28. 黒歴史

 佐久さく 智裕ともひろ

 元・上司。

 5年前まで同じ職場で働いていたヒト。

 そして、今は同系列の事業所・所長になって出世街道まっしぐらなヒトで…。

「やっぱり…」

 今日、早速パワハラに遭ったのを思い出した。

汐里しおりさん…?」

 首を傾げて、隣にいた御苑みそのが顔を近付ける。

「お気になさらず、です…」

 そう言って、御苑の顔を押し退けた。

「御苑が対象を知ってる時点で、おかしいって思って…」

 古庄こしょうさんは、私を見て、

「汐里さんの上司だったそうですね…?」

 にやりと笑って、

「少し調べさせていただきました…」

 知ってる顔だ。

「はい。御苑くんが入社する前に異動になった方ですよ…」

 嘘ついても仕方ない。

 開き直って、答えるしかない。

「しかも、上司と部下以上の関係だったそうですね…」

「ええぇっ?!」

 御苑が、予想以上に驚いている。

 でも、ミカンの皮を剥く作業は止めない。

 ………そんなに、食べたいのか…?

「その当時、既婚していたので不倫…」

「えぇっ?!」

 御苑が、更に驚いている。

 そして、ミカンを食べる。

 ………そんなに、食べたかったのか…。

「汐里さん…」

 御苑はその手で私の肩を掴み、

「ボクも…」

「無理。無理だから…」

 目を伏せて、見なかったことにする。

 御苑の目がギラギラしているのは、気のせいにする。

 ミカンの果汁がついたことも…。

「御苑、待て」

 襲いかかろうとする御苑を古庄さんが止める。

「そんなにしたかったんですか…?」

 ちょうどその頃からセックスレスだったので、気が合うヒトだったから。

 したかったと言えば、そうなのか…。

 若かったな…。

「御苑、ストレートに聞き過ぎ…」

 すみません。と言いつつ、御苑を背後から掴んでいてくれる古庄さんが、

「今、佐久さんがあなたを手に入れようとしているのは事実です」

「離してくださいっ…」

 必死で古庄さんから離れようとする御苑に、

「御苑、やりたいだけなら体力ある若いコの方がいいよ…?」

 冷静にズバッと言うと、

「ただやりたいだけなら、事足りてます…」

 不貞腐れて、古庄さんから抵抗せず私をじっくり見て、

「汐里さん、好きです…」

 羽交い絞めのような状況で告白って…。

 御苑らしいと言えば、らしいのかな…。

「この状況で、告白する…?」

「できるコだね…」

 古庄さんと目を合わせて、一緒にあたたかく笑った。

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