2049年5月17日 「本場では」論議

 さて次は。思い切って、バッサリめくってみるか。


        ***


「2049年5月17日


 今日のきゅうしょくはスパゲッティ。おいしかったけど、あやのさんがほんばではスプーンをつかって食べないっのてうるさくって、うんざり。スプーンつかってたべてもいいじゃない? どうして、ほんばの人のまねをしなくちゃいけないの?」


        ***


 あったあった、そんなこと。

 当時、世界の文化を学ぶという名目で、毎週水曜日の給食には各国の典型的なメニューが出ることになっていたのよね。学校帰りに、私は初海さんに説明した。


「給食、水曜日はいろいろな国のお料理が出るの。今日はスパゲッティで、ほとんどの子がフォークとスプーンを使って食べていた」

「私もそうすることが多いです。やっぱり、食べやすいんですよね」

 そう言う初海さんに、

「でしょ? でも、そのときに、綾乃さんが言ったの。本場ではスプーンを使ったりしないわ、ちゃんと現地の人がやるように食べないと恥ずかしいわ、って」

 ちょっと得意げな、綾乃さんの声音を真似てそう言った。


「スプーンを使って食べていた子たちは、気まずそうにスプーンを置いて、フォークだけで食べはじめた。でも、私はスプーンも使って食べ続けた。だって、ここは本場じゃないし、そもそもスプーンを使うことがマナー違反というわけじゃない。単に、現地の人は使わないというだけ。なのに、それを真似する意味わからなかったから」

「貴禰さんらしい(笑)」

「どういう意味? まあいいわ、とにかくね、そうやって食べている間ずっと、綾乃さん、そんなの変、本場ではそんな食べ方しないのにって、ずっとうるさかった」

 うんざりした表情で言うと、ありがちですね、と同情された。


 それで―。

 そうそう、確か続きがあったのよね。その次の週の水曜日。どれどれ―?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る