29. 交渉、成立。

佐久さくさんのことが今でも…とおっしゃるなら…」

 そう言いながら、古庄こしょうさんは抵抗しない御苑みそのを解放する。

「それはないです」

 佐久さんは、過去のヒト…。

汐里しおりさんには…」

 そして、御苑もない。

 御苑を避ける……つもりだったが、

「ボクがいるんだからっ…」

 完全に、押し倒された。

 御苑くんの変なスイッチ押したの、私か…。

「御苑、そこまで」

 はいはい。と手を叩く古庄さんが、

「俺が帰ってから、そういうことはやってくれ」

 そんなに力があるように見えないけど、難なく御苑を引き離す。

 困り顔でこちらを見て、

「汐里さん、本気で嫌なら嫌って言って、バシッと叩いていいですからね…」

「はい…」

 嫌じゃない…。

 じゃれ合える同僚だもん…。

「それで、御苑…」

 古庄さんはごにょごにょと耳打ちして、御苑の顔つきが変わる。

 更に、ギラギラ感がアップしたような…。気のせい、かな…。

「あくまで業務命令だからな…」

「はいっ」

 御苑は嬉しそうに返事をする。

「暫く御苑とコイビトのフリ、よろしくお願いいたします」

「お願いします…」

 深々と頭を下げる二人に、

「こちらこそよろしくお願いいたします…」

 私も深々とお辞儀をした。

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