8.ラインハルト家の受難:一方、そのころ、魔女様の父親は卒倒しかけていた
「どういうことだ!? ユオの魔力はゼロだったはずだぞ!?」
ユオを追放した父親のガガン・ラインハルトは大きな声をあげた。
その理由はスキル神殿から上がってきた書類に、ユオのスキルについて異様な報告が書かれていたからである。
抜粋すると、以下のようなことが書かれていた。
【名称】ユオ・ラインハルト(ガガン・ラインハルト公爵の養女。血縁なし)
【スキル名称】ヒーター(灼熱)
【スキル解説】対象を温める能力。通常はお湯を沸かす程度の能力。ただし、過去に災厄をもたらした灼熱の魔女と同等のものである場合には非常に危険。
【注意事項】可能性は低いが、スキルが完全に発現した場合には危険度SSS+++。要・国家管理。
ガガンは危険度SSS+++という見たことのない文字に目が点になる。
「な、何を言っている……!?」
「危険度SSSだと‥‥‥!??」
「要・国家管理!?」
「な、な、な、なんだこれは!???」
ガガンは報告書を読みながら、手の震えが止まらない。
頭もクラクラしてきた。
国家管理クラスのスキルと言えば、剣聖や聖女といった国の動向を左右する存在である。
あの出来損ないの娘にそんな力があるとは、どう考えても理不尽だった。
しかも、危険度SSSというのは、『災厄クラス』ではない。
『災厄そのもの』のランク付けである。
しかもそれに+の記号さえついている。
辺境に住み、城をたやすく破壊するドラゴンですら災厄レベルで言えば危険度AからBクラスなのだ。
かつて各国が団結して戦った北の魔王や、今では伝説となった最果ての古竜ですら危険度SSなのである。
そもそも、人間のスキルの評価に『危険度』という言葉は用いられない。
モンスターや魔族、あるいは竜に対して使う言葉なのである。
人類の、いや、この世界全体の脅威になりかねないランク付けだった。
「数日中に報告されたし……だと!?」
報告書の最後の方には、ユオの処遇について王室に報告するように記載されている。
これを見ればガガンのするべきことは明らかだった。
ユオを王都に呼び戻し、それ相応の対応をするということである。
国家管理クラスのスキル持ちということになれば、ラインハルト家での存在感も大きく変わる。
確かに危険なスキルではあるが、理性でコントロールできれば有用なスキルとも言える。
ユオがもしも、自分よりも遥かに強力な攻撃力を持っていたら?
もし、ユオが自分よりも国家の中枢に食い込んでいったら?
ガガンは自問し、愕然とした気分になる。
リース王国は家柄だけではなく、実力も大いに評価する。
万が一の話ではあるが、ユオにラインハルト家を譲る可能性すらも出てきたのだ。
その発想にガガンは身震いする。
「くそっ、あのとき、ユオを引き取らなければ……」
ガガンはユオを父親から引き受けたときのことを思い出す。
そもそもユオはガガンの娘ではない。
彼の父親が辺境から連れて帰ってきた孤児であり、どこの馬の骨とも知らない平民だったはずなのだ。
それを無理やり自分の娘として育てるようにと言われ、渋々従ったのが15年前のことである。
「もしも、追放が女王にばれたらどうなる?」
ガガンは自問する。
一方、今回の追放事件の首謀者として、ガガンの責任は明らかだった。
よくて隠居生活であり、現在のような豪華な生活はできなくなるだろう。
権力をもったユオが今度は自分をあの辺境、<<禁断の大地>>に追放することだってあり得る。
ガガンは一度だけ遠征したことのある辺境の様子を思い出す。
草木の生えていない荒涼とした大地に、どんどん溢れる強モンスター。
補給することもできず、わずかに休息を取りながら生き抜くしかない。
まさにこの世の地獄。
栄光を極めた自分がそんな場所に追放されるなどあってはならないと身震いする。
「こんなものは何かの間違いだ! そもそも、魔力ゼロのものに家督など譲れるか!」
ガガンはユオを王都に呼び戻さないことに決めた。
つまり、神殿からの報告書を握りつぶすことに決めたのだ。
その決断がラインハルト家の未来を大いに左右することを、彼はまだ知らない。
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