第3話 訓練場

 しばらく歩くと、澪専用の訓練場に到着した。

 訓練場は、学園の地下の方にあった。

 なんで地下にあるのかと聞いたら、「もしも異能が間違って暴走しても、地下の方が被害が少ないから」だそうだ。

 澪が自分の学生証を入口の横の機械にかざし、何かパスワードを入力すると、入口がウィンと開いた。


「あー、普通の訓練場より小さいのか?」


「だいたい10分の1くらいの広さ。」


 狭いと思ったかもしれないが、一般的な学校の体育館よりはるかに広いぞ、というか、普通の学校の敷地より広いぞ。

 元々訓練場は上級以上異能持ちの生徒が100人くらいで動くことを前提として作られているから、かなり広い。

 一番広い訓練場なら街1つよりも広いはずだ。

 その10分の1なら・・・まぁ、小さめの町くらいの広さはあるだろ。


「ここ避難できる場所がねぇぞ。」


「避難・・・?」


「いや、澪の異能から避難する場所が。」


「なら大丈夫。今からいろいろ出てくるから。」


 そう言って、澪が腕に着けている端末をいじると、ゴゴゴッと音が響き始めた。


「地震か?」


「違う。」


 そういうと、俺の足元がウィンッと開いた。


「おわぁぁっ!?」


 とっさに穴の縁に捕まるが、とっかかりがないから滑る。


「いや、落ちる落ちる!」


「ご、ごめん・・・」


 気まずそうな表情で、澪は銀色の光を纏うと落ちそうになっている俺の手を取り、グイッと持ち上げた。

 どうやら、身体強化に使っている銀色の光は分解の効果を持たないらしい。


「ふぅ・・・死ぬかと思ったぜ。」


「む、むぅ・・・ごめん。」


「気にすんな、次は気を付けてくれ。ま、次があればだけどな。」


 俺はそういうと、周りを見る。

 さっきまでただの平面だったはずだが、周りには建物のようなものが立ち並び、町のような景色となっていた。


「は~、すげぇな。特別仕様じゃないのか?」


「ううん、学校の他の訓練場にも同じシステムが使われてる。これは市街戦用。他にも森林とか吹雪の中とか山とかのフィールドがある。」


 天候操作もお任せあれってか。

 そういえば、試験用のフィールドもこのシステム使って構築してるのかもな。

 俺はてっきり、干渉型の異能で地面とかを操作してたと思ってたが、機械式だったのか。


「はぁ~、なるほどなぁ。でもこれをたった1人に使わせるのか・・・大盤振る舞いだな。」


「元からあった訓練場をちょっと改造した・・・らしい。」


「へぇ~。」


 本当にちょっとなのか、元が分からんからどうとも言えないが、なんとなく、ちょっとじゃない気がする。


「で、どういう訓練をするんだ?」


「市街でも早く動ける訓練。」


「そ、そうか・・・」


 これ絶対、俺を捕まえるための訓練だよな?

 俺、市街で会うことがないのを祈るしかなくない?

 控えめに言っても、澪は天才だ。

 おそらく、きちんと訓練をすれば、すぐに俺を捕まえれるようになるだろう。

 俺は別に訓練をしているわけではないから・・・あれ、やっぱり祈るしかなくない?

 澪の訓練をきっちり見て、予想外の動きをしまくってやるしか方法がないな。

 よし、しっかり見ておこう。


「じゃあ、俺は見ておくな。」


「ううん。優斗には手伝ってほしいことがある。」


 嫌な予感しかしねぇ・・・。


「いったいなんだ?」


「このインカムで私に時々でいいから、動くなって伝えてほしい。そしたら、私は動きを止めるから。」


「え?それまずくないか?」


 タイミングによっては、どこかに激突するだろうし、それに俺の裏技の対策ばっちり練られることになるだろ。


「ううん、大丈夫。動けなくなるのはだいたい5秒~10秒くらい。」


「それは全然大丈夫じゃないと思うぞ?」


 いや、いろんな意味で。

 空中の移動中に硬直したら普通に死ぬし、俺の裏技の効果時間を測定してるし。

 ダメじゃん、俺。

 次、絶対対策取ってくるじゃん。

 ・・・特訓の件、了承しておいてよかった。

 対策練られてるの知らなかったら、俺やばかったかもしれない。


「大丈夫、危ない場面になったらきちんと動くから。」


「そ、そうか。」


 こうして、俺は澪の特訓に付き合うことになったのである。

 というか、自分の対策を手伝うってどういう状況だ?

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