05. 忘れ物という口実。

「あれ…?」

 今、一番会いたくないヒトと鉢合わせ。

 でも、今、一番会いたくないヒトは同居人か…。て事は、二番…?

 鞄で顔を隠して、

「忘れ物をしまして…」

 そう言いながら、更衣室へ向かう。

 何故か足音はそのまま一緒についてくる。

塩田えんださん、ボクとそんなに会いたかったですか…?」

 立ち止まって、

「ごめん。今、そういうのに…」

 付き合ってる暇ない。って言いたかったのに、何故か目の前には同僚・御苑みそのの顔がある。

「彼氏さんのことですか…?」

 私と同じくらいの目線だけど、ちょっとだけ背伸びしているところが可愛い…。

「御苑、ゴメン…」

 御苑はそれがコンプレックスだと言ってるから、言わないけど…。

 でも、可愛い…。

「何で、ニヤニヤしてるんですか…?」

 御苑は、5期下の同僚である。

 口調は柔らかくて、見た目もどちらかと言えば細く、

「待ってください…」

 対象が男性かと勘違いされやすい。と御苑自身が何時しか言ってて、

『塩田さんのことが大好きです…』

 当時はまだ冷め切ってなかった彼との関係のおかげでキッパリ断ったけど、

『でも、大好きです…』

 人間愛での好意と受け取ることにした。

 今では、同居人よりもよく会話する関係ではある。単なる同僚だけど…。

「関係ないでしょ…」

 あんたには。と更衣室を開ける。

「待ってます」

 バイバイ。と手を振る御苑に、

「バイバイ…」

 手を振り返して、更衣室へ入る。

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