第4話 呼び出しと研究所

 訓練は3時間もぶっ続けで行われ、昼になったことで終わった。

 というか俺が止めた。

 止めなかったら多分まだやってるだろう。

 という訳で、俺と澪は今、昼食を食べてるところだ。

 澪が「昼食のために移動するのは面倒」と言ったので、俺が異能を使ってこっそり隠れながら買ってきた。

 安心しろ、万引きはしてないからな。

 ちゃんと店員には姿を見せてある。


「むぐむぐ・・・おいしい。」


「ならよかった。食べ終わったらまだ訓練続けるのか?」


「う~・・・優斗が手伝ってくれるならまだ続ける。市街で動く感覚は掴めたけど、動きを止められた時の対処がまだ思い浮かばない。」


「あ~、悪いけど、無理だ。呼び出しがあった。」


 ついさっき昼食を買いに行っている最中に研究所の方から端末に連絡があった。

 内容は「実験するから来なさい。いいわね?サボらないでよ?もし、サボったら・・・うんぬんかんぬん」とのことだ。

 大分キテるなあいつ。

 俺が無事で済むかどうか・・・。


「残念・・・なら、後は戦闘訓練しておく。」


「また用事が終わったら戻ってきた方がいいのか?」


「ん~、別々で。家に帰ったらまた会おう?」


「それもそうだな。隣だし、俺の方が早く帰ることになるだろうから、帰ったら連絡してくれ。」


「分かった。」


 コクンと澪がうなずいた。

 俺は残りをバクバクと勢いよく食べ、その場に立つ。


「じゃあ、俺行くわ。あいつ、いつ暴走するかわからんし。」


「うん、また後で。」


「あぁ、後で。」


 俺は訓練場を出た後、学校を出て、学校から少し離れたところにある研究所へと向かう。

 目的地である第九研究所は異種型の異能の研究をしているところで、今は俺を感知できる警備システムの構築を試みているらしい。

 俺の存在は機密とかの警備に関して、危険視されているらしい。

 もしも別の国とか裏の組織とかに俺と同じような異能を持っている奴がいた場合、機密が駄々洩れも同然なのだとか。


「相変わらず、寂れてるなぁ・・・」


 異種型の異能はそもそもほとんど存在しないので、異種型を主に研究してる第九研究所はかなり小規模の研究所である。

 それでも、大きめのドームと同等の大きさはあるのだから、十分大きいが。

 いちいち、スケールがでかいな。

 入口の横の機械に学生証をピッとかざすと、入口のセキュリティーが解除される。

 で入口に入ると、そこがエレベーターのようになっていて、目的地まで運んでくれる。

 結構ハイテクだ。

 一番大きいところではそもそも転送してくれるのだとか。

 俺は行ったことがないから分からないけどな。


「あー、シャルいるかー?」


「あ、来たわね。」


 ひょこっと顔を物陰からのぞかせたのは、俺よりも小さい少女だ。

 別に年齢が俺より上ってわけじゃない。

 見た目通りの年齢だ。

 東雲シャル、イギリス人と日本人のハーフで、自称IQ200越えの少女だ。

 いや、たぶん、自称じゃないんだろうけどな。

 年齢は14歳、俺よりも2歳年下だ。

 だけど、この研究所で研究員をしている。


「で、今日はどういう実験なんだ?」


「あんたをカメラに映すのは諦めたわ!というかいったん中止!サーモカメラまであんたをまともに写せないってどうなってんのよ!いろいろ映像の方もいじってみたけど全く映らないし。」


「それ、前も似たようなこと言ってなかったか?『あんたを音で感知するのは無理!』って。」


「うるさいわね!焼くわよ!」


「やめろ!洒落にならんぞ!?」


 シャルは研究員だが異能持ち、それも2つの異能を持っている。

 片方は『電子眼エレクトンアイ』、電子の動きを見えるのだとか。

 そしてもう1つが『電子熱エレクトンヒート』、電子を操って熱を発生させ、その熱を異常なまでに高めることで熱線を放つこともできる。

 2つの異能がマッチしているので非常に効率よく強力な異能を使えるらしい。

 なんか、初めて会った時に自慢してた。


「あんた、姿を消してても攻撃は当たるのよね?」


「あぁ、ただ誰かが手をぶん回してそれが俺に当たったとしても、そいつは俺の存在に気が付かないけどな。全力で異能を発動させている時なら、手が当たったことすら気づかないはずだ。」


「やっぱりチートね。でも、物理的な存在として残ってるなら、あんたが踏んだところの圧力は検知できるはずよ。」


「機械で検知できないのにか?」


「圧力自体は検知できる・・・はず。それなら、あんたがいるって結果は出ないけど、何かが存在しているっていう結果は出るはずよ。」


「なるほど・・・というか、まずこれ最初に思いつくべきじゃね?」


 別に俺がいるという証拠がなくてもいいのだ。

 不審者が入ったという形跡が残ればいいのだが、俺を完全に感知する必要性はない。

 というか、普通すぐに気づくだろ、これ。

 俺は気づかなかったけど。


「うるさいわね!やっぱり焼いてほしい?というより、もしも宙に浮いて移動できるならこの方法は全く役に立たないの!分かる?あんたがチートすぎてまずこれから始めざるを得なくなったの!」


「分かった、分かったから、勘弁してくれ。」


「ふぅ・・・まぁいいわ。そこの部屋入って。そこの床の圧力を検知してみるから。」


「おう、最初から全力で発動か?」


「そうね。まず最初から全力を感知できる方がいいから。」


「分かった。」


 俺は全力で異能を発動して、シャルに示された部屋の中に入る。

 そして、部屋を適当に移動する。


「入った?あぁ・・・返事されても分からないわね。それじゃ測定開始!」


 シャルがカタカタと機械をいじっている中、俺はとりあえず適当にぶらつく。

 数分程ずっとぶらついていると、シャルから声をかけられた。


「その場で立ち止まって、徐々に異能を緩めて。」


 言われた通り、その場に立ち止まり、徐々に異能の効果を緩める。

 そして、20%くらいの効果かなってところでストップの合図が出た。


「今、どれくらい・・・いや、その前に完全に解除して。私が認識できないから。」


「おう。」


 俺が完全に異能を解除すると、まだ少し迷っていたシャルの視線が俺に向いた。


「やっぱり、そこにいたのね。」


「で、結果はどうだった?」


「全力で発動されたときは、ほぼ感知不可能ね。徐々に緩めてもらったことで分かったけど、あんたを中心に圧力が分散してるみたいな感じだったわ。」


「分散?」


「えーと、そうね。あんたが異能を発動すると、あんたを中心に一定範囲の圧力がほんの少しだけ強くなるわ。で異能を解除していくと、その圧力が強くなる範囲が狭くなっていって、検知する圧力が徐々に強くなっていくって感じね。」


「あー、何となくだけど分かるぞ。」


 つまり、俺がスライムだと仮定すると、異能を発動すると、ベターッと溶けて広がり、異能を解除すると、中心に集まって固まる訳だ。

 何言ってるのか俺でもよく分からなくなってきたな。


「でも、今回のことでとっかかりができたわ。この広がるっていうのがかなり重要よ。おそらく今までの映像でもあんたの存在が広がってたから、あんまり変わらないように見えたのよ。つまりサーモカメラでもっと広範囲を映せば、分かるはずよ。」


「へぇ・・・」


「あ、もう帰っていいわよ。給料は研究所の方に言っておくから送ってくれるはずよ。」


「用が終わったら、即ポイか、ひどい女だなぁ。」


「うるさいわよ!さっさと帰って!今から、忙しくなるんだから!」


「へーい、じゃ、また用があったら呼んでくれ。」


 もう聞こえてないのか、シャルはばたばたと何か機械をいじったり、どこかに書き込んだりと忙しいそうに動いていた。

 俺は苦笑した後、研究所を出て、家に帰った。

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