第7話 トリスちゃんと忠犬
考えても無駄ということに気付くことが出来たわたし。
きっと賢い!
無駄に考えるのはやめて、とりあえず動くしかないのだ。
まずは動きにくいドレスをどうにか、しようと思う。
「兄様!」
道場破りをせんという勢いでナイジェル兄様の部屋の扉を思い切り、開けた。
またの名を『蹴破る』とも言うけれど、細かいことを気にしてはいけない。
兵法とはそういうものなのだ、多分!
「ど、ど、どうしたの、トリス。ドアが酷いことになっているけど!?」
職人さんにドアを修理するというお仕事を提供する為にわざと蹴破ったのだ!
嘘です……。
ドアを開けるのがもどかしくて、『お前を蹴破れと轟き叫ぶ』と足が言ったから。
勝手に足が動いたのだ。
わたしは悪くない。
「兄様。妹相手に怯えるのはやめてくださいまし」
「こ、こ、これは怖がっているんじゃないよおお」
怖がっているのではないことは分かる。
いわゆるオーバーリアクションなだけなのだろう。
いちいち、動作がオーバーでまるで子供向けの演劇で大人気のヒーローみたいなのだ。
そのヒーローの普段の様子が『これ、どういうことなんだよ!ねえ!』みたいに面倒なところがある。
ヒーローはそれでもいざという時に頼りになるカッコよさがあるのだが、兄様にそんなものはない。
あるのは余分な脂肪だけなのである。
「兄様。子供の頃に穿いていた狩り装束を貸してください」
「はあああ!? トリスがなんで、そんなものいるのおお。危ないよおお。危険なんだよおお。ずっと、僕とお家にいようよおお」
兄様は今年で十四歳。
帝国学院に通わなくてはいけない人とは思えない言い草だ。
これはしっかりと教育をしないといけない。
でも、今はそれどころではないんだった。
「早く! ハリーアップ!」
「は、はいいいい」
面倒な兄様だこと。
ドレスの裾がまくれるので少々、はしたないが仕方ない。
首元寸前にヒールの爪先を感じさせるハイキックをして脅したら、おとなしく言うことを聞いてくれた。
ナイジェル兄様も小さな頃は普通のサイズだったようだ。
割合、ぴったりとした狩り装束でパンツルックになった。
実に動きやすい。
そう。
とても蹴りやすいのだ。
ここが大事。
しかし、馬を使えないので屋敷を出る算段が思いつかない。
よく手入れの行き届いた庭園で思案も兼ねて、しょんぼりとしていると真っ黒で巨大な毛玉の塊がわたしに向かってくるのに気付いた。
(お嬢~、どうしたんですか~。しょんぼりとか、ないでしょ。キャラじゃないですよ)
「ん?」
真っ黒巨大毛玉はわたしの前で急停止をするとハァハァと荒い息遣いをしながら、こちらを純粋無垢なつぶら……でもない瞳で見つめてくる。
気のせいなのか?
(お嬢~、見つめすぎですよ。うへへへ)
「んんん?」
気のせいではないようだ。
わたしの前で舌を出して、ハァハァいっている
信じられないことだが、どうやら、わたしは動物の言葉が理解出来るということなんだろう。
これもわたしを現世に戻してくれた女王の力ということなのか?
「シャドー。わたしの言うことが分かる?」
(分かりますとも!)
即答だから、間違いないようだ。
このシャドーとは五歳の頃に出会った。
我が家の庭はとても広く、森のように木々が茂っている。
そのせいなのか、様々な動植物が集う場所となっていた。
シャドーもそうして、我が家の庭にやって来たのだろうが、酷い怪我をしていて、今にも死にそうだったのだ。
まだ、仔犬だったシャドーを可哀想に思ったわたしが助けたところ、仔犬だと思ったら、実は狼だったことが分かり、大目玉を喰らったのだが……。
狼の子だけど、わたしには懐いていたし、言うことをよく聞く。
なのでこの庭の番犬として、皆に認められているのだ。
「シャドー。わたしを乗せて、走ったりは出来るかな?」
(え?)
「出来ないの?」
(で、で、できますとも!? お嬢を乗せて走れるなんて、ぼかあ幸せだなあ)
お前、一人称が僕だったの!? ということに驚きを隠せない。
だけど、これで屋敷から出て、目的地に行けるかもしれない。
何とかなると思えると元気が出てきた気もする。
よし! 頑張ろう。
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