18. 可愛いヒト。

「運ぶの大変だったんですよ…?」

 確かに、御苑みそのが私を運ぶのは大変だっただろう…。

「じゃあ、リビングでよかったのに…」

 見た目は私より細いから、どう運んだのか気になるところではあるが…。

「行かないで…って言ったのは、汐里しおりさんですよ…?」

 マジか…。

 どれだけ、自分の感情に疎くなってるんだ…。

「酔ってない汐里さん運ぶのも悪くないなって思いました…」

 御苑はニヤニヤ笑いながら、

「可愛かったな…」

「誰だって、無意識は可愛いって…」

 御苑も可愛いよ。

 言わないけど…。

「汐里さん…」

 その熱い眼差しは、気のせいにする。

「はい」

 何か…?と首を傾げる私に、

「ボクのこと、御苑って言うのやめませんか…?」

「じゃあ…」

 御苑は食器を流し台へ運びながら、

「御苑くんもナシですからっ」

 あら。

 言おうと思ったのに…。

「では、御苑さん…」

 御苑が言いたかったのは、下の名前で呼んでくださいって意味だったと思う。

 あえて、言わないのは…。

「汐里さんっ…」

 この反応…。

 可愛く怒るこの反応が好きで、ついつい…。

公士こうじ、可愛い…」

 食器を洗い始める御苑の後ろ姿に、可愛いって言うなオーラが出ている。

「か、可愛いって言わな…、あっ!!」

 どうやら、気付いたようだ。

「もう一回、言ってくださいっ」

 振り返る御苑に、

「可愛い…」

 そう言って、私は洗面台へ向かう。

「そっちじゃありませんっ!!」

 聞こえない…。聞こえないよぉー。

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