32. 断固、お断り

「ふぅ…」

 呑みたくて来たのに…。

「つまんない…」

 外は寒くて、酔いが醒める。

 そうか…。

 外で考えたら、よかったのか…。

「ま、待ってくださいっ」

 振り返ると、真っ暗になった。

 うーん…。さとうくんの匂いがする…。

塩田えんださん…」

 甘くて、ちょっとくすぐったい…。

「大好きです…」

 優しくて、あたたかい…。

 ずっと一緒に居たいって思ってしまうぬくもりに…。

 あ、ダメだ…。

 流されてはいけない…。

「ごめんなさい…」

 大好きだけで、生きていけるほど若くはない…。

「フラれたの、俺ですよ…」

 苦笑しながら、私の頬に手をやり、目元を指で撫でる。

「うん…」

 ごめんなさい…。

「しかも、2回目…」

 好みのイケメンに告白されて、断る。

 もったいない…。

 いや、でもさとうくんの将来を考えれば無下に言えない…。

「もしかして、セフレなら…」

「さとうくんなら、彼氏がいいっ!!」

 勢いで言ってしまった…。

「い、今のナシ…」

 ニヤニヤしているさとうくんを直視できなくて俯いた。

「撤回しちゃ嫌だ…」

 また、視界が真っ暗になった…。

「嬉しい…」

「さとうくん、聞かなかったことにしてください…」

 逃げるように、さとうくんから離れる。

「ごめんなさい…」

 軽く頭を下げて、素早く帰ろうと走ろうと思ったら、ガクッとなった。

「あっ!!」

 段差があったのか…。

 コケなくてよかった…。

「ありがとう…」

 さとうくんが抱きしめてくれなかったら、転んでケガしてたな…。

「逃げないでください…」

 少し息を切らしながら、

「もう少し、このままでいいですか…?」

 首元にあるさとうくんの熱がスゴくて、

「はい…」

 もしかして、風邪…?

「さとうくん…?」

 だんだん息が荒くなってきたので、

「大丈夫…?」

「はい…」

 そう言うものの、私にもたれたまま。

「興奮しちゃって…」

 そっちかっ。

「お持ち帰りしてもいいですか…?」

「断る」

 心配して損した…。

「そう言うと思った…」

「当たり前でしょ…?」

 顔を上げたら、さとうくんの顔が目の前にあった。

 唇に。

 さとうくんを感じた。

「今日はコレで我慢します…」

 さとうくんは微笑んで、私の手を握る。

「帰りましょうか…?」

「はい…」

 その優しく握った手を断れずに、帰った。

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