魅惑の長老ボアのルーロー飯

Tempp @ぷかぷか

第1話

「ああ! もう何でこんな事になってるのよ!」

「あんたがもうちょっと進もうって言ったからでしょうが!」


 あわててミレルの口を塞ぐ。モガモガ煩い。

 ガサと少し先で響いた草葉を引きずる音に心臓がバクリと大きく鳴った。

 ドスドスというその太く重たい足音は次第に大きくなりながら近づいてくる。

 ミレルも振り上げた拳をそのままに、微妙な姿で固まっている。

 あ、バランスやばい、そのままそのまま、そのままもうちょっと倒れないで!

 まもなくフゴと大きく荒い鼻息がほんの1メートルほど先で草や木々をなぎ倒しながら通り過ぎ、追加でしばらく息を潜めてようやく音は消え去った。

 ふぅ、と息を吐く。

 ミレルはすとんとお尻から倒れて天を仰いでハァハァと息を吐いていた。

 私たちは駆け出しの冒険者で、ちょっと失敗したのだ。


 ここはコイロスの森。

 私たちの住むクラジャ村からすぐの森で、私たちがいつも探検していたのは『手前森てまえもり』と呼ばれる日帰りができるところだった。

 出てくるモンスターといえばミニラビットとかフライングトードとか、そんなに攻撃力が高くないものばかり。ようはよっぽどのヘマをしなけりゃ大怪我しようがないような安全な初心者向けの場所、のはずなのだ。

 特に今日はぽかぽかと天気が良い。木立の間から光が差し込むお散歩日和な森の入口に立ちいったまではよかった。

 けれども今私たちがいるのは、その見晴らしのいい森から更に踏み込んだ鬱蒼とした森の中、いわゆる『奥の森』のど真ん中だった。


 なんでこんな事になってるかっていうと、今日がカルロの誕生日だからだ。

 カルロは私らと同じ16歳。クラジャ村で同じ年に生まれた幼馴染は8人いて、皆仲良し。それで誕生日にはサプライズパーティをすることになっている。みんな知っているからサプライズでは全然ないような気はするけれど。

 これまでは徒弟先でもらったお小遣いを集めてみんなで一つ何かをプレゼントをした。でも今年はみんな16歳になる。だから一人前として働き初める。それでカルロは一番最初に誕生日を迎えたミレルに、この森の木の実とフルーツで作った特製ケーキを振るまったんだ。カルロはレストランで働いてたから。

 形はちょっと不恰好だったけどすっごい美味しかったらしくて、そんでカルロはすっごい得意げで、なんとなく自分達の仕事したのをプレゼントしたいねってなったんだ。

 革細工職人になったファレは包丁入れを作るとか張り切ってたけど、困ったのは私たち。私とミレルは正式に冒険者登録をした、というか何でも屋になったから、これといってプレゼントするものがない。

 だから美味しい素材を求めてちょっとチャレンジをした、結果がこれなんだよ!


「リザが様子を見るだけっていったのに」

「いやだって、本当にいると思わなかったんだもんアハハ」

「ふざけんな! ビッグボアなんて私たちが敵うわけないじゃんか!」

「ちょ、声小さく、小さく」

「ぁぅぁぅ」


 ビッグボアというのは大きなイノシシ型の魔物だ。うん……無謀。

 すでにここは森の奥。

 手前森より奥の森のほうが当然珍しいものが取れる。それで奥の森入口付近でビッグボアの足跡をみつけてトレースしてたら本物に遭遇して気づかれて、逆に追い回されてここがどこだかもうわかんない。

 太陽で方角を調べようとしても緑は深く、わさわさと高いところまで茂っていて全然わかんないんだ。

 しかも。

 ぐぅ。

 森の中に大きな音が鳴り響く。


「ちょっとミレル!」

「だっておなかすいたんだもん! どうしたらいいのよ!」

「私だってお腹すいたぁ」


 ビッグボアから必死で逃げる途中、卵とポタトのサンドウィッチを落としてしまった。お昼にミレルと一緒に食べようと頑張って早起きして作ってきたのに!

 ああ、恨めしい、恨めしい。ビッグボアめ! 私たちの目の前で美味しそうにサンドウィッチむしゃむしゃ食べやがって!

 ぐぅ。

 私のお腹も鳴った。ふぅ。


「でもこうなったらやっぱり、ビッグボア倒したい」

「いやリザ。倒してどうやって持って帰るのよ。私ら2人より全然大きいじゃない、てかそんなの追いかける前からわかってたじゃん」

「でも! でも! めっちゃ……美味しそうなんだもん! ……でしょ?」

「ビッグボアのお肉は普通のボアよりずっと美味しいって言うけどさぁ」


 ビッグボアの背丈は2メートル以上で私たちより高く、体長も多分5メートルくらいはあった。てことは体重は500キロくらいはありそうな。

 普通のボアなら村でたくさん飼われている。もともと野生のモンスターだったものを何代にも渡って養殖したもので、お祝いの時くらいしか食べられないけど、ボアのアバラの骨をじゅーじゅー遠火で焼いたスペアリブとかはもう絶品で、油がぽたりぽたりと火に落ちるたびにジュワっと焦げた香ばしい香りが広がってそれをちょっとだけ甘酸っぱいソースをかけてクレアの葉っぱで包んで食べるともうね、我慢できない。

 前に食べたのはミレルのお誕生日だったなぁ。よだれで溺れそう。

 やばい。腹が減りすぎて死ぬ。

 そんでビッグボアは普通のボアより数段旨いらしい。何故ならビッグボアはこのコイロス村の奥の森に生えるパイヌの巨木の実しか食べなくて、その実の甘くて香ばしい香りがお肉にばっちり染み渡っている、らしいから。

 パイヌの実はたまに狩人さんが拾ってきてくれるけれど、炒って食べると本当に香ばしくて美味しいの。やばい。腹減った。


「ミレル、やっぱ私ビッグボアを倒す! 大事だから2回言った!」

「うへぁ。じゃあどうすんのさ。あんたの弓も刺さらなさそうだし私の剣だってそう簡単にはダメージを与えられないよ」

「罠はどう? 落とし穴とか」

「あれが入る穴を掘るの? 日が暮れちゃうよ」


 ミレルはうんざりと両手を組む。

 ビッグボアの背丈2メートル×体長5メートル……。流石にそれが入るような落とし穴は無理、か。そしてビッグボアの体は焦げ茶の剛毛とその下の硬い皮膚に覆われている。私の矢は胴体に刺さらなかった。1時間ほど前に射掛けてもその表面をぴゅんぴゅん弾かれて地面に落ちるだけだった。


「うーん、落とし穴は無理でも足を引っ掛ける系の罠はどうかなぁ」

「くくり罠ってやつか。そういえば前にギルドの講習で習ったなぁ。でも紐とか……は持ってるか」

「うん」


 元々は手前森の端っこの方にある岩山の崖でホーク鳥の卵を集める予定だった。だから命綱用にロープは持ってきている。鹿やアナグマがいれば獲りたいなと思って一応罠を作るためのセットも。

 ミレルと講義を思い出しながら輪っかを作って反対側を木に設置する。ここにビッグボアが足を踏み入れた瞬間ロープの反対側を引っ張ると、彼我の体重差は関係なく設置されたバネの魔法が発動して設置した木にビッグボアの足が釣り上げられる寸法。


「ねぇリザ、ボアの足の大きさってどのくらいにすればいいんだろ」

「習ったのはもっと小さい動物やモンスター用だよねぇ。普通のボアサイズっていうか。だからうーん倍くらい?」

「うまくはまらなかったら危ないよね」

「ていうかこの罠、よく考えたらすっごく危険な気がするんだけど。えっと、囮ってリザがやるんだよね?」

「ええと」


 罠の方式にはいくつかあるけど、このくくり罠は獲物がいつも通るルート上に設置するか、その先に餌を置いておびき寄せるのが一般的。その場合は獲物が目的に向かって一目散にやってくるところをうまく罠にかけるんだ。

 けれどもビッグボアがいつも通る道なんてわかるわけない。そうすると、後の方法、獲物の進行方向上に罠を設置するしかなくて、つまり進行方向がズレると全然意味がないわけで。つまりそれを制御できる囮が必要なんだけど。

 だってほら、囮になりそうなサンドウィッチは既にビッグボアに食べられてしまった。そうするとやっぱり囮って。弓持ちで遠隔攻撃できる私より剣で近距離攻撃しかできないミレルのほうがいい……ような?

 チロリとミレルを見るとギっと睨まれた。


「いやだってどっちか囮にならないとしょうがないじゃん?」

「しょうがないのはわかるけどリザでいいじゃん。リザのほうが身軽でしょ?」

「えっとえっと私のほうが手先が細かいからビッグボアに縄を投げたりできるかなーとか? ホラ投擲的な意味で」

「いやさ、猛スピードで襲ってくるビッグボアに後ろから縄をかけるとかないわー。投擲って言っても弓で射るのとロープ投げは全然違うでしょうが?」

「あの、タイミングとか」

「ジャンケン」

「えっと」

「ジャンケン」

「あの」

「勝ったほうが囮になるの。オケ? そうじゃなきゃ私は降りるわ」


 ミレルの声は妙に低く、有無を言わさぬ迫力がある。

 ミレルを説得できそうにない。まあ、実際のところどっちが囮でも変わりはしない。そもそもビッグボアを倒したいと言ったのは私の方だし。

 再びゴクリと喉が鳴る。

 うう、仕方がない。ちょっとだけ間合いを取る。


 ええと、これは結構危険で? いやだってビッグボアだもの。じゃぁやめるのかっていうとなんとなくもう止められない気分。だってサンドウィッチの恨みもあるし、そもそもビッグボアを諦めても無事にこの奥の森を出られるかよくわからないし、ここからホーク鳥の岩山までいくと多分夜になっちゃってプレゼントに間に合わない。サプライズパーティ今日だし。

 流石にプレゼントなしじゃ格好がつかないよね。ビッグボアなら誰も何も言えない立派なプレゼントになるわけだし? うん、早くビッグボアを仕留めないと。どうやって持って帰るかは別として。

 そんな逡巡をしている間に無情にもミレルの『じゃんけん』という声が響く。えっとえっと何を出せばビッグボアっぽい奴。

 そう思って私は渾身の力で拳を繰り出し、結果、私は勝った。やった!


「勝ったほうが囮だからね!」

「あ……」


 試合に勝って勝負に負けた感。


「ほら、勝ったんだから早くスタンバって。早くしないと夜になっちゃうわ」

「うぇぇだって」

「だっても何もない!」


 少し開けた場所のど真ん中にの地面にくくり罠を設置して埋めて、少し離れたミレルの近くにある木にその端っこを設置。

 そして私はくくり罠の近くにぽつんと立つ。ええと、さっきビッグボアはあっちの丘のある方向に走っていったから、いや、そもそもあれから既に30分ほどは時間が経っているし移動している気もしなくはない。

 はぁ。いや、ここに居る限りどっちにいったかは同じではある。背後から来たら罠をぴゅんと飛び越えて反対側に飛んでビッグボアが直線的に走ってくるのを罠にかけるわけだし。

 そう思うとちょっと足がすくんだ。

 やっぱりミレルが囮をやるべきだよ。私は中衛だよ? 1番前の前衛にいるのはミレルの役割じゃんか。なんか間違ってる! それに怖い。まじで。


「ほら、準備はいい?」

「えと、よくないけど、いい」

「なんなのよもう。どっちなの。じゃあ大声を立てて」

「まってまって怖い」


 少し離れたところからため息が聞こえた。

 ミレルは木の陰に隠れてビッグボアが罠を踏んだタイミングでくっついてるロープを思いっきり引いてビッグボアの足にかかるロープの輪を引き絞る。そこまでできればあとは自動でミレルの隣の木にビッグボアの足が吊り上げる、予定だ。そういう罠。

 でも私もミレルも直接ビッグボアを倒すことはできないわけだから、倒すならもうこの方法でやるしかないわけで。

 よし。リザ、心を決めろ。一世一代だ。

 気合一発大声を上げ、私の叫びは長く尾を引いて辺りに響き渡った、気がする。

 耳をひそめる。うーん、もういっちょ?

 そう思ったとたん、足の裏に小さな振動を感じた。そしてそれはドドドドと次第に地面を揺らして大きくなっていく。

 うっそ、背中⁉ 背中から来てる⁉

 急いでぴょんと罠を飛び越え構える。

 構えるといっても弓を構えても仕方がないのでとりあえず拳を構える。ファイティングスタイル。前衛職じゃないから全然意味が無いけどね! やっぱりミレルのほうが良かったじゃんか!

 そう思ってももう遅い。

 なんだかよくわからないけど、というか姿が見えないけどビッグボアに違いない。その次第に近づく足音はどんどん大きくなっていき、ちらりと木立の隙間に見えたその焦げ茶の姿は、えっと、もの凄く、でかかった。

 なんとなくこれまで一目散に逃げていて、聞いた話から奥の森にいるビッグボアは背丈2メートルくらいと聞いていたからなんとなくそうだと思ってたけど! いや、見えるこれって背丈が4メートルくらいあるのでは!?!?


 無理無理無理無理無理無理無理無理ィ!

 私はくるりと後ろを向いて、やっぱり一目散に逃げ出した。

 ミレルの『あちょっと』という小さな声なんて気にしてる隙なんてない。だってビッグボア、めっちゃでかいやん! あんなんに突進されたらぺちゃんこになって死んじゃうやん!

 それで走り出したけれども気がつくと眼の前が地面でドベッという音とともに顔がずりりと痛みを感じる。やべ、転んだ? いてて、いやそうじゃなくてもう真後ろに迫って足音に後ろを振り返った瞬間、キュイという音がした。そうして目の前にビッグボアの大きな影ができ、くくり罠がビッグボアの片足を大きく持ち上げているところだった。

 ふわ、ぁ。でか、いわ。

 ふわりと前足をぶかっこうに上げるビッグボアに、なんていうか私はその巨体の影にすっかり入ってしまって、ああ、このままだと踏み潰されそうだ、なぁと走馬灯がかけめぐりそうになった瞬間。


「はよ逃げんかいボケェ!」

「えっ? ふあっ?」


 そんな大声がして、おそらくくくり罠の端っこを予定通り木に縛り付けたミレルが私とビッグボアの間の僅かな隙間に砂埃をたてながら滑り込んで来た。

 それはなんだか走馬灯というよりはスローモーションのようにエコーがかかりながらももったりと妙にゆっくりな時間で、ビッグボアの前足を支えるロープがその自重に耐えきれずブツリと切れるのが見え、あーもうだめだーミレルも一緒に死んじゃうーとか思ってそのビッグボアの大きな影が落下してくるのを思わずキュっと目を瞑って待ち構えていて……もその瞬間は訪れなかった。


「せ、狭ッ! はよどいて! まじ、死ぬ」

「えっあっえっ?」


 目を開けた瞬間、最初に感じたのは強い血の香りで、その次にミレルの革鎧の汗臭い臭いがツンとして、目を開けると目の前にグリンと目を回したビッグボアの顔があって思わず叫び声を上げた。


「ぎやあ!」

「うるっさい! ほんま役にたたへんな!」

「あの、ミレル、地が出てる……」

「あ、ごめ、でもまじで早く出て、狭い」


 私たちの村は方言が結構きつい。だからそのうち王都で有名な冒険者になろうと誓った私とミレルは標準語の練習をしているところだったのだ。

 いやそんなことよりあらためてマジマジとみると、目の前のビッグボアのでかい顔、というか体の真下にミレルが挟まれ、そしてその先でミレルの剣がビッグボアの腹に突き刺さっているのが見えた。

 急いでビッグボアの影から抜け出てミレルをビッグボアの巨体から引きずりだすと、ビッグボアはドゥとミレルの剣の上に倒れ、グピゥという断末魔の声をその獰猛な口から漏らした。


「あの、一体何が?」

「いや、リザがコケてバカみたいに固まってるからさ、飛び出すしかないじゃん」

「うあ、ありがと」

「それでさ、私の力で切っても弾かれるだろうけど、ビッグボアの自重で自分で剣にささって来たら倒せるかと思ってさ。心臓のあるあたりに剣を置いてみたの。クリーンヒットした、んだよね、よかった。よかった、本当に、よかった、ふえ」


 ビッグボアが倒せた。

 おお、なんということでしょう。そうするつもりだったけれど、目の前にすると信じられない。こんなにでかい。背丈は4メートル、体長は7メートルはありそうな。到底勝てるサイズじゃない。

 でもでも私たちは死にかけて、そして生き残ったのだ。

 その突然の緊張の喪失と喜びと驚きと色々なものが去来して、馬鹿みたいに2人で抱き合って号泣してしまった、のは村の皆には秘密だ。


「それにしても本当に、私たちで倒せたんだよね?」

「う、うん。ミレル凄い。えっとでも、どうしよう、これ」

「持って帰れない、よね。どう考えても」


 改めて見るとそのビッグボアはでかすぎた。聞いてた話と全然違うじゃあないか。

 それでとりあえず片足だけ切り落として証にして、それでも凄い重量だったのだけど、村の皆に知らせて戦える人総出で素材を回収に戻ってきた。

 どうやらそれは奥の森のビッグボアの中でも森の主ともいうべき存在で、誰も倒せないモンスターだったとか。

 私らは皆にスゲェといわれ、親とギルドの先生には馬鹿と頭を引っ叩かれて、その日は村を上げてボア祭り。

 普通のボア肉よりもっと旨いビッグボア、よりもっと旨い森の主ボア。

 けれどもくたくたの私とミレルはいつのまにかくてっと眠ってしまったその翌日。


「ハッピーバースデーカルロ!」

「おめでとうカルロ!」

「ありがとう!!」


 カルロのバースデーパーティは翌日に仕切り直された。

 せっかくのパーティなのにボアパーティとまざっちゃうと残念だもの。それで私たち同期はカルロにプレゼントを送った。他の幼なじみは革の包丁入れの他は農園で働いて作った極上のクレアの葉っぱと、私たちが行きそびれたホーク鳥の卵とアークビーの蜂蜜。みんながみんな食材だ。当然と言えば当然だ。だってミレルがカルロのケーキを食べたとき、本当においしそうだったんだもの!

 私たちのプレゼントはもちろん私たちが最初に取ってきたビッグボアの前足。


「私たち頑張ったよ! 凄いでしょ!」

「おう、スゲェな。皆もスゲェ。それでやっぱり……」

「もちろん! これで美味しいもの作って!」

「はぁ、やっぱりか」


 カルロの眉毛がちょっと下がる。だってカルロは料理人の卵なのだ。

 だからこの皆がとってきた食材でカルロが料理をしてくれる。サプライズパーティでもお礼は必要。ミレルは得意な歌を歌ったのだけれど、カルロが得意なのは料理なんだからそれで返してもらわなくっちゃ。

 カルロは食材を見渡す。ボア肉、クレア葉、ホーク卵、蜂蜜。


「うん、決めた。ちょっとまってな」


 カルロの行動は手早かった。

 玉ねぎを揚げ焼きして1センチ角に切ったボア肉を蜂蜜を絡めて炒めて色が変わったらにんにく、しょうが、八角なんかのスパイスを加えて更に炒める。それに醤と砂糖とお酒を水を加えて沸騰したら5分ほど煮込み、玉ねぎとゆで卵を加えてさらに煮る。

 その時点でもうクラクラするほど甘い香りが辺り一面にただよった。やばい、蜂蜜ボア、最強。それにとろみがでたらオイスターソースとか更にスパイスを加える。

 丼飯の上にクレアの葉を引いて、肉と卵の炒めものをその上に豪快にのせる。


「おまたせ! 長老ボアのルーロー飯だ!」

「うわぁすげぇうまそう!」


 とろとろの肉にあん。なんかもうお箸を取る前から口の中がよだれまみれだ。

 一口肉を頬張って噛みしめるとかしゅっという揚げたクリスプな食感が弾けてその下の肉に歯が到達すると、蜂蜜と甘辛く煮た香りと力強く野趣あふれるボア肉の強烈なインパクト。そしてそれにふっくらごはんとくればもうたまらない。

 気がつくとごはんが3杯もお腹に消えて、みんなばたりばたりと床に横たわっていた。


「めちゃめちゃ旨い、意味分かんないくらい旨い」

「俺もこんな美味いもの作ったのは初めてだ。みんなありがとう」

「ほんとほんと。まじヤバい」

「また作って。ほんと忘れられない」

 みんなの笑顔が飛び交った。

「リザとミレルがまた長老ボアを狩ってきたらな」

「ええーちょっともう無理ー勘弁してー」

「来年はもっと違う美味しいの狩ってくるよ」

「楽しみにしてるぞ」


 ううん、でも本当に忘れられないほど美味しかった。

 だから来年は……何を狩ろうかな。

 あのビッグボアよりはもう少し、簡単に倒せるやつにしよう。


了。

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