6.魔女様、生ぬるい水たまりを発見して、「あっ、これ、古文書でやったところだ!」と気づく

「……なに、この匂い? ララ、変なにおいがしない?」


 ハンナが去った後、あたりに変なにおいが漂っていることに気づく。卵のくさったような、妙なにおいだ。


 どうやら私が爆発させたあたりから漂ってくるらしい。


「水たまりができてる……?」


 私がモンスターを爆発させたことで、崖には大きな穴が開いていた。

 そこから水が噴き出していて、水たまりができているのだ。


 吹き出している水は3種類ほどあって、透明の水、ちょっと黄色く濁った水、白く濁った水の3種類だ。それぞれが合流して水たまりをつくっている。

 ひょっとしたら、もっとあるのかもしれない。



「ご主人様、これはただの水たまりじゃありません! この水、妙に濁ってますし、においもあります! 危険かもしれませんので離れてください」


 ララは慎重にその水たまりに近づくと、鼻をハンカチで覆ってそんなことを言う。

 ララはこの水のにおいを「地獄みたいな臭い」といって警戒する。


 だけど、私の直感ではそんなに恐ろしいものには思えない。

 地獄だなんて怖がり過ぎじゃないかしら。


「ふぅむ、たしかに変な水だよね。あ、ちょっと温かい」


 乳白色をした水たまりに指をつけてみると「とろっ」とした感覚がある。

 別にびりびりすることもないし、体に害があるわけでもないみたいだけどなぁ。


「この水たまり、かなり深いですよ。池とか沼に近いかもしれません。こんなものがどうしてできあがったんでしょう…」


 ララは水たまりに棒を突っ込んで、その深さを計測する。どうやら50センチはあるようでかなり深いことがわかる。


「なんなんだろうね、これ…」


 私たちは妙なにおいのする水をちゃぷちゃぷ触りながら、しばし考えるのだった。

 あたりを見回せば大きな水たまりのまわりに岩がごろごろと転がっている。


 私はその光景にひどい既視感(デジャヴ)を覚える。

 そう、私はこれをどこかで見たことがあるのだ。

 前世とか、来世とか、そんな不確かなものじゃなく、つい最近、どこかで……。


「あれだ! これって古文書で見たやつだ!」


 目の前の光景は屋敷の資料室でみた風景にそっくりだったのだ!


 転がる岩!


 白濁した水!

 

 そうだよ、あの本の風景そのままじゃん!

 本の中で女の人が裸になって水につかっていた、あの光景なのだ。


 しかし、この水の温度はけっこうぬるい。


 裸で入るとなると、ちょっと気合がいりそうだ。

 とてもじゃないけど、あの本の女の人みたいに気持ちよさそうな顔はできないだろう。



「こうなったら……温めるっきゃないよね」


 私はヒーターのスキルをこの温い水たまりに使ってみることにした。

 水たまりの水全体が温まるように念じるだけじゃなくて、おおもとである水源の温度を一定に保つようにしてみよう。


 お湯に手を浸けて、「気持ちいいぐらいの温度になって」と念じてみる。

 その刹那、水面からふわぁっと白い湯気が立ち込め始める。


 うん、いい感じ。

 私はうずうずしながら靴を脱ぎ始める。


「まさかあの本を真似してこれに入るつもりなのですか!? 妙に白濁してますし、ほとんど沼ですよ!? 毒があって死ぬかもしれませんよ!?」


 ララはここでようやく私の意図を理解したらしい。

 そう、まさかのまさか、私はこのお湯の中に足を突っ込んでみようと思うのだ。


 昔から無鉄砲さだけが売りの私なのだ。

 子供のころから座右の銘は「見る前に飛べ」なのである。


「よぉし、とりあえず足だけでもいれてみようかな」


 ララの忠告もそこそこに、私はスカートをたくし上げる。

 そして、ゆっくりと水の中に足を入れる。


 どうやら底は石でできているみたいで、砂がたまっているのかざらっとしていた。

 ふぅむ、まるでお湯を入れるために造られた物みたいだな……。



「うそぉっ!?」


 私は足を襲う『衝撃』に思わず声が出てしまう。

 お湯の中に足をいれた刹那、下半身全体にものすごいエネルギーが広がったのだ!


 それも、ただの温かさじゃない。

 癒しの力そのものが上半身にまで駆け巡ってくる。

 こんなの経験したことない!



「ご主人様!?」


 ララは私の顔を覗き込んでくるのだが、大丈夫であることを念入りに伝える。


 うわ、やばい、めっちゃ気持ちいいじゃん!


 できることなら体全身、入りたい。

 

 ……いや、もう、入っちゃうしかないでしょ!



「えいやっ!」


「ご主人様、お気を確かに!?? 毒だったらどうするんですか!?」


 私はあたりに誰もいないのを確認すると、ぽぽいと衣服を脱いでしまう。

 それから髪の毛を上にとめて、思いっきりお湯の中に飛び込むのだ。

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