第2話世話のやける妹
15年前のこと
「はあ!?」
私は母親と父親の声に反応した
「何言ってんだよ!まだ17歳だろ!?」
父親の声も更に大きくなる
「しょうがないじゃん、出来ちゃったんだから」
「あんたね…そんな軽い気持ちで産めるわけないでしょ?」
母親も声を荒らげていた
17歳の雪菜が怒られながらも必死に対抗していた
「そんなのやってみないとわかんないじゃん!」
「お前が育てられるわけないだろ!」
「絶対に許さないからね!」
雪菜が反抗しても親2人から否定される
雪菜はこの時、妊娠4ヶ月だった
「良太だって籍入れてくれるって言うし
2人で一緒に育てるから大丈夫だよ!」
雪菜はいつもおっちょこちょいでドジをしていた
小学校では給食当番でカレーを盛り付けていてそのお皿をカレーが入っている鍋に落としてしまった
その時に鍋の中に手を突っ込んでしまい
手を大火傷して大泣きしたことがある
そんな問題ばかり起こしていた雪菜に彼氏が出来て
妊娠をしてしまった
「良太君と付き合って何ヶ月も経ってないじゃない!」
そんな雪菜をほっとけないのか両親はいつも雪菜を否定している
「良太はいい人だよ!」
「そんな保証はないだろ!」
父親もやはり雪菜を否定する
「……もういいよ!じゃあ今から良太と暮らすから!」
雪菜は自分の部屋に行ってしまった
…………しょうがないなー
私はそーっと雪菜の部屋を開けた
「雪菜?」
「…お姉ちゃん…」
雪菜は泣きながら大きなバックに自分の服を入れていた
「止めないでよね!あたし、良太と一緒に育てるって決めたんだから!」
「止めないよ、でもどこに泊まんの?」
「良太んち。あたしたちもう籍も入れる約束したもん」
雪菜の彼氏の良太は雪菜の2個上の先輩らしい
会ったことはないんだけど雪菜を任せるのは私も少し心配していた
高校生の思いつきみたいな恋愛がこの先続くかどうかなんてわかんないよ
「一応お父さん達と一緒に暮らした方がいいんじゃない?
何かあった時に助けてくれるのはいつも親だったでしょ?」
私も止めないとは言いつつも雪菜には行って欲しくなかった
「あたしは軽い気持ちで言ってるつもりはないもん
良太との子が出来た時も嬉しかったし産みたいと思ったから中途半端じゃダメだと思ったから今家を出ていくの!」
「なるほどね」
両親は心配だから引き止めたくなる気持ちもわかる
けど雪菜は一度言ったら頑固で他の人に何言われても聞き入れないだろうなー
雪菜は荷物をカバンの中に入れて
「じゃあね、お姉ちゃん」
「うん、また何かあったら私は雪菜を庇うからね」
雪菜のことは小さい時から面倒を見てきた
甘えん坊でおっちょこちょいでそのくせ意地っ張りで泣き虫で
そんな雪菜がまた1つ目標を決めたのだから
うまくやれてることを願って雪菜を見送った
そして半年が経った頃だった
ケータイから電話がかかってくる
画面を見ると雪菜からだった
あの日以来だったから戸惑ったけど電話に出る
「もしもし?」
『もしもし!?お姉ちゃん?
雪菜だけどー
子供産まれたよー!』
「ええー!!
ほんとに!?」
『うん!だから今度見に来てよ!』
雪菜が子供を産んだ
それは嬉しくもありどこか悲しく寂しくもある
雪菜がお母さんか…
「男の子?女の子?」
『女の子だよ!』
「へぇー名前は?」
『私と同じ漢字使いたいから
"那雪"って名前にしたの!』
那雪ちゃんか…
それから雪菜とはちょくちょく連絡はしていた
両親には話したみたいだけどまだ納得いってないみたいだ
雪菜は良太と籍を入れて苗字も変わった
安達雪菜『あだちゆきな』
あの雪菜が大人になる瞬間がすごく嬉しかった
私は良太とも会った
「雪菜さんにはいつもお世話になってます」
「そんなかしこまらなくてもいいよ」
私は両親と違ってそういうの気にしないから
「ありがとうございます!」
「雪菜をよろしくね」
「一生大切にします!!」
良太はそう言った
私も安心出来る気がした
それから5年が経とうとした時
雪菜からまた電話が来た
「もしもし?」
『もしもし!?お姉ちゃん!?
雪菜だけどー』
「どしたの?」
『お姉ちゃんって彼氏とかいんの?』
何…急に
「いないよ」
『そっかーじゃあだめかー』
「なんで?なんかあったの?」
『いやねー那雪とお買い物しててくじ引きみたいのやったんだよね
そしたら京都の温泉旅行のペアチケットが当たっちゃってさ』
「な、なにそれ!」
『うちは那雪がいるから行けないし誰かに譲ろうかと思ってさ』
「ふーーーん」
『お姉ちゃんがダメなら他の人に聞いてみる』
「そしたらさ、那雪ちゃん私が預かろっか?」
『え!?いいよそんなことしなくても!』
「だってそろそろ那雪ちゃん幼稚園でしょ?
夫婦で旅行なんてそうそうないと思うから
行ってきたら?」
『まじで言ってる!?』
「うん、ちょっとくらいならいいよ」
『じゃあーお願いしようかなー』
私はちょうど一人暮らしも初めていたからこのタイミングでよかった
3泊4日らしいけど私はそれに合わせて有休も取った
そして雪菜と良太の旅行の日
2人は那雪ちゃんを連れて私の家のインターホンを鳴らした
「こんにちはー」
良太が陽気に挨拶をする
「こんにちは」
私が返すと
「いやーほんとにいいんですか?お姉さん」
申し訳なさそうに良太が言う
「うん、全然いいよ」
雪菜と良太の間には那雪ちゃんがいる
那雪ちゃんは不思議そうに私を見ていた
「前に会ったことあるよね?那雪ちゃん」
私が腰を低くして那雪ちゃんに話しかけると
「那雪?よろしくお願いしますは?」
雪菜がそう言うと那雪ちゃんはペコッと頭を下げて
「おばちゃんよろしくお願いします」
「お、おば……!?」
おばちゃん…
私まだそんな歳じゃないよね??
「こら!那雪!沙友理さんって呼びなさいって言ったでしょ?
確かにお姉ちゃんはもうすぐ三十路だけど!」
「一言余計なんだよね」
そんなやり取りをして
「これ、那雪が好きな絵本とおもちゃね、
あとこれが那雪の好きなアニメのDVD
それで、これ那雪の好きなご飯と嫌いなご飯が書いてあるからこれ見てご飯決めて
あとぐずってお風呂入らない時あるから無理矢理入れていいからね
あとご飯の支度手伝うって言うかもしれないけど
物とかすごく壊すから手伝わせないようにね
あと」
「もうそんなに心配しなくてもいいってば」
私は雪菜の言葉を遮る
「だってー親としては心配だもんー」
親としてはか……
私たちの両親もその気持ちだったんだよ?
そんな言葉は心の中に置いといて
「那雪ちゃんはいい子そうだから大丈夫だよ」
「うん、そうだね、じゃあお姉ちゃん、よろしくね!」
「よろしくお願いします!」
雪菜と良太は笑顔で手を振った
幸せそうだなー
夫婦かー悪くないのかもしれない
2人の幸せそうな姿を羨む自分の気持ちを閉ざすように
ドアを閉めた
さて、約4日間は子供と一緒になるわけだけど
「那雪ちゃん、お腹すいた?」
「すいたー」
「そっか、ご飯食べる?」
「食べたーい」
「何食べる?」
「ハンバーグ!」
「わかった、じゃあ作るからね」
私が台所に居ると
「ねえ沙友理さん、あそぼー?」
「え?今ハンバーグ作ってるから」
「あそぼー!あそぼー!あそぼー!あそぼー!」
「え?ええ??」
ど、どうしたらいいのこれ!?
とりあえずおもちゃで遊んでいると
15分後
「ハンバーグまだー?」
私は魔法使いか!
無理に決まってる
「遊んでたらハンバーグ作れないからね!?」
「じゃあハンバーグ作ってよ」
「……ほーじゃあ作ってくるねー」
私は必死の苦笑いで台所に行く
また話しかけられないように雪菜から預かった子供向けのDVDを那雪ちゃんに見せる
これでよし
私は集中してハンバーグを作ろうとする
しかし
ガシャーン!!
え!?
那雪ちゃんがいた部屋から大きな物音がした
「ど、どうしたの!?」
慌てて部屋に行くと
「落としちゃった」
「あーーーー!!!!!」
私が必死に集めていた火滅の前歯のフィギュアがひっくり返されていた
私の命より大事なものがぁー!!!
「あああ、後で直すから!触らないでね!!」
「はーい」
「大人しくアニメ見ててね!」
「はーい」
これでよし、
台所に戻ると
嘘でしょ!?ハンバーグ焦げてるー!
偶然1個だけ焦げなかったからそれは那雪ちゃんにあげないと…
子育てって大変……
ハンバーグをお皿に盛り付けた時にケータイが鳴る
雪菜からLINEが来た
『新幹線乗りましたー!』
と文章と写真が送られてきた
うんうん、私はあんたらが楽しそうならそれでいいんだよ
あと約3日、那雪ちゃんの子育てを乗り越えよう!
2日目
雪菜のLINE
『金閣寺きたよー!』
『八ツ橋うんまー!』
『奈良にも来た!』
一方私は
「沙友理さんお歌歌ってー!」
「歌は無理ー!」
那雪ちゃんは雪菜に似て少しやんちゃだなー
しんどいかも……
いやいや、雪菜と良太には楽しんで欲しいから
そう思って私は那雪ちゃんとまた一日を過ごす
そして3日目
朝から雪菜のLINEが来てるだろうと確認したけど
あれ、珍しいな、LINEが来ない
まあ、そのうち来るか
私は今日は那雪ちゃんと公園で遊ぶ約束をしていたので公園に行くことにした
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます