31. りたーん。

「いらっしゃいませ」

 明るい声で迎えて、

「何だ。お前か…」

 地声に戻る店長に、

「おぉ。私だよ」

 こちらも素で答える。

「さっき帰ったよな…?」

「そう、だね…」

 日付も変わったので、呑み直そうか…。

「今日は…」

 地酒でも…飲もうかな。いや、明日仕事だから…。

「はい」

 出て来たのは、お酒だった…。

「今日は呑みたいって顔に書いてある」

「うん…」

 店長は何故か私の事が読める…。昔から。

「一升瓶の似合う女って、お前くらいしかいないな…」

 うんうん、と妙に納得されて、ちょっと離れた場所に目をやるので思わず視線がそちらに…。

「ねぇ、さとうくん?」

 本当だ。

 本当にさとうくん、だった…。

塩田えんださん…?」

 特に何も言わずに、顔を逸らしたのに…。

「隣、いいですか…?」

「はい…」

 俯いたまま答えたら、

「じゃあ、お邪魔します…」

 既に隣にいて、顔を覗き込まれる。

「塩田さん…?」

 見ないでくれと言わんばかりに、顔を逸らす。

「呑みたい気分なんですよ…」

 お酒を呑もうとコップに手をかけると、大きなさとうくんの手が邪魔する。

「じゃあ、俺のこと見てください…」

「嫌だよ…」

 とりあえず、呑ませてください…。

「塩田、強がりだからなぁ…」

 ほぃ。と店長は惣菜の入った透明な袋をさとうくんに渡して、

『多分、それ飲んだら記憶なくすと思うから後はよろしく』

 ワザと、私に聞こえるように耳打ちをする。

 その間でも、さとうくんがお酒の入ったコップを手離さなかった。

 呑めると思ったのに…。

 チッ…。

「もぅ…」

 呑めないなら帰る。

「店長、お勘定ぉー」

 腕を上げたら、

「いらん」

 はい…?

「じゃあ、お言葉に甘えて帰りますっ」

 お邪魔しました。と深々と頭を下げて、

「俺、送って行きます」

 お勘定。とさとうくんが支払っている間に、逃げるように店から出た。

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