06. 忘れ物という口実。言い訳。

「寂しかったです~」

 更衣室を開けるなり抱きつく御苑みそのに、

「はいはい…」

 半ば呆れながら、背中をポンポンと叩く。

塩田えんださん、寂しいです…」

 そんなセリフはコイビトに言え。とばかりに、御苑から離れようとするが、離してくれない。

「御苑くん、今日はゴメン…」

 あなたの相手をしている余裕がないのだよ。

 御苑はニコニコしながら、

「帰したくないですっ!!」

 もう強引だな…。

 普段なら余裕で対応出来るんだけど…、今日は無理。

「同居人から呼び出されたんだって…」

 真顔で、真っ直ぐ御苑の顔を見つめる。

「え…?」

 呆気に取られた顔して、

「だから、後で慰めてよ…」

 耳元で囁いて、御苑の体を更にキツく抱きしめた。

「はい…」

 若い頃なら、こんなことしなかった。出来なかった。

 御苑は、拒まないってわかってて…。

「いつでも待ってますよ…」

 そっと御苑から離れて、

「嘘。今さっきのナシ、ね…」

 背中越しに言った言葉に、

「今日、電話しますからっ!!」

 御苑のおかげで、正々堂々と別れ話が聞けそうだ。

 ありがとう…。

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