第3話
「……で、何でまたここに来たのか聞かせてくれるかい」
翌日。俺はまたもや時音の家を訪れていた。
「違和感がないか?お前は、あの二人を見て何も思わないのか?」
時音はうんざりとした顔でこちらを見据え、
「またその話?もういいよ。それにしても航空管制の仕事って随分と暇なんだな」
「それは今、関係ないだろう」
確かに二日連続で訪れていたら暇人に思われても仕方ない。しかし、航空管制官というのは早番や遅番など、空き時間が多い仕事である。よって、この言葉は心外だ。
「まあいいや、お前にそこまでの興味はないよ。で、違和感があるかって?そりゃあ、あるに決まってるだろう。あの双子だけじゃないさ、僕の周りは変人揃いだ。まあそれは、お前には関係ないか」
「いちいちうるさいぞ、余計なことばかり」
時音は鼻歌を歌いながら、三枚の札を見せてきた。札はそれぞれ異なった色をしており、何やら文字が書かれている。しかしあえて潰し文字で書かれているのか、読み取ることが出来ない。
「そんなこと言うなら、この札はあげないよ」
時音は、急にトーンダウンした。
「なんだそれは」
しかし札だけ見せられても、訳がわからない。何かの効力がある札なのか、それとも彼がただ遊んでいるだけなのか。遊びにしては、少し凝ってはいるが。
「これは……人の願いを一枚につき一度叶えてくれる札。これを作るの大変だったんだよ。まあ、それはいいや。例えばお前が弟に普通になって欲しい、と思うならその願いを叶えてくれるってワケさ」
札で自らを扇ぐ時音。恐らく有難い札だと思うのだが、そんなことをしていいのだろうか。
「本当か」
疑わずにはいられない。そんなに都合が良い話、あってたまるか。おとぎ話の世界じゃないんだぞ。
「ホント。……試作品で試してみるか。札よ、『ここに川越芋のパフェ一つ、くれ』」
試作品だというその札は、一瞬でパフェに変貌した。時音はどこからかスプーンを取り出し、美味しそうに口に運んでいる。時音の満足げな表情を見たのは、必死ぶりな気がする。
「……しかし本当だったとして、どうして三回分なんだ?」
「保険だよ、万が一元に戻したくなった時のね。まあお願い事は三回までって言うのは、昔からそうだろう?ランプの魔人然り」
時音は札の束をこちらへ差し出した。束と言っても、三枚しかそこにはないのだが。
「持っていくと良い。まあ、責任は負わないけどね。道具は発明した側じゃなくて、使う側のせいで非難されるものさ」
言い方がいちいち癪に障るが、とりあえず受け取ることにした。今日帰ったら試す。これであの奇妙な生活環境とはもうオサラバだ。せいせいする。
「今日は帰る」
これ以上ここに居る必要を感じられなかったので、去ることにした。
「……あんまり、人の境界線を変えるもんじゃないよ。
最後の言葉は無視をして。
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