第8話 呼び出し

 自分の家に戻ってきた俺の手からは稲穂からもらった木箱は消えている。

 まぁ、別になくしたわけじゃないから問題ないぞ。


「時間は・・・あ、端末外してたんだった。」


 俺は端末を取りに行って腕に再びつけると、何か連絡が来てることに気づいた。


「ん?なんだこれ?」


 送ってきた相手の名前が『統括理事会』になっている。

 どうして俺にこんなところからメールが?

 なんか嫌な予感がする。

 俺は嫌な予感がしつつもメールを開いてみる。


「おいおい・・・洒落にならねぇぞ。」


 つらつらと書いてあるが、内容としては『お前が狐面であることは分かっているから、中央塔に来い』とのことだ。


「うっそだろぉ・・・」


 やっぱり、澪を助けるために狐面を入れ替えた時のせいか?

 でも、そうでもしないと間に合わない可能性もあったからな。

 あぁ・・・でもなぁ・・・。


「仕方ねぇ。腹くくっていくか。」


 おそらく、本気を出せば、十分に逃げることは可能なはずだ。

 逃げることに関して言えば、俺はほぼ最強だからな。


「ちっ、準備したらいくか。」


 俺はこの時の自分の想定がはるかに甘かったことを後で知る。

 まさか、理事会があそこまでやるとは思いもしてなかった。


――――――――――――――――――――


「ここかぁ。」


 人口島の中央に建てられている最も高い建造物。

 中央塔『天鉾』、最新技術の塊ともいえるこの建造物は特級レベルの攻撃ですら防ぐと言われている。

 本当にそうなのは分からないが。


「というか・・・やっぱりこの格好で来るのは失敗したか?」


 今、俺は中央塔の入り口付近に立っているが、周りが騒がしい。

 なぜなら、俺は今、黒い狐面をつけているからだ。

 まぁ、素顔で行くよりも、狐面で行った方が身バレが防げそうだからだ。

 どの道バレてるから、ほぼほぼ意味ないけどな。


「さてさて・・・入るか。」


 中に入ってみると・・・おぉ、広いな。

 エントランスの時点でかなり広い。

 というか、呼び出されたはいいが、俺どこに行けばいいんだろうな?

 俺がエントランスできょろきょろと周りを見回していると、遠くから黒スーツを着た女性が近づいてくるのに気付いた。

 というか、この人強いな・・・多分、澪と同等クラスの実力があると思う。


「狐面様、ようこそ、天鉾へ。ご案内いたします、こちらへ。」


「あ、あぁ。ありがとう。」


「いえ。」


 俺は女性に先導されて、奥の方へ移動する。

 何度も関係者以外立ち入り禁止の扉を通り、ずっとまっすぐ奥へと歩き続ける。

 しばらく歩き続けると、一番奥にはエレベーターが1台あった。


「こちらへ。」


 正直・・・エレベーターは密閉空間だからあまり行きたくないんだが・・・ええい、こうなったらもうやけくそだ。

 俺はエレベーターの中へ入る。

 すると、女性はボタンが並んでいる部分の下にあるカバーを外して、何か操作した。


「ん?」


 すると、エレベーターは下へと降りる。

 地下1階・・・2階・・・3階・・・4階・・・5階・・・。

 待て待て・・・このエレベーター、地下5階までしかないにもかかわらず、まだ下に降りてるぞ?


「どこに行っているんだ?」


「一番最深部です。普段なら我々以外は立ち入り禁止ですが、狐面様は特例により立ち入り許可が出ています。」


「そ、そうか。」


 え?まずくね?

 最深部とかどこまで行くの?

 俺の影移動、立体的な移動はそこまでできないんだけど。

 これ、俺逃げられるかな・・・。

 まぁ・・・倒せばいいだろ。

 この人、1人ならどうにかなるし、2人はまぁギリ、3人からはほぼ無理だなぁ。

 ともかく、エレベーターはかなり長い間、下に降り続け、地下100階くらい行ったんじゃないかってぐらいのところでようやく止まった。


「こちらです。」


 再び、まっすぐ歩き続けると、ようやく目的地へたどり着いたようだ。


「なんだここ・・・。」


 たどり着いたのは、単純に真っ白な部屋だ。

 広さは・・・澪専用の訓練場より少し広いくらいだろうか。

 白いから距離感がつかめねぇ。


「こいつが噂の狐面か?」


「やあ、ようこそ、秘密基地へ!」


 中にはなんかピリピリした雰囲気のイケメンと、馬鹿っぽそうなチャラ男がいた。

 こいつらも両方とも強いな・・・一番強いのは、俺を案内してきた女性みたいだが、ほとんど実力に差はないだろう。

 俺は警戒しながら立っていると、いきなり声がどこからか響いてきた。


『こんにちは、狐面・・・いや、空谷優斗。』


「誰だ?」


『統括理事会の1人・・・だと思ってもらえればいい。』


 ちっ、名前が分かれば間接的に呪えたのにな。

 そういうのは対策してるってか。


「俺みたいな一般人に理事会様がいったい何の用だ?」


『そうだな、単刀直入に言おう。君が持っている聖遺物を渡したまえ。』


「せいいぶつ?」


『君が持っているその狐面のことだよ。それをつけることで異能を得ているのだろう?』


「これか!?」


 なんか勘違いしてるっぽいな。

 これは誰でも使える物じゃないというか、俺しか使えないけどな。

 契約で手に入れているものだからな。

 だから、他の人がつけても俺と同じように力をふるえない。


『そうだ。渡してくれれば、即解放しよう。』


「渡すかよ。そもそも、これは俺以外使えないしな。」


『別に今すぐ使えなくとも構わないのだよ。それは研究するだけの価値がある。』


 面倒だなぁ。

 ここにいる3人を叩きのめして逃げるか。


「それでも渡す気はねぇよ。」


『ふむ・・・どうやら力を得て、傲慢になっているようだな。まだ若い頃にはありがちなことだ。仕方ない。トロワ、カトル、サンク、そいつを捕らえろ。』


「「「了解。」」」


 こりゃ、戦闘回避は無理だな。

 いつの間にか、俺が入ってきた入口は閉じられてるというか、ドアがどこにあったかすら分からなくなってるし。

 3人を倒すしかなさそうだ。

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