33. 修羅場のような。じゃないような。

「では、…」

 結局、家の前まで送ってもらい、手も繋いだまま…。

「今度は楽しく飲みましょう」

 離そうとしたら、更に掴まれて、

「楽しく、ですからね…?」

「はぁい…」

 そんなにツラそうに見えたのかな…。

 いつも通りなんだけど…。

「では、おやすみなさい…」

「おやすみなさい…」

 離れた手を見ていて、ちょっと寂しくなった。

 寂しく…?

 さとうくんと永遠に別れるわけじゃないのに…。

「うーん…」

 ガサガサ探しているのは、家の鍵…。

「塩田さん、アレ気に入りませんでした…?」

 アレとは…?

 首を傾げながら、苦笑いのさとうくんを見る。

「まだ、見てないんですね…」

 独り言のように言ったその言葉に、

「あっ…たっ!!」

 ちょうど出て来た家の鍵を掲げる。

「おめでとうございます…」

 頭を優しく撫でて、

「じゃあ、また…」

 そう言って、隣のアパートへと向かうさとうくんに、

「今日は…」

 ありがとう。と言ったと同時に目の前のドアが開いた。

「おかえりなさい」

 スゴく不機嫌な御苑みそのが立っていた。

「ただいま…」

 俯いて『反省してます』アピールをした。

「出て行くなら、出て行くって言ってください…」

「はい…」

 家に入るなり、そう言われて…そうか、共同生活ってそうだよなって思い出した。

 元カレと暮らしていた時は、いつ出て行こうがいつ帰ろうが全く咎められなく生活してて…。

 この感覚は、実家にいた頃の共同生活を思い出した。

汐里しおりさん、聞いてますかっ?!」

『汐里、聞いてるのっ?!』

 背後から聞こえる御苑の言葉は、お母さんを思い出した…。

「……ぷっ…ふふ…ははは……」

 思わず、思い出し笑いしてしまった…。

 く、苦しい…。

「何が、面白いんですか…?」

 背後にいた御苑が、いつの間にか目の前にいた…。

「心配しました…」

 切ない顔をして、

「彼氏さん、いるじゃないですか…」

 今にも泣きそうな顔をして、

「いたらいるって、言えばいいじゃないですか…」

 御苑は、声を震わせてそう言った。

「違うよ…」

 そもそも年齢差があるからそう見えないと思うのだが…。

 暗闇のせい…?

「行きつけの居酒屋に行きつけのコンビニの店員さんがいて、一緒に帰って来ただけ」

 事実を述べたら、

「そうですか…」

 腑に落ちない顔をしながらも、頷いてくれた。

「うん。そうだよ」

 バイバイ。と手を振って即座に部屋へ入る。

 はぁ…。

 とりあえず、服着替えよう…。

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