105.魔女様、人々を中毒にする(?)白い粉にまさかのGoサイン!第一回「魔地天国温泉盛り上げプロジェクト」の審査員に駆り出される


 

「みんなぁああ、村の新名物が見たいかぁあああ!?」


「おぉーっ!」


 場所は村の温泉リゾート。

 その中央ホールにはステージが設置されていた。

 そこに集まっているのは村人と冒険者たち。



「魔女様のために心臓を捧げてるかぁー?」


「おぉーっ!」


「いけにえになりたーい!」


 

 私には最高の仲間がいるなんてしみじみしていた自分を殴ってやりたい。


 と、いうのも、今、私は「第一回 魔地天国温泉盛り上げプロジェクト」の審査員に駆り出されているからだ。


 いや、そこまではいい。


 問題はその演出。

 

 メテオが司会進行をしてるんだけど、なんなのよ、これ!?

 煽りがあまりにもひどい。

 それなのに村人も冒険者も熱狂の渦にいてなんだか怖い。


 あと、私は誰もいけにえにするつもりはないことを付け加えておきたい。



「くふふ、説明するでぇ! 魔女様を始めとする審査員の前に、村の新名物を発表しようっちゅう話や!」


 早い話が、うちの村の名物を開発するっていう発表会なのだ。

 にぎやかなことが大好きなメテオはそれを商売のチャンスと考えて、たくさんの村人が参加するイベントに変えてしまった。


 審査員は私とララとメテオとリリと村長さんの5人だ。


「出来のいい人には村の厳選素材に加えて、リゾート1ヶ月使い放題、さらには魔女様のビンタまでついてくるでぇえ!」


 その賞品がおかしいのだ。

 素材がもらえるとか、リゾートとかはいいと思う。


 どうして、私のビンタがついてくる!?


 私のビンタにそんな価値が、……あるわけないよね?



「くふふ。今日は厳選なる事前審査を勝ち抜いた猛者だけが魔女様にプレゼンしまっせぇ。それじゃあ、エントリーナンバー1番、クエイク・ビビッドちゃん!」


 そして、唐突に始まるプレゼンテーション。

 

 一人目はメテオの妹、クエイクだった。

 ぱっと暗くなったかと思うと、彼女の位置に魔石ライトで光が当たる。

 すっごぉい、こういう演出って王都の劇場でしかみたことがない。




「えーと、うちが紹介したいのは、温泉で取れたこちらです!」


 クエイクがそうやってみせてくれたのは、白い粉だった。

 砂糖とも、塩とも違う、ちょっと黄色がかっている粉だ。


 温泉でそんな粉がとれるのかしら。


「な、なんやねん、これ? 怪しいもんやったら、姉ちゃん、正気をうしなったるほど怒るで!?」


 それをみたメテオは冗談ともなんとも言えないことをいう。


 しかし、私はそれを見た瞬間、ぴーんっとくる。



「これって、西の温泉の底にたまってるやつだよね!?」


「それです! さすがはユオ様!」


 そう、クエイクがみせてくれたのは、村の西にある温泉に沈殿している、なぞの白い粉だ。

 この間、発見された西の温泉はこれまでの温泉とはちょっと違う。


 お湯の白濁感が普通じゃないのだ。

 実際にお湯がふんわぁーって白く濁っているんだけど、乾燥させるとこんな風になるのか。


 もしかすると、この地方には温泉がいくつも湧き出るかもしれない。

 ぐふふ、一大リゾートを作れるに違いない。




「ちぃっ、1ポイント先取された。しかし、その泥みたいなのをどうすんねん? 用途とかあるんかいな?」

 

 クイズ対決でもないのに、メテオは悔しそうな顔をする。

 それからクエイクにちくちくとつっこみをいれる。



「ふふふ、ドワーフのみなさん、持ってきてください!」


 そういうと、クエイクはぱんぱんっと手を叩く。


「おうとも」


 その合図にあわせて、ドワーフのおじさんたちが大きな桶を持ってくる。

 ちょうど人が一人ぐらい入れそうな大きさ。

 おじさんたちはその中に水を入れたり、なにやらセッティングする。



「この中に入っているのは普通のお湯です。しかし、この粉をいれると……」


 クエイクはそう言うと袋からその白い粉をどばどば桶の中に入れる。


 10秒も経たないうちにあの匂いがしてきた。


 そう、温泉のにおいだ!




「すごいよ! 温泉を作り出せるってこと!?」


「なななな!? この粉、魔法の粉やんけ!?」


 私達はクエイクの用意した桶をまじまじと観察する。

 白く濁っていて見た目は完全に温泉だ。

 香りもいかにも温泉って感じで、それだけでもリラックスしてしまう。


 手を入れて感触を確かめると、ぬるっとしていかにも温泉!

 この間の塩をお湯に入れるのもよかったけど、これは段違いだ。



「これやったら温泉のない地域でも手軽に再現できます! しかも、原価ほぼゼロです! だって、温泉のお湯を乾かすだけですから」


 クエイクは自信満々に胸を張る。



「すごい!」


「クエイクちゃん、かわいい!」


「俺たちの妹!」


 もちろん、ギャラリーの村人は大盛況。

 拍手と歓声の雨あられが降り注ぐ。


 クエイクによると多少の疲労回復効果があるらしい。


 それにしても、メテオほど悪辣なところのないクエイクは冒険者の人気が高いようだ。



「……ほんまにあのクエイクがこんなに大きくなって、うちはめっちゃ嬉しいわ。泣けてくるで」


「姉ちゃん……」


 クエイクの発明にメテオは涙を流す素振りをする。

 姉として妹の活躍が誇らしいようだ。

 クエイクもつられてちょっとだけ、うるっと来ているようだ。

 うーん、いい話。仲良し姉妹っていいなぁ。



「うちがおむつを替えてたんが昨日のことのように思いだされるわ。あの頃はぴぃぴぃうるさくて」

 

「うそつけ! 姉ちゃんと一つしか変わらんやんか」


「ちいっ。せっかく情にあつい人物を演出しとったのに」


 いや、メテオのはただのよこしまな涙だったらしい。

 彼女には騙されてばかりである。



「それにしても、ええわこれ。疲労がポンっととれるやつやんか! これやったら合法的に人を虜にできるでぇ! 魔法の白い粉ばんざいや!」


 ビジネスチャンスを見抜いたメテオはよだれを垂らさんとばかりに喜ぶ。

 確かにこの企画は素晴らしい。


 とはいえ、魔法の白い粉という名前はよろしくない気がする。

 温泉を手軽に作り出すことができるわけだし、もっとうまい言い方はないかな。



「はいっ、私にアイデアがあります!」


 さっそうと手をあげるのはララ。

 嫌な予感がするのは私。


「これはもう温泉という沼の泥の粉ですから、|沼泥(ぬまどろ)パウダーはいかがでしょうか!?」


「ぬまどろ……。却下ね」


 彼女の提案は、ぬまっとしていて、どろっとしている感じだった。

 なんていうか、「沼」とか「泥」とかついた時点でアウトだと思う。



「はいはいはい! 私はすっごく自信あります!」


 ハンナが客席から手を挙げる。

 じわりと汗がにじむ。

 嫌な予感がさらに強まる。



「これはもう魔女様の中毒的な温泉でとれる、骨のように白い粉ということで、マジ毒骨粉どくこっぷんはいかがでしょうか?」


「却下」


「えぇえ、なんでですかぁああ!? いいじゃないですか、まじどくこっぷん!」


 ハンナは普通にしていれば、村でも一、二を争う美少女だと思う。

 いろんなことに気が利くし、親切だし、笑顔も素敵。


 しかし、「普通」ができないんだよなぁ、発想も、言動も。

 骨粉とかどう考えても不吉な感じだし、毒なんて言葉の付いたものをお湯に入れたくない。

 

 商品名については紛糾しそうなので、いったん、これにてクエイクのプレゼンは終了することにした。


 さぁ、さくさくいくよ!



【魔女様が手に入れたもの】

温泉の白い粉:温泉の成分を乾燥させて粉にしたもの。湯に入れることで温泉と同じような効果効能を味わうことができるが、少し弱め。一度使い始めたら、ただのお湯では満足できないなど中毒性がある。しかし、村では合法である。決して、非合法なものではない。非合法なものはダメゼッタイ。

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