第2話神様お願い

第何次転生ウェーブである。

今年の流行りは干支に習って竜になりたい。そんな夢に夢を見るチャレンジャーが後を絶たない。そんな年があった。

現実的に考えて竜という生き物は存在しないし、空想上の獣だということくらいほとんどの人は知っている。しかしそれでも多くの人は言うのだ。


「竜にしてください」

「ドラゴンにしてください」

「ラスボスじゃなくていいから、迷宮の門番的な竜にしてください」

「長くない方の竜がいいです」

「コイから頑張って進化してもいいです」


何と言われても竜なんて生き物は現実には存在しない。

神様は考えた。

妥協して恐竜に転生させたようとした時もあった。失敗した。転生させた瞬間に化石となってしまい、残ったのは目を据わらせた転生待ちの魂だった。


「竜に転生させてください。恐竜は違います」


ある時はバレないようにそれっぽい生き物に転生させたこともあった。

タツノオトシゴ、リュウグウノツカイ、トンボ、リンドウ。神様は頭をひねった。

意外と「竜」と名の付く生き物は強かったので、満足度はそこそこ。ただし、雄に転生した人は雌に対して頭を上げられなくなるらしかった。自然界の雌は強い。

それでも竜に転生したい人の波は治まらなかった。


世界は疲れていた。一生を道具のように酷使され、搾取され、塵のように棄てられる。

戦争が起こった。一個しかないはずの命には価値がない。こんなことのために生きてきたのではないと泣いた。こんなことのために産まれてきたのではないと哭いた。声は届かなかった。

やりたいことを見出だして努力した。どんなに頑張っても周りからは認められなかった。結果を出せなかった。あげくの果てには否定される。意味もなく罵倒される。お前は何をやっているのかと、切り捨てられる。

世界に生きる人々は疲れていた。


こんな道をいきたかったんじゃない。誰しもが最期の瞬間には天を仰ぎ、後悔をした。

たった一回の命なのに、たった一回しかない人生なのに、人は簡単に狂わされる。

生きる道も、生きようとする意志も、生きたいと思う意思も簡単に狂わされ、あっという間に転げ落ちる。

崖の下に突き落とされる。


助けようとしてくれた手もあった。助けようとした手もあった。

だが、その世界の人は落ちる瞬間に微かな希望を持ってしまう。


「次があるから」


転生させてくれる存在がいるということは、そういうことなのだ。

たった一つの命にしがみつくことを忘れさせてしまう。もういいや、もう終わりたい、終わらせたい。

そんな風に思わせてしまう光を、神様は世界の人々に与えてしまった。

希望を持たせ破滅を与える光を、神様は生きる命に夢見させてしまったのだ。


疲れた世界が夢見たのは、おとぎ話のファンタジー。空想の世界であった。

頑張った分だけ自分に返ってくる。そんな世界を人は夢に見た。


そんな経緯で「竜に転生したい」ウェーブは発生したのであった。










なごなご

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