第5話 秘密
俺は研究所を出た後、まっすぐ家に帰った。
俺は澪の隣に住んでいる。
澪と俺が住んでいるのは島の中心部にある高層マンションの45階、最上階の5階下だ。
しかもその45階まるごと、澪の持ち物で俺はその内の1室に住まわせてもらってる形になる。
ちょっと男としてどうなのかと思わなくもないが、俺も特殊(澪との関係や異能が)ということで考慮されているらしいので、まぁ自分で手に入れたようなものだ、うん、そうしておいてくれ。
場所としては学園に近い場所で、交通もかなり整備されている。
そもそも学園が島の中心部にあるから、それも当たり前なんだけどな。
「今は・・・3時か。澪のことだから、まだ時間あるよな。」
端末で時間を確認すると、3時過ぎくらい。
いつも通りなら、5時くらいまでは澪は訓練を続けるだろうから、まぁ問題ないだろう。
もう1つの用事を済ませることにしよう。
俺は手首から端末を外した後、適当にその場に放置。
今から行く場所には端末は持っていけないからな。
冷蔵庫から油揚げを取り出した後、ほぼ空き部屋に等しい1部屋(俺が持っている物の数に対して部屋が多すぎるから、仕方ない。)に入る。
そこには、壁にちょっと豪華な神棚が設置されていて、神棚にはミニチュアの神社に赤い鳥居、神社の中には小さい狐の石像があった。
「『神の
いちいち面倒臭い呪文を唱えると、部屋が突如、部屋が霧に包まれる。
俺は気にせずそのまま歩き出す。
本来なら部屋の壁とぶつかるところまで歩いても何かぶつかることはなく、そのまま歩き続ける。
霧を抜けるとそこは別世界だ。
なぜか空には満月が浮かんでおり、周りは一寸先も見えない霧に囲まれて、真っ赤な鳥居に金などが使われている豪華そうな神社がある。
そして、神社の前には狐の耳と9本の尻尾を生やした美女が立っていた。
「いらっしゃい、優斗君。」
「
美女の正体は日本でも昔から有名な狐の妖怪、
ここは稲荷神社のような場所で、狐の妖怪が生まれ、狐の妖怪が過ごす場所なのだとか。
稲穂も狐の妖怪で、なんていえばいいんだろうな。
俺の契約主というか、あの狐面の創造主だ。
「稲穂、おいで。」
玉藻が後ろに振り向いて、神社の影の方に声をかけると、ひょこっと玉藻と同じく狐耳を生やした可愛らしい少女が顔を出した。
俺を見ると、顔をパッと明るくして、こちらへと駆け出してきた。
「ゆうとだー!」
「ぐほっ!」
すさまじい勢いで抱き着いてきた稲穂の頭が俺の腹に突き刺さる。
これはいつものお決まりなのだが、未だに慣れない。
初めて食らった時は、死ぬかと思った。
だって考えてみろよ?
人間では12歳くらいの見た目だけど、身体能力は強化した澪を超えるからな?
澪が全力で走れば、時速100kmは余裕で超えることを考えると、そのやばさが分かるだろう。
まぁ・・・一応、俺のことを考えてこれでもかなり抑えているらしいが。
「いい子にしてたか?」
「うん!」
「じゃあ、偉かった稲穂には、油揚げをやろう。」
「やったー!」
俺は袋に入った油揚げを稲穂に渡す。
稲穂はそれを手に取ると、喜んでどこかにすっとんでいってしまった。
「ふふっ、稲穂も優斗君が関わると普通の子供みたいになるわね。」
「いつもは違うのか?」
「そうね・・・やっぱりたった200年しか生きていない妖狐が七尾に到達してるのわね。」
狐の妖怪は基本的に尾の本数でその強さが決まっている。
尾の本数はもちろん潜在的な資質によっても異なるが、基本的には生きている年齢によって増えていくらしい。
まぁ、最大は9本で、それ以上は増えないらしいが。
だいたい100年で1本。
才能がある妖狐でも50年に1本なのだとか。
だが稲穂はそれをはるかに超え、30年ほどで1本だ。
それだけ稲穂が優れた妖狐ってわけだ。
「それで、お面の方はどうかしら?」
「あぁ、かなり使い勝手いいな。ただ、仕事の方は正直まずい。」
俺の仕事、それは現出してしまった妖怪や霊を倒す、あるいは弱体化することだ。
元々、妖怪や霊は一部の人を除けば見ることも触れることもできない存在だ。
現出というのは、現世に現れること、つまり、誰でも見たり触ったりできる状態になってしまうことで、力を持った奴がわざとやるか、どこか特殊な環境、霊的な場所でない限りは現出できない。
だが、現在は異能者という特殊な力を持った存在がいる。
それが集まったこの島は特殊な環境、霊的な場所という条件を満たしてしまっているというわけだ。
いくら特殊な環境とはいえ、気を付けていたり弱かったりすれば、現出することはない。
が、馬鹿な妖怪や邪悪な妖怪は現出してしまうのだ。
で、それによって妖怪という存在が表立ってばれるのを防ぐために俺が解決しているというわけだ。
「それは・・・どういった意味で?」
「他の人間に察知されつつある。しかも面倒なことに権力者にな。」
「私が出ましょうか?」
「・・・正直、頼みたいところだな。」
玉藻が出てくれれば、事態は簡単に収束するだろう。
稲穂がいくら天才とはいえ、玉藻は九尾の大妖。
その実力差は天と地ほどの差がある。
特に玉藻は人心を操る幻術に長けているしな。
「でも、私が出たら、あのバカ老狐共が黙ってないでしょうねぇ。」
「そこが困りどころなんだよなぁ・・・」
「あの老害、さっさと消しちゃおうかしら。」
「それはそれで面倒だろ?」
「まぁ、そうなのよねぇ・・・」
うーん、と頭を悩ませる俺と玉藻。
「まぁ、どうしようもないな。玉藻に頼むのは最終手段だ。」
「それもそうよねぇ。困ったらきちんと言うのよ?」
「あぁ・・・というか、これ稲穂戻ってくるのか?」
俺は稲穂が走り去っていた方を見る。
「すぐ戻ってくると思うわ。」
「そうか?」
この領域は俺が入れない場所の方が圧倒的に多い。
まともに俺がいられるのは、この神社の敷地内だけだ。
しばらく待ってみたが、稲穂は戻ってきそうもない。
1000年以上生きている妖狐にとってはすぐなのかもしれないが、俺には長いぞ。
「悪い。あっちの方で俺も用事があるんだ。そろそろ帰る。」
「待って。来たわよ。」
「まってー!ゆうとー、まってー!」
振り向くと、稲穂は渡した油揚げの代わりに木箱を上に持ち上げて走ってきていた。
すぐに俺に追いつくと、「どーん!」と俺にぶつかってきた。
まぁぶつかると言っても、荷物を持ってたからか、いつものロケット頭突きよりはるかに威力が弱かったが。
「はい、これ!」
「これは?」
「新しいの!」
俺は木箱の蓋を開けて、中身を見る。
なるほど、「新しいの」か。
「ありがとう、稲穂。助かる。」
俺はぐしゃぐしゃと稲穂の頭をちょっと乱雑かもしれないがなでる。
「わきゃー!」って騒ぎながら笑っているので喜んでいるのだろう。
「すまん、玉藻、後は頼む。」
「えぇ、任せておいて。」
「おう。というわけで、稲穂、また今度な?」
「うん!また来てね!」
稲穂はぶんぶんと俺に手を振る。
俺も稲穂に手を振りながら、鳥居をくぐり霧の中に入った。
しばらく歩き続けると、突如霧が晴れ、神棚が飾ってある部屋に出た。
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