第3話今度こそ神様お願い!

全世界統計によると、人口は激減しているらしい。原因は色々あったが、色々あったので、結果的に人口は減っている。そういう話である。

人類は色々頑張った。色々頑張ったが、やっぱり色々あったので人口の減少を止めることはできなかった。

人類は減った。しかし、一部の人にとってはいい塩梅に減った。一定数を保って人口は落ち着いた。そこまで増えないし、そこまで減らない。

人と人との距離は絶妙な具合で開くようになった。近すぎず、離れすぎず、自分の時間と空間を持つことができるようになった。

過去の人は無駄に技術を向上させてくれたため、残された子孫はその恩恵に預かることができた。彼らは楽に生活することができた。


人口はその後増えなかった。増えなかったが、減りもしなかった。

別の言い方をすれば、人に転生したい魂が毎回同じになった。御新規さんは滅多に現れなかった。

では、それまで世界にうじゃうじゃとはびこっていた人類の大半はどこへ逝ったのか。どこへ転生したのか。




第何次転生ウェーブ猫の乱である。




ある時は竜になりたいと夢見ていた人々は、これではいけないと現実と向き合った。その結果、猫の素晴しさに気づいてしまった。

なんて猫は自由なんだ!

なんて猫は愛らしいんだ!

なんて猫はネコでぬこなんだ!

自分も猫になりたいな。猫になって、一日中ごろごろしていたいな。

猫生を謳歌したいという人が後を絶たなくなった。そして実際に一生を終えて神様の前に立ったとき、彼らは言うのだ。


「転生先は猫がいいです」


神様は転生不可能な竜よりよっぽどいいと、彼らをみんな猫に転生させた。




第何次転生ウェーブ猫の乱の始まりであった。




猫に転生した人はみんな満足した。猫として産まれ、猫らしく死んでいく。転生猫たちは満足だった。

人の時間ではできなかったことをして、本懐を遂げた。憧れた猫らしく自由に生きた。

本能に忠実に生き、時に野生へと還った。彼らは猫らしく猫だった。


だから車の走る道路へ平気で飛び出した。

ロードキルした。

ロードキルした。

ロードキルした。

人が減って、自動車も減った頃には野生のシカやイノシシに牽かれた。

ロードキルした。

ロードキルした。

ロードキルした。

死体は処理されなかったので、キレイに喰われた。

彼らは猫らしく猫だった。


急激に猫の数が増えたため、皮膚病も増えた。ダニもノミも元気にぴょんぴょん跳んで、花粉症ではないのに痒かった。

そして当然、ハゲた。

ハゲた。

ハゲた。

地域的につるっつるのスフィンクスが大量発生する事態となった。


春が毎年やって来た。猫たちは燃え盛った。子猫が増えた。子猫はトンデモ級に可愛かった。

人は可愛い猫と子猫たちにごはんを与えたくなった。野良猫であっても餌を与えたくなった。与えた。なつく姿に癒された。もっと餌を与えた。

猫たちは肥えた。

太った。

デブになった。

それでも可愛かったため、人々は猫たちに餌を与えることを止めなかった。

はっぴぃデブ猫天国が現実のものになった。


人が減ったため、 猫のために開発されたおいしいおやつの生産量が激減した。例の、ちゅ~るとかいうヤツである。

猫たちは悲しんだ。

憤怒した。

爪を研いだ。

最終的に工場へ押し寄せ、とっとと作れと三日三晩抗議デモを行った。ここら辺は人っぽかった。デモ集団の主体は、猫に転生する以前にも経験したことがあるような慣れた動きをしていた。

夜は大運動会だった。ここら辺は猫っぽかった。

急かされた工場を所有していた企業たちは結託して、全作業を機械化し安定供給を実現した。

材料は秘密である。

ヒ・ミ・ツ。で、ある。


人が減り、猫が増えたことで一番困ったことは縄張り争いであった。猫は自分のパーソナルスペースを主張する。家ネコは当然飼われてやっている家を縄張りとする。では、屋外ネコはといえばどうしているのだろうか。

とにかく被る。

被る。

ばったりどころではない頻度で他のネコに遭遇する。

ボスネコなるものもいるにはいるが、ボスが全員強くてリーダーシップを発揮するカリスマネコだとは限らない。つまり、まとまらない。

更にはエサをくれる人の数は限られる。陣取り合戦ならぬ餌取り合戦の開幕である。

結局いつも勝負はつかず、太陽が数センチ動く頃にはおのおの散ってもろもろの箱の中へ納まり、各々日向を求めてジリジリと動いているようではあった。

猫はどんな時代も猫であった。

しかし、いつまでも戦国時代であっては安心して子育てもできない。おやつなどもっての他である。

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