第6話 冬

冬休み。冬期講習へ通う。


あの缶ペンケースを買ったショップを通り過ぎたところにある高校で、それは行われていた。


なのにボクは講習期間中にショップに立ち寄らなかった。


12月30日。

講習から帰ると、妹がニヤニヤしながらボクの帰りを待っていた。


「お兄ぃ!電話あったよー。女の子だよぉ。いやー女の子から、お兄ぃに電話なんて!なになに、彼女?」


「…名前は?」


「えーと、え、えな…みさん?」


「…あっちいってろ。」


「ちっ。」


盗み聞きしようとしていた妹を追い払って、ボクは電話をかけた。


「もしもし?」


「あ、矢尾君。ごめんね、今大丈夫?」


「うん」


「あ、あのね、仲の良い人だけで、合格祈願も兼ねて初詣に行かない?ヒマがあればだけど…。」


「ああ、大丈夫だよ。それなら2と3のどっちかだな。4からはまた講習だから。」


「なら、2で良いかな?矢尾君もお友達誘ってきてね?」


「うん。決まったら、また後で電話するよ」


「うん!」


「…あ、あの江南さん。」


「なに?」


「その…この間はごめん。」


「いいの、気にしないで。悪いのは私だから…。」


「いやそんな事ないよ、ごめん。そんで、ありがとう。」


「…じゃあ待ってるね。」


…なんか気を使わせてるな。そう考えてしまう。

 


初詣の日。

ボクはリュウと駅にいた。ホントに仲が良いのは、やっぱりコイツだけだ。

江南さんも同じだったらしく、みゃーこ(斉木さん?だったな…)と二人だけだった。


といっても、四人でも騒がしい(特にみゃーこ!)そんな状況が、今のボクにはとても嬉しかった。


お詣りして、御守りを買い、運だめしにおみくじをひいた。

江南さんとリュウは大吉、ボクは吉。 

    みゃーこは凶…。


「ぎゃあー!まどかー交換してー!」


…とかやっていると、この後どうする?となった。


「渋谷!いこいこ!」

と、みゃーこの提案でボクらは渋谷へ。


渋谷に着くと、みゃーこが、

「お昼ごはんを賭けて、ゲームで勝負だー!」と言い出す。

「やめておいた方がいいぞ?」と言ってみる。

しかし、やる気まんまんのみゃーこ。


…案の定、みゃーこの負け。


「ぎゃー!まどかぁぁぁぁ。たすけてー!」


笑った。こんなに笑ったのは、いつ以来だろう。


気づくと、江南さんと目が合った。

「ふふっ」と笑って彼女が、

「元気でたみたいだね?」と言う。


彼女の笑顔がまぶしかった。


ファストフード店へ行くと、リュウがわざと高いセットメニューを頼み、みゃーこに睨まれていた。

仕方ないので、男子組はボクが払うことでみゃーこの機嫌をなおしてやった。


「矢尾君、好き(棒読み)」


「…はいはい(笑)」


…楽しい。

ハンバーガーにかぶりつきながら、心からそう思った。

チラリ。

江南さんを見る。すると、また目が合った。


小さく、しかし明るい笑顔でボクを見つめていた。


トクン。鼓動が高鳴った。ボクもまた小さく笑ってみた。


「やっと元の矢尾君に戻ったみたいだね。」

そう言って江南さんは笑った。


トクン。鼓動が高鳴る。


     ボクは……。


   僕らは帰路についた。


例のショップの前を通り過ぎる。

閉じたガラス戸に、みんなの笑った顔が映っている。

ボクもリュウも、江南さんもみゃーこも、みんなの楽しそうな姿が、夕陽に赤く染まっている。

  

  胸がほんの少し痛んだ。


       夜。


缶ペンケースの中から「いらない物」を捨てて、みんなで買った御守りを缶ペンケースの敷物の下に置いて、蓋を閉めた。


その日は、なかなか寝付けなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る