閑話 鬼のキース、人知れず涙する
「ふむ」
八歳の娘だ。
的確に急所である肝臓を狙ってきた。
強烈な一撃だ。
それも蹴りで決めてくるとは思わなんだ。
拳ではなく、足を使ったところも侮れまい。
息子として生まれなかったことを今日ほど、残念に思ったことはない。
あれほどの天賦の才能を持ちながら、それを隠したまま、生きようというのか?
トリスが生まれる時、不思議なことが起きたことを思い出した。
瑞兆の印と言われる虹色の雲が我が家の上にかかったのだ。
英雄となるべき男児が生まれる。
そう考えたのはいささか、気ばかりが急いていたのもあるだろう。
憎きカラビアの家の息子が中々、どうして侮れない出来というのを聞いていたせいかもしれない。
しかし、そんな私を嘲笑うかのように生まれた子は息子ではなく、娘だった。
私には既に二人の息子がいたが、娘は初めてだ。
嬉しいのにそれよりも悔しさが勝ってしまった。
我ながら、何という勝手な思い草であろうか?
ところがである。
キャサリンが生まれたばかりの子を抱いている姿に私の下らない考えなど、全て吹き飛んでしまった。
こんなにも可愛い生き物がこの世界にいただろうか。
愛らしい。
目に入れても痛くない。
そのようなことは手ぬるい。
この子の為ならば、世界を亡ぼしてくれん。
それでも手ぬるいかもしれない。
トリスは大きくなれば、なるほどにその非凡な才能を発揮するだけでなく、輝かんばかりの美しい子に育っていった。
黙っていれば、あまりの完成された美しさに
それでいて、驚くほどに活発で物覚えも早い。
これならば、どのように高貴な家に嫁いでも……いや、トリスは嫁に出さんぞ!
ずっと家にいていいのだ!
「あなた、いい加減に寝て下さいな。ブツブツとうるさいです」
「あ、すまん……」
「早く! 明日も早いのでしょう」
「あ、そ、そうだな」
トリスの気が強いのは私のせいだけではないな。
どうも
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