第4話
薄闇、照らす蛍光灯の下、あやめの浴衣の帯を解いて、浴衣を右、左へと広げた。下着は着せてなく、両腕を広げ、両足も広げた。
そこに計量カップに入った水を大の字に横たわる妻の白い額に垂らし、首、右腕、左腕と垂らした。胴体は多めに流し、残りの水は両足にかけた。
ガーゼ生地のタオルを水を垂らした各部所にかけてあげた。
全身に聖水がかかり、身体に染み込むのを確認すると、洗礼の儀式はひと段落した。
浴衣を着込んだ姿に戻すと、妻はまた苦しそうな表情を浮かべた。布に氷水を入れて、彼女の顔に当てがってあげた。
あやめが召される時期は分からないが、教団に今の状況を伝えることはできると思い、受話器を取り連絡を入れて待った。
折り返してかかってくるのに十分ほど。待っている間は不安と緊張で落ち着けなかった。
教団事務の女性信徒が対応に周り、あやめと別れる手順を聞いた。まず、側にいてあげて彼女の血流が止まることを確認することだった。
それ以降のことを聞いたが、それはそれで先に考えようと思った。
再び彼女の側に寄り添って、手首の脈が打っているか確認した。妻はまだ生きていた。
そうしている妻の呼吸は穏やかだった。今度は自分の喉が渇いてきたので、妻の側を離れて、水道の蛇口をひねり、手酌でゴクゴクと水を満足いくまで飲んだ。
その時、あやめからうめき声が聞こえてきた。急いで蛇口を閉め、彼女の側に急いだ。
意識は遠のきつつあった。
「父と母のお墓に入れるの?」と戦慄を小声で口走るあやめ。
「違うんだ。君は今、儀式を終えて、私の宗教に入ったばかりなんだよ。だから、お母さん、お父さんのお墓には私が毎年お参りに行く」汗を拭う私。
「そ、そうなの?それなら安心。私は春人と父と母といっしょなんだから」妻は笑顔で囁くように呟いた。
あやめは状況を理解出来ていなかった。しかしあの笑顔は至福に満ちていた。決してない二つ宗教にまたがっての天に召す姿の中で、微笑んだ。
しかしことは動き出し、もとには戻れない。
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