20. 面倒なので、否定しない。

塩田えんださん、住所変更届置いたから…」

 と上司に言われ、自分の席に着く。

「はい…」

 住所変更届とともに、メモ書きが…。

『おめでとうございます』

 正しくない情報を言ったのは、今からまさしく営業に向かおうとしている御苑みそのだ。

 そうに違いない。

「御苑、待て」

「いってきます~」

 万遍の笑みで、バイバイと言って去りました彼とは単なる同居人ですよっ!!

「塩田さん、職種が違うから場所は変わらなくてもいいよね…?」

 上司の笑顔が、いたたまれない…。

「はい…」

 訂正も面倒なので、ひきつった笑顔で返した。

「はぁ…」

 面倒なことになった…。

 そして、斜め向かいに座っている同僚・名波ななみは私の顔を見てニコニコしている…。

「やっぱり、そういう仲だったんじゃないですか…」

 小声で、

「恋多きことで…」

 そして、PCに目を向ける。

「名波、また変えたの…?」

 名波のPC付近にいたフィギュアが変わっているので、

「そちらも、恋多きことで…」

 住所変更届をクリアファイルにしまい、わかりやすい位置に置こうと思案している時に、

「おはようございます」

 聞き覚えのある声が、聞こえた…。

「早く来ちゃったから、コレ…。皆で食べてください」

 目の前に差し出されたら、

「あ、ありがとうございます…」

 受け取って、とりあえず名波に声をかける。

「塩田さん、急ぎの仕事があるので…」

 ごめんなさい。と拝まれたら、私が給湯室に行くしかないよね…。

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