第3話 事件

呼び出したのは、江南さん。


図書委員をやっており、図書室の本は全部読んだと言われている、成績優秀な美少女である。


面識はある。なにしろ三年間同じクラスだ。

会話くらいは普通にしている。

とはいえ普段からの接点は少ない。

せいぜい図書室で好きな本の話を少しする程度だ。

何故呼び出されたのか?理由がわからなかった。


呼び出し場所は図書室の書庫。図書委員以外は立入禁止なのだが、今回は特別だった。

ここなら他人に話を聞かれる心配は無い。


そこで江南さんは開口一番、


     「ごめんなさい」


?…訳が分からない。そう訊ねると、


「矢尾君が、私の事を好きだって聞いたの。だけど私、他に好きな人がいるから、それで先に断っておこうと思って…。」


? なぜそんな話になった ?


確かに江南さんは、可愛い。男子も女子も分け隔てなく接してくれるとても良い人だ。だから青山さんと同じ様に人望もある。彼女を好きな男子がいてもおかしくはない。



でも、ボクが好きなのは青山さんだ。



「男の子に好きって思われるのは、うれしかったの。でも、やっぱり自分の気持ちに嘘はつけないから…。」

ほんの少し、悲しそうな顔。


ボクはちょっと戸惑いながら、

「そうなんだ。言ってくれてありがとう。でも、誰がそう言ったの?」

そう尋ねると、ほとんど話をした事の無いクラスメイトの名前だった。


なんでボクが江南さんを好きってなったんだ?

聞きたいけど、やぶ蛇になりそうな気がする。

とにかく、だ。


「そうか。フラれちゃったな、ハハハ。」

と本心を悟られないように言って誤魔化してみた。


「…ごめんなさい。」


「そんな、あやまらないで。」


焦ってそう言うと、江南さんは少しホッとしたようで、微笑んでくれた。


……やべえ、可愛い。


などと考えてしまった。コレって浮気か?


そうして書庫をそっと出た。


コソコソと誰にも見つからないように祈りながら、ボクは帰宅した。


しかし、なぜこんな話になったんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る