第7話 卒業

冬期講習が終わり、学校が始まると、ものすごい勢いで時間は過ぎていった。


最後の期末テストを終えたボクらは、後は受験の事だけで頭がいっぱいだった。


男子にとって重要なイベントであるバレンタインデーをボクは受験で終えてしまった。

なのでチョコレートは二個。母と妹からだけだった、って毎年の事だな。


やがて進学先も決まり、ボクとリュウ、みゃーこまで同じ学校になった。

これにはびっくりしたが、みゃーこは

「前にいっしょってゆったじゃん!」と怒っていた。


江南さんは、別の学校なので、ボクらとは卒業までだ。


 このままお別れなんてさみしい。


ボクは自分の気持ちにとっくに気づいていた。


きっかけなんて、いつも些細な事から始まる。




ボクは学校で一番大きな桜の木の下で待っていた。もちろん江南さんを。


冷たい風が吹く中を、彼女はやって来た。


ボクはごく普通に話し始めた。


「江南さん、ボクは君が好きです。失恋して時間も経っていないし、君に好きな人がいるとわかっていても、ボクは君が好きです。返事はいりません。ただ、自分の気持ちを伝えないと後悔すると思ったんだ…。」


言えた。やっと自分に素直になれた。

これで良い。

そして、ゆっくりとボクは立ち去ろうとした。


しかし。


「待って!」


江南さんはボクを呼び止め、うつむきながら話し始めた。

「…ウソなの。あの時好きな人がいるって言ったの。お付き合いとか早いと思ってたから。」

そう江南さんは言った後、顔を上げて真っ直ぐにボクを見た。


「…あれから色々とお話しして、一緒に出かけたりしたら、あなたの事をもっと知りたくなりました。私も矢尾君のこと、好きです。」


ボクは驚いた。しかし、彼女は真っ直ぐにボクを見つめている。


ほぼ同時にボクらは笑って、お互いを見つめていた。



       卒業の日。


式が無事終わり、最後のホームルーム。担任の言葉は聞き流して、解散。


みんなが別れを惜しんでいる中、ボクは一人教室をそっと出ていった。



 静かだった。ボク以外誰もいなかった。



昇降口で靴を履き替えていると、後ろから押された。

そこには、可愛く頬を膨らませている江南さんがいた。

「なんで私を置いていくかなぁ?」


「いや、そんなつもりじゃ…。」


「もう…いっしょに帰ろ?」


「もちろん。」


ボクらは上履きをゴミ箱に投げ捨て、外に出た。



    一面の銀世界だった。





並んで校門をでる。道は真っ白になっている。

二人の足跡だけがそこに残った。


「寒いね。」彼女はそう言って、手に息を吹きかける。


ボクは彼女の片手を握り、コートのポケットに自分の手と一緒に入れた。


「これなら、片手はあったかいでしょ?」

そう言って彼女に笑いかけた。


彼女も微笑んでいた。


カバンの中で、缶ペンケースがカタカタ鳴っている。


片手だけ温かい。いや、今は胸の奥まで温かかった。


ボクらは身体を寄せ合い、純白に染まった世界の中を一緒に歩いていく。



   雪は止みそうになかった。

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缶ペンケース 竜崎 @poyo3nt4

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