12. バイバイ。

「ありがとうございました…」

 すべての荷物を運び終えて、同居人との最後の別れ。

「おぅ…」

 特にいつもと変わらない返事で、思わず笑ってしまった。

「はい…」

 バイバイ。と言って、便利屋さんの助手席へ乗り、出発した。

 終わってしまえば、呆気ないもので。

 やれやれと思えば、涙が溢れてしまった…。出るものは仕方ない。

 御苑みそのに見えないようにしていたが、

「密かに泣くの、やめてください…」

 信号待ちで、ボックスティッシュを渡された。

「はい…」

 涙を拭き、鼻をかんで、

「ボクには、何でも言ってくださいよ…?」

 ふぅ。と気持ちを落ち着かせた時に、御苑が不意打ちでキスをした。

 頬だけど。

「言ってますよ…?」

 とりあえず、拭いておくか…。

「ヒッ、ヒドイッ!!」

「そう…?」

 もっと拭いておこう。もっと怒るだろう…。

塩田えんださん、ボク…、本気なのに…ヒドイですよっ!!」

 御苑のそういうところが好き。

「好きだよ…」

 口を押さえたけど、もう言葉が出た後だった…。

「えっ?!」

 御苑は驚いて、こちらを見る。

 首を横に振って、

「あぁ。違う違う。今のナシ…」

 少し笑って、

「御苑くん、こういう時は口でしょ…」

 ダメ出しして、

「口だと抑えが効きません」

 もっと本音を聞きたい…。

 もっと御苑と…。

「家に着いてからで、いいですか…?」

 今は、ただ意味のない言葉のやりとりがしたい。

「断ります」

 もうっ!!と可愛げのある怒りは、相変わらずだなって…。

「じゃあ、何でそういうこと言うんですかっ?!」

「御苑くん、だから」

「ソレ、答えになってないですっ!!」

 もうムラムラするって言いながら、運転する割には安全運転の御苑に、

「ありがとう…」

 そう言って、頬を軽く撫でる。

「ココは生き地獄ですかっ!!」

 御苑の左手がワタシのウナジに触れた瞬間、

「セクハラ。やめてください…」

 と、拒否する。

「ちょっとくらい肯定してくださいよっ!!」

 ここで肯定したら、運転どころじゃない筈。

 危険だよ…。

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