第6話 迫った危機1

シャル視点。

――――――――――――――――――――

 はぁ、忙しい忙しい。

 私の名前は東雲シャル。

 14歳だけど、これでも人口島の研究員の1人よ。

 それも特待のね。

 というか、あいつはそれを分かってるの?

 あいつというのは、私の忙しさの原因となっているあいつのことよ。

 私はこれまで挫折というものはなかったわ。

 研究をすれば多大な実績を手に入れ、開発をすればすぐに莫大な利益を手に入れてきたわ。

 もちろん、いくら天才の私でも研究や開発で一度も失敗なしとは行かなかったけど、失敗はすぐに修正して必ず成功させてきた。


 だけど、この島に来て、初めて挫折を味わったわ。

 あいつ、空谷優斗の異能『空白ブランク』。

 全力で発動すれば、センサーもカメラも異能による感知すらも誤魔化す絶対的な隠形の異能。

 それを感知できるようにしろという研究は私にとってやりがいがあるものだった。

 数か月は。

 でもすでに私が研究し始めて1年も経つ。

 まさか、たった1人の異能のために1年も使うだなんて!


「これならいけるはず!」


 だけど、今回の実験でとっかかりは得た。

 あと1か月もすれば、きちんと感知できるシステムを組めるわ!

 でも・・・やっぱり、あいつとのやりとりも悪くないというか・・・あぁ、もう!

 とっとと完成させるわよ!

 今度は・・・あいつの異能を機械で再現できないかやってみようかな・・・。

 いやいや!

 違うでしょ、私!


「あぁ、もう!あいつが関わるとなんか変になる!」


 私が機械をいじっていると、なぜか入口から誰かが私の所へ来た。

 あいつが戻ってきたのかな?


「あんた、忘れ物でもした・・・の・・・」


 入ってきたのは黒スーツを着てサングラスをつけた女性。

 多分、理事会の奴らの手下ね。

 理事会直轄の警備・諜報・管理部隊『ハウンド』。

 全員、強力な異能持ちで、ほとんどが情報隠蔽されており、実は日本で10位以内の実力を誇る者もいるとされている組織。

 そんな奴がいったい私に何の用?


「何?何しに来たの?」


「東雲シャル博士ですね?」


「そうよ?あんたは『ハウンド』であってる?」


「はい。『ハウンド』のトロワといいます。」


 フランス語で数字の3を意味する名前ね。

 おそらく偽名ね。


「で、名無しさんが何の用?」


「東雲シャル博士。あなたに協力を要請しに来ました。」


「はい?」


 協力?

 私ができるのは研究や開発だけ・・・秘密裏の研究の要請なら、わざわざ監視カメラやセンサーが多数存在する研究所には来ないはず・・・。


「あなたもご存じでしょうか?正体不明の化け物とそれと戦う人影の噂を。」


「聞いたことはあるけど・・・それが何?私とそれに何の関係があるの?」


 最近、よく噂となっている。

 異能なんてものがあるのに、都市伝説だの騒いでるのは馬鹿だと思ってた。

 というか、異能で誰かが変身したものじゃないの?


「実はあの噂についてですが、化け物の方は現在調査中ですが、人影の方は特定しました。」


「ただの噂じゃなかったのね。」


「はい、そしてその人影があなたの研究対象である異能第一学園高等部2年の空谷優斗です。」


「はい?」


 あいつが?

 そんな馬鹿な話はありえないわ。

 あいつの異能はただの隠形のみの効果しかない・・・いや、待って。

 私が気づいてないだけでそれ以外にもあるっていうこと?


「混乱されるのも分かります。ですが、これは確定情報です。」


「嘘よ・・・あいつの異能に暗殺ならともかく戦闘に使える効果はほぼないわ。」


「こっちについてはまだ不確定情報ですが、空谷優斗は着用することで別の異能を発動できる道具を持っているようです。現在、確認している範囲では、身体能力を向上させるものと相手の体を一時的に硬直させるもの、それに加えて影に潜り込むものを持っているようです。」


「そんなの聖遺物級でしょ!?ありえるの!?」


 聖遺物、古くから存在する例外的な能力を持つ道具。

 ほとんど見つかってないって聞くけど・・・それを複数所持ですって?


「正直なところ、詳細は不明です。」


「というか・・・こんなところで話していいの?」


「あぁ・・・情報漏洩はご安心ください。現在私の権限でこの研究所の警備システムは切ってあります。私が来たという履歴やこの部屋で話した履歴は一切残りません。」


「そんなことして大丈夫なの!?」


「はい。」


 今、この研究所は外部からの攻撃に一切無防備ということ。

 いくら場末の研究所といっても、ここでも十分に貴重な研究をしているのよ!

 なのに、あっさりとトロワとかいうこの女はあっさりとうなずいた。


「私がいる時点で、この研究所が襲われても被害がある可能性はほぼ0です。」


「簡単に言うのね。で、結局、協力って何すればいいの?」


「話が早くて助かります。能力を見る限り、我々でも確保はかなり厳しいものとなります。聖遺物を戦闘中に破壊するということになってしまえば本末転倒。そのため、東雲博士には人質になっていただくことで安全に対象を確保したいと考えています。」


「ふーん、私が協力する必要はないわね。」


 そんなの私が協力する必要、一切ないじゃない。

 それよりも・・・あいつ、そんなこと隠してたのね。

 絶対白状させて、私が調べ上げてやるわ!


「それが返事でよろしいでしょうか?」


「んんっ!?」


「では、強制連行させていただきます。」


 いきなり口をふさがれ、ガチャンと後ろ手に手錠をかけられる。

 でもこんなもの私に効くわけないじゃない。

 だって、異能があるんだから。

 そう思って私は『電子熱』で攻撃しようとした。

 でも、異能が発動しない。


「んんぅ!?」


「発動しませんよ。この手錠は異能の発動を抑制する効果がありますからね。」


 そんな・・・理論上は可能だとしても実用化はほぼ無理なはずよ!

 いったい誰がこんなものを。


「それではおやすみなさいませ。」


 寒い・・・。

 体が徐々に熱を奪われて冷えていっているのを感じる。


「お・・・ぼえ・・・てな・・・さい・・・。」


 私は最後にそれだけ言うと、意識を失った。 

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