出会った魚の化け物だ。

 土の中を移動するので魔物除けがあんまりきかない。



「おじいちゃんのかたき!」


 ハンナは剣を抜いてとびかかろうとする。

 ちなみに彼女のおじいちゃんは普通に生きている。 


「温泉掘りの邪魔をするなぁああー!」


 でも、先手を打ったのは私だった。


 今の私はちょっと気が立っていたのだ。

 せっかく温泉を掘ろうっていう時なのに、辺りをガレキだらけにしてくれたことに。

 これじゃどこに熱源があるか、わかりにくくなっちゃったじゃん!



 しゅばばっと目から熱視線が放射。


 気づいた時には魚の化け物を真っ二つにしてしまっていたのだ。

 あたりに焼き魚の匂いが漂う。


 あ、しまった。



「さすがはご主人様! これですよ、これ! これがみたかったのです!」


「魔女様の即死攻撃、大好きです!」


 ララとハンナはいつものように大興奮。

 っていうか、こいつら私を破壊魔か何かと思っているんだろうか。


 ついうっかり即死攻撃をしてしまう癖を直さなきゃいけないと思う私なのである。






「えいっ!」


 ちゅっどぉおおおおおおーん!


 それからは村人を呼び出して、温泉を掘る作業が始まった。

 まずは私が爆発させて土を掘る。



「魔女様、このお湯は白濁してる感じだぜ」


「今までにない色と香りで、いい感じですぜ」


 次にドレスをはじめとした職人集団がどうにかこうにかお湯を導く。



「魔女様、私はガレキをどかします!」


「あたしもやるのだ!」


「ほほっ、年寄りの冷や水じゃわい」


 そして、村人たちはガレキをどかしたり、お湯をためる場所をつくったりする。

 ハンナもクレイモアも村長さんも参加するので、仕事はどんどん片付いていく。


 私達は泥だらけになって作業する。

 村の温泉のいいところは、みんなで作ったっていう気持ちが生まれること。 

 これでもっとたくさんの人をおもてなしできるかもしれない。



「魔女様! この温泉も将来が楽しみですね」


「うちも頑張ります!」

 

 仲間たちはそういって笑う。

 温泉として使えるようになるには時間がかかるかもだけど、すっごく楽しみなのである。








「いやぁ、もうね、これよ、これ。これだよね〜〜〜〜」



 思わぬところで温泉が出てきたため、屋敷に戻ったころは夜になっていた。

 私は夜ごはんも食べずにお湯に飛び込む。


 はぁあああっと息を吐く。


 体全身に熱が伝わり、頭のてっぺんから冷気が抜けていく感覚。

 温泉堀りの疲労が一気に抜けていく。


 ふぅううう、相変わらず気持ちいい。



「最高ですねぇ」


「骨まで溶けるのだ」


 一緒に温泉を掘った面々も完全にリラックスした表情。

 温泉は魂を癒すよ、ほんとに。



「そういえば、私の父と兄ですが、ローグ伯爵の一件が一段落したら、すぐにでも村に来たいと言っていました」


「へっ、そんなに早く来るの?」


「えぇ、ユオ様にご招待されましたので、ぜひに、と言っております」


「そ、そっかぁ」


 辺境伯たちがくると言うので、少しだけ顔がこわばる。

 ううむ、これはちょっと予想外の出来事だぞ。


 なぜかっていうと、もう少しゆっくりしたペースでこちらにいらっしゃると思っていたからである。



「ご主人さま、そうなると村始まって以来の貴族のお客様ですね」


「だね……」


 ララの言葉に私はうなずく。


 貴族がお客に来る、これはうちの温泉リゾートにとって大きいことなのだ。


 どんな人も分け隔てなく接するのが私のモットーではある。

 だけど、辺境伯に『この温泉はすごくいい』って言ってもらえたら、かなりの宣伝効果になる。

 貴族のお墨付きというのはそれぐらい強いものなのだ。



「よぉし、辺境伯が来るまでに、村をしっかり盛り上げるわよ! 次のミーティングまでに一人一案、村を盛り上げるプランを練ってきてね!」


「「「おぉーっ!」」」


 温泉につかったまま、彼女たちは大きな声で気炎を上げる。

 

 その明るい声を聞くだけで、私の心がとても強くなるのを感じる。


 私にはさいっこうに気持ちのいい温泉があるっていう自信がある


 そして、最高の仲間がいるって思っているから。





 ……だけど、この確信はちょっとだけ間違っていた。




【魔女様が発揮したスキル】

熱威圧:熱の波を発することによって対象を圧迫するスキル。無益な殺傷したくないという心優しい魔女様らしいスキル。方向を指定することもできるため、非殺傷スキルとして優れている。非即死攻撃。


自動熱視線:熱視線が自動的に発動するもの。敵の急襲に対応し、命中率に優れている。即死攻撃。


【魔女様が手に入れたもの】

温泉:村の西の外れに発見した温泉。カピバラが見つけたので、カピバラの湯という名前にしたかったが、反対多数のため断念。名前はまだない。

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