第10話 捕縛と玉藻

 待て待て・・・シャルはまだ分かる。

 だけど、どうして、澪が捕まっているんだ?

 澪が負けた・・・?

 そもそも、捕まることは絶対にありえない。

 なぜなら、澪の異能の攻撃を防げるものは存在しないのだから。

 余程の速度で修復する壁があれば、閉じ込めることは可能かもしれないが、そんなものは存在しない。

 つまり・・・これは嘘の映像か。


「これがどうしたんだ?」


「一応言っておきますが、この映像は一切嘘偽りのない本物です。」


 その言葉を聞いた瞬間、バキッと俺の手元から何かが割れた音がした。

 手元を見ると、持っていたタブレットの画面がひび割れている。

 ついつい力を入れてしまったようだ。


「・・・嘘だな。シャルはともかく、澪が捕まるはずがない。異能の性質上、眠らせる以外の方法がない。だけど、澪は今起きている。」


「えぇ、そうですね。ただ、それは異能が使えればの話です。」


 異能が使えれば・・・?

 異能を使えなくする薬や道具があるってことか?


「異能が使えないわけないだろうが。」


「そうでしょうか。」


「・・・。」


 正直、本物かどうかが分からん。

 でも・・・寝てる映像を出した方がいいにもかかわらず、寝てない映像を流したのはどうしてだ?

 これが本当だからか?


「・・・音声はないのか?」


「はい。ここまでの電波の都合上、いろいろ工夫しましたが映像を流す場合、音声は無理でした。流すとしても途切れ途切れになるでしょう。」


 確かにここまで深ければ、そうそう電波はとどかないだろう。

 逆によく多少粗いとはいえ、映像を流せたな。

 くそ・・・これが本物だったらマズすぎる。

 シャルと澪の命が理事会の手のひらにあるも同然だ。

 澪は有名だから殺したらまずい。

 そうそう何かはできないはずだ。

 シャルは・・・学会では有名だろうが、表ではほとんど知られてないだろう。

 これは・・・詰んだな。


「・・・分かった。俺の負けだ。」


「ご理解いただきありがとうございます。ではこれを。」


 そういうと、女性は随分とごつい手錠を持ち出した。

 俺の手を後ろにもっていき、手錠をかける。

 そして、俺がつけている狐面へと手を伸ばした。

 だけど、これを渡す気はない。

 玉藻や稲穂の存在が人間にバレるのはまずい。

 二度と会えない可能性もあるが、俺のせいでバレて、あいつらに被害が出る方がつらい。

 悪いな、玉藻、稲穂、お別れだ。


「『契約解除。』」


 一方的な契約破棄。

 それと同時に俺がつけていた狐面がふっと消える。

 俺の中にあったエネルギー、稲穂の存在が消えるのを感じた。


「ごぼっ!」


 それと同時に、俺の体中から血が噴き出す。

 当たり前だ。

 眷属のような扱いだった俺が一方的に契約を解除したのだ。

 その報いが俺に返ってくる。

 死にはしないだろう・・・多分。

 突如、血を噴出して倒れた俺を見て、慌てている黒スーツどもを見たのを最後に俺は意識を失った。


――――――――――――――――――――


 ガランッと突如大きな音がなる。

 私は音がした方向を向いた。

 多分・・・妖狐の子供が何かを倒したのか壊したのでしょうね。


「はぁ・・・また修理しないと。」


 この世界は私達妖狐が生まれる場所。

 私達の妖狐の力が複雑に絡み合って生み出されている空間でもあるから、力を使えば簡単に修復できる。

 のだけど・・・妖狐の子供って結構やんちゃなのよね。

 狐の大妖、玉藻前として、最近、力の使い方を間違っている気がしなくもないわね。

 うふふ、これも優斗君が来てからかしら?

 そう思って、音がした場所をのぞき込むと、稲穂が呆然と座り込んでいた。


「稲穂?どうしたの?」


「ゆーとが・・・ゆーとがぁ・・・」


 泣きそうになっている稲穂が指さす先を見ると、そこには木箱があった。

 まさか・・・。

 木箱を開けてみると、そこには今まで稲穂が優斗に作ってあげた狐面全てが入っていた。


「嘘・・・でしょう?」


「ゆーとぉ・・・」


 いや、あの優斗君がそう簡単に死ぬはずがないでしょうね。

 おそらく、何かがあって私達のことを隠さないといけなくなって、一時的に契約を解除したというのが一番高確率かしら。

 それでも強制的な契約解除の反応で死にかけているのはまず間違いないわね。


「大丈夫・・・大丈夫よ、稲穂。優斗君は生きてるわ。」


「・・・ほんと?」


「えぇ。ほら、優斗君がそうそう死ぬはずがないでしょう?」


「うん・・・」


「少し休んでいて、私が少し調べてくるから・・・ね?」


「うん・・・」


 稲穂を私の幻術で眠らせる。

 まったく手のかかる子ね。

 さて、私も動き出しましょうか。

 まったく・・・本当に困ったら私を呼ぶように言っておいたのに・・・稲穂も優斗君も仕方ない子ね。

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