54.魔女様の村、冒険者も集まって順調に成長しています!

「えー、みんなも知ってる通り冒険者が増え始めたよね」


 冒険者や村人たちを受け入れてか数週間もたつと、噂が噂を呼び、冒険者が少しずつ増え始めた。


 最初のうちは一人、二人の物好きな冒険者ばかりだったのだが、今では週に10人単位で増え始めている。


 彼らはデスマウンテンという凶暴なモンスターの住む山を迂回して、徒歩でこの辺境の大地までやってきているのだという。


 うーむ、さすがは勇敢な冒険者。



「ハンスさんたち、すごいんですよ! 先日はついにあの陸ドラゴンをどうにか撃退できるようになったんです!」


 もともと冒険者パーティにいたリリが興奮した面持ちで、ハンスさんたちの活躍を語る。

 彼らも最初のうちは森のモンスターに苦戦していたけれど、めきめきと腕をあげることができたらしい。


 いや、トカゲ嫌いを克服できただけかもしれないけど。



「……冒険者にはあの化け物村長とハンナがえぐいトレーニングやってるからなぁ」


「あー、モンスターよりしんどい言うとったやつやん」 


 メテオとクエイクの話では、村長さんやハンナが冒険者の皆さんに「稽古」をつけているらしい。


 確かにあの二人に鍛えてもらったら、すっごく伸びそう……。


 そっちの方向で死傷者が出ないことを祈るばかりだ。



「メテオ、それで村の経済の方はどう?」


 冒険者の皆さんが頑張っているので、次は村のお金の話だ。


 やっぱり何をするにしてもお金は大事。


 そろそろ村の外に本格的な買い付けをしたい頃合いでもある。



「ふふふ、魔石や素材はめっちゃ順調に集まるし、順調にサジタリアスの市場に流してますわ! ほら、この魔石なんか極上品質!」


 メテオは机の上に冒険者たちのもってきた魔石を広げ、ご満悦の様子だ。

 冒険者の大半は魔石をメテオの商会に売り払って、現金に換えてしまうことが多いとのこと。


 私たちはというと、集まった魔石や素材をサジタリアスで売却し、村では買えないものを仕入れるための資金にしているのだ。


 それに温泉や酒場の代金として、魔石をどんどん使う冒険者も多い。

 ふふふ、冒険者の皆さん、ありがとう!



「そんで、面白いことがあるねん。一度、サジタリアスに帰っていった冒険者も、数週間もたったら温泉のために戻ってくるねん」


「……それって、つまり、温泉のリピーターが増えてるってこと?」


「そういうことや! あのハンスさんなんかこの村から離れたら腰痛が怖い言うてるからな。せやから、ドレス特製の腰サポーターを売りつけてやったで。ついでに武器と防具も」


「うひひ、えげつないことするけど、笑いが止まらん言う話やなぁ」


「こういう人、他にもけっこうおるでぇ。移住者用の住宅もぼちぼち埋まってきたからな」


 嬉しいニュースはまだまだ続く。


 最初は魔石や素材が目的だった冒険者たちも、温泉のとりこになってしまっているのだ。

 温泉リゾートの儲けも順調に伸びていて、メテオたちの言うように笑いが止まらない状態だ。



「でも、まだまだ足りないのよねぇ。図書館とか、研究所とか建てなきゃいけないものがたくさんあるからね」


 売り上げが伸びているとはいえ、私たちの目指す「世界一、豊かな村」にはまだまだ程遠い。

 村人の上質な教育のためには図書館が必要だし、温泉について調査する研究所も建てたいと計画しているのだ。


 特におじいさまの残した資料を解析する研究者は絶対に必要。

 それも一人や二人じゃ効かないレベル。

 頭のいい人を何人も雇いたい。



「図書館はぜひ、欲しいです! 私も頑張りますね!」


 私の提案にリリがさっそく賛成してくれる。

 リリいわく、図書館があるのとないのとでは、暮らしのうるおいがぜんぜん違うとのこと。

 聞けば彼女は根っからの本の虫だという。


 それにしても、彼女の顔色はすこぶるよくなった。

 もともと根っからの美少女だったんだろうけど、今では光り輝くような雰囲気。

 この村に来てから、肌艶も髪艶もどんどん良くなっていく。


 なんていうか、聖女様みたいな雰囲気さえ漂ってきた。



「そうだ。リリには協力してもらいたいことがあるから、リゾートに来てくれる?」


 そして、私は彼女にあることをお願いしようと計画していた。

 それはきっとこの村にもっとたくさんの笑顔をもたらすだろう。


「ひ、ひぃ、協力ですか? もっともらしい言い方が逆に怪しいですぅ」


 私の気持ちとは裏腹に、リリは妙な勘ぐりをしてちょっとだけ後ずさる。

 私はどうにかこうにか彼女を説得して、リゾートにつれていくのだった。




◇ ハンス、りくつのおかしい修行をする



 俺の名前はハンス、禁断の大地の村に滞在している冒険者だ。

 この村に来てから腰を抜かすこともあったが、今ではピンピンしている。


 その理由は温泉だ。


 俺は一度、温泉に入ったその日から、熱のとりこになっちまったのだ。

 特に俺が爆弾を抱えている腰、この痛みに効く。

 たまにグキッとなりそうになっても、温泉に入ってぼんやりしていると治ってしまうのだ。


 もう、俺は温泉なしでは生きていられない体になっちまったらしい。

 最初はカネを稼いだらさっさとおさらばするつもりだったのに、この村をなかなか出ることはできないでいるのだ。


 そして、俺がこの村を出られない理由にはもう一つある。

 


「ほらほら、もっと早く避けないと真っ二つじゃぞい?」


 剣聖のサンライズおよび、その孫が不定期に開催する冒険者向けのトレーニングだ。

 もはや伝説上の人物となったサンライズに稽古をつけてもらえるわけで、こんなチャンスは二度とない。


 しかし、剣聖のサンライズは容赦がない。


 本当に死ぬかもしれないと思うような攻撃を仕掛けてくる。

 とはいえ、あっちの得物は木の枝で当たったところで本当に死ぬわけではない……はず。


「ハンスさぁあああん、死んでくださぁああい!」


 そして、俺たちに稽古をつけてくれるのが、サンライズの孫のハンナだ。

 最初見たときは温泉のスタッフで金髪碧眼の可憐な少女だった。


 それなのに、尋常じゃないほどえげつない攻撃を仕掛けてくる。

 殆どの攻撃が致命傷を与えかねない一撃で、はっきり言って、一度の訓練で5回ぐらい俺らは「死ぬ」。

 

 いつしか俺たちはハンナのことを<<狂剣>>と呼ぶようになったほどだ。



 ある日、サンライズに強くなる秘訣について聞いてみた。

 すると、こんな返事が返ってくる。




「よいか、まずはモンスターと必死で戦うじゃろ?」


「はい」


「あるいはこうやって必死にトレーニングするじゃろ?」


「はい」


「戦うと疲れるじゃろ?」


「はい」


「疲れると腹が減って夕食になるじゃろ?」


「はい」


「夕食のあとは温泉に入るじゃろ?」


「はい」


「それから、しっかり寝ると強くなっておるのじゃ」


「……!?」



 俺の口からは「いや、そのりくつはおかしい」という言葉が飛び出しそうになる。


 『疲れ果てて、温泉に入ったら強くなる』なんて、そんなことがあるわけないじゃねぇか!


 このじじい、やっぱりもうろくしてやがったのか!?


 とは言え、一度ぶっ飛ばされた経験のある俺はツッコミを入れることはできない。

 

 ただただ、サンライズの言葉に従うだけだ。



 しかし、数週間後、俺達は剣聖の言葉が本当だったことに気づく。


 あの陸ドラゴンとまぁまぁの戦いができるようになってきたのだ。

 完全に息の根を止めるまでにはいかないが、それでも生きて帰れるだけまだマシだ。

 

 俺たち、少しずつ、強くなってる!?

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