第8章 魔女様の冒険者ギルド誘致! 村の近所にダンジョンが見つかり、魔女様は14日ぶり8回目の大暴れ

103.魔女様、村に帰還して、メテオに不意打ちを喰らう



「ユオ様、村が見えてきましたよ!」


 遠くに見える村の影を指さして、リリが嬉しそうに言う。

 サジタリアスからの帰りはゆっくり目にした私たちなのである。

 


「ふぃ〜、長旅は退屈だったのだ。びゅびゅんっと帰りたかったのだ」


「そりゃあ、剣聖さんはええかもしれへんけど、うちらは二度とごめんや」


 シュガーショックの背中に乗ればそれこそ一瞬っていうレベルで帰れるのだけれど、クレイモア以外は阿鼻叫喚の渦になってしまう。

 ちなみにクレイモアはリリの護衛ということで、村についてきている。



「それにしてもまともな道がないってやばすぎるよね。早いところ街道を整備しなきゃ」


 帰りの旅路は街道の整備について考えるいい機会にもなった。

 現状の道は石ころや岩だらけで歩くのが非常に大変なのだ。


 今後はサジタリアスから人と物の行き来が活性化するだろう。

 もっと歩きやすい道を作らなきゃいけないよね。


 できれば馬車が走れる道がほしいなぁ。

 できるだけ快適に移動したい私なのである。


 とはいえ。


 私の大好きな村にやっと到着できるのだ!


 ふふふ、はやくみんなに会いたいし、温泉にはいりたい!


 


「ご主人様、お帰りなさいませ!」


「おっかえりー! どないやった!?」


「魔女様! おかえりなさいませ!」


 村の入り口には虫の知らせでも聞いたのか、ララやメテオ、ハンナ、ドレスなど村人数名がスタンバイしていた。

 わずか数日しか村を離れていないけれど、みんなの元気な顔を見ると、ほっと気が抜ける感覚。


 どうだったと聞かれても、とても一言じゃ返せない。


 屋敷に戻るとサジタリアスで起こったことをさっそくみんなに話すことにした。


・シュガーショックが辺境伯の城の窓を割って賊だと勘違いされたこと

・魔法使いのお姉さん相手に氷を溶かす荒唐無稽な余興をさせられたこと

・腐ったトビトカゲのこん畜生がやってきてドレスを汚してくれたこと

・モンスターを操ってたローグ伯爵がやっつけられたこと

・辺境伯と話がついてリリは村に滞在できるようになったこと

・クレイモアがお母さんと和解したこと



 わずか数日の間にいろんなことが起きた。

 ちょっとノンストップすぎる。

 自分でもびっくりするぐらいだ。



「えらい危険なことばっかりやん。くひひ、クエイクに行かせといて正解やったわ」


「いやいやいや、ほんまに笑い事ちゃうからね! ローグ伯爵の召喚したモンスターとか、死ぬかと思ってんから。マジでくさかったし」


 メテオはにへにへしながら煽り、クエイクは顔を赤くして怒る。


 確かに、私にとって死ぬかと思うようなことが起きた。


 それは自分のことを<<灼熱の魔女>>と名乗ることだ。

 あくまで、「どちらかというと」とお茶を濁したけど、羞恥心との戦いだった。


 その話を聞くと皆が笑う。



「いえいえ、ご主人様は灼熱の魔女ですよ。自称、ですけど」


「だから、その『自称』ってのが恥ずかしいんだってば。自称・神様とか自称・天才とかと同じで、かなり痛い奴だって思われたはずだし!」


 私は素直に思いのたけをぶちかます。


 私は魔女じゃない!


 どちらかと言えば、魔女っぽいだけなのだ。


 そもそも、魔力ゼロだって何度も鑑定を受けてるんだからね!



「にひひ、そんなことを言ってる割には天魔のやつを魔力切れで失神させたり、ドラゴンを燃やしたりしたのだ。ユオ魔女様は実はノリノリだったのだ」


「天魔って、あの天魔のシルビアですか!?」


「そうですよ。おかげでうちの城は窓が壊されたり、大洪水になったりしましたけど、かっこよかったです!」


 必死に抗議する私の隣でクレイモアが余計なことを言い、リリもそれに同意する。


「ノリノリと言えば、魔女様、新手の錬金術をやって、それもすごかってんで? もう、なんていうか、鋼鉄を飴細工みたいに練るというか」


 さらにはクエイクも目撃したことをペラペラとしゃべり始める。


「や、ヤバすぎるスキルだぜ。魔女様、一家に一人ほしい……」


 私の錬金術を聞いたドレスは呆然とした表情で不穏なことを言う。

 彼女の思っている錬金術と、私の錬金術はちょっと違うらしい。



「ノリノリのご主人さまを見ておけばよかったです!」


「うちも見たかったわぁ」


「ノリノリの魔女様!!? かっこよさそう!」


 ララやメテオは残念そうに言い、ハンナは目をきらきらさせる。

 だが、ノリノリなわけがない。


 断じて違う。

 

 しかも、リリの言い方だと、私がただの破壊魔みたいじゃないの。


 確かに、お城は壊したし、シルビアさんを気絶させたし、ドラゴンも燃やした。


 だけど、自分から望んでやったわけじゃない。

 それにドラゴンは変装した状態でやったから、ノーカウントだよね。




「……まぁ、ノリノリで暴走した女の末路は置いといて、えーと、とにかく、無事に帰れたことにお祝いしよ」


「ちょっと、私の話は終わっていないわよ! ノリノリの定義がおかしいでしょ!」


 断じてノリノリではない。

 いまだに一人で抗議する私なのである。



「ふふ、この点だけはご主人様と議論しててもらちがあきませんよね」


「そうですね無自覚すぎますよね」


「人間あきらめも肝心だぜ」


「はやく乾杯したいのだ!」


 だが、多勢に無勢で押し切られてしまう。


 あっれぇ、おかしいなぁ、私、領主様なはずなんだけどなぁ?


 色んなことを丸く収めたのに、もうちょっと尊敬されてもおかしくない?



「ふふふ、うちらの親愛なる領主であり、仲間であり、上司であり、ご主人さまでもあり、レンガ焼き職人であり、護衛者でもあり、破壊神でもあるユオ様にかんぱいや!」


 メテオはちょっと意地悪な顔をして、私のために乾杯をしてくれる。

 一人ふてくされようとしたら、この不意打ちだ。


 あぁ、もう、ずるい!

 

「かんぱぁあああい!」


 破壊神とかいろいろ言われてるけど、みんなが嬉しそうにしてるんじゃ文句は言えない。

 私ももちろん、乾杯に参加する。


 みんなの笑顔にちょっとだけ涙腺がじわじわしちゃったじゃん。



「あっれぇ、ご主人様、ちょっと目が赤くなってませんかぁぁあ〜〜〜?」


 そんなこんなしていたら、ララがやたらと絡んでくる。

 って、明らかにお酒臭い。

 誰よ、ララにお酒を飲ませたのは。


「ご主人様がいなくて寂しかったんですょぉおおお。いたわってくださぁいよぉお」


「ひゃぶ」


 ララは完全にキャラを崩壊させ、私にハグをしてくる。

 いったん落ち着けというが、彼女は力持ちである。

 なっかなか離してくれない。


「ちょぉっと待った! うちかて寂しかったんやからなぁ」


 絡まれているのをじゃれついているのと勘違いしたのか、メテオもこちらに抱き着いてくる。

 お構いなしにべったべた触られる。


 私は誓うのだ、この二人にお酒を飲ますのは絶対に要注意だと。



「待ってください! 私だってずっと我慢してるんです!」

 

 さらにはハンナも加わる。

 ハンナに至っては酒臭くなく、素で言っているようだ。

 何を我慢してるのか、よくわかんないけど。



「やめなさい、あんたたち!」


 三人にほっぺたをつままれたり、髪をさすられたりする私である。

 っていうか、こいつらやけにふにふにしてる。

 くやしいったらありゃしない。





「ユオ様、この度は本当にありがとうございました! これからもこの村でお世話になります!」


 その後、料理に舌鼓を打っていると、リリが満面の笑みでやってくる。

 もう何の心配事もなくなったらしく、その笑顔はまるで天使みたいだ。



「あたしだってユオ魔女様には感謝してもしきれないのだぞ! ここで料理店を開くのだ!」


 クレイモアは私の手をとってぶんぶん振ってくる。

 感謝されるのは嬉しいけれど、そもそも彼女はサジタリアスの騎士団の要だ。

 いくらなんでも、私の村に勝手に逗留させるわけにもいかないだろうけどなぁ。



「それならば大丈夫ですよ。クレイモアは私の護衛としてこの村に滞在するという形にしますので」


「おぉ、さすがはリリアナ様! 強引に騎士団から逃げようと思ってたけど、それがいいのだ!」


 クレイモアは相変わらず明るく笑う。

 さすがに剣聖が騎士団から逃げ出したら、ただごとじゃなくなると思うんだけど。


「いや、そんなんしたら、次は騎士団が『クレイモアを返せ!』って乗りこんでくるで? ほんまに堪忍してほしいわ」


「お姉ちゃん、それ、マジでありうるから!」


 メテオの冗談とも言えない言葉にみんなが笑う。

 

 リリに引き続き、妙なゴタゴタは避けてほしい。

 たぶん、辺境伯やレーヴェさんの胃袋に穴が空くと思うから。



 それはそうと、私には一つ、今すぐにやらなければならないことがあるのだ。


 それは、愛しの温泉タイム、である。


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