こうなった裏にはちょっとしたバトルがあったのだけど

 初海さんを『ねえや』に、という話の前には、主にお父様とのちょっとしたバトルがあったのよね。


 あの年、私が小学1年生だった11月のある日、クラスメイトが言った。私は運転手付きの車で(自動運転だけれど、ちゃんと運転手さんが乗っているのがステイタス、らしい)学校に送迎されている、私の家はやんごとない家系で、だから他の子よりも偉いの、と。他にも、運転手付きの車で送迎してもらっている人はいると反論され、彼女は言った。

「そうよ! だから、私も九条さんも紫塔しとうくんも、やんごとないおうちの子なの! みんなとは、違うの!」


 …それを聞いて、私は固く決意した。2年生からは、絶対に電車通学すると。

 一緒にされるなんて、ごめんだもの。


 それは実際、そう難しいことではないように思われた。うちから最寄り駅までは、歩いて10分ほど。そこから電車に乗って、学校の最寄り駅までは、急行で4駅、時間にして、20分ちょっと。そこから学校まで、さらに歩いて10分。クラスメイトの大部分は、そんな感じで通っている。


        ***


「だめだよ! 危ないよ! 頼むから考え直して!」


 けど、お父様とお母様にそう言ったら、お父様に猛反対された。お母様は一言、「いいんじゃないの?」と言っただけだったのに。


「危なくなんかないわ。ほとんどの子がそうやって通っているもの。学校の近くの駅からはみんなが歩いているし、先生も見守りに立っているって」

「だけどねえ…」

「とにかく! 本当はね、今すぐにも電車通学にしたいんです、けど、それは無理でしょうから、だきょーあん出しているんです! 2年生になったら、私、車で学校には行きません。車で行くなら、いっそ行かないから」

 強い口調で言うと、お父様は、しばらく考えさせてくれ、と言った。


 翌日。寝不足顔のお父様が、これならどうだい? と言ってきた。


        ***


「君と一緒に学校まで付き添ってくれる人を雇うんだ」

「ええ? それじゃ、今とあまり変わらな―」

「まあまあ、最後まで聞いて。まずは、そうして一緒に通ってもらうんだ。1年? いや、半年でいいかな? そうして、それで問題ないとなったら、1人で通うようにしていく。どう?」


 そうやって、いきなり1人で通学じゃなく、徐々に慣らしていくんだ―。

 さも名案! と言った顔をしているけれど、お父様、その付き添いは誰がやるの? そう言おうとした矢先、だからね、住み込みでの送り迎えもできる、君のお世話係を雇おうと思う、それなら安心だ、と言われた。


 今どき、住み込みのお世話係? そんな人、一体どこで見つけられるって言うの?  というか、私1人のために、人を1人雇うの?

 一瞬見えた希望の光が、また彼方に消えた気がした。

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