四、鬼之面と懐刀が〈地獄の大釜〉の階級を選ぶの回

 隊の兵士たちがこちらを見ながらひそひそと話をしている。その内容は、鬼之面がどの階級のものを選ぶかということらしかった。人気の献立である〈地獄の大釜〉はいくつかの階級が分かれていて、その階級が増すごとにその汁の辛さが変わっていくらしいのである。

 もしかしたら〈帝王〉を選ぶのではないかと、兵士たちは大いなる期待を寄せているようであった。〈かすかな足跡〉〈小悪魔〉〈中悪魔〉〈大悪魔〉と順に辛くなっていく先の、最も辛い階級が〈帝王〉である。兵士たちの中にも勇敢に挑戦したものはいたのだが、それを食べ切れたものはいなかった。鬼之面は耳がよいので、これは是が非でも〈帝王〉を選ばねばなるまいと思い、飲み物の〈泡沫ほうまつの夢〉とともに〈地獄の大釜〉の〈帝王〉を注文することにしたのである。

 注文を聞いた緋色の怪物はおどおどと、「あの、〈帝王〉は本当に、本当に、本当に辛いですよ。初めてのお客様は〈小悪魔〉が、辛いのがお得意のお客様でも〈中悪魔〉をおすすめしております。辛いのが苦手な方にはちょっとだけ赤き粉が振りかけられた〈かすかな足跡〉もありますが」と言った。

「いや、〈帝王〉で大丈夫だ」と鬼之面は大声で言った。それを聞いた隊の兵士たちからは抑え気味ながらも、おおーっと歓声があがり、鬼之面はその声を聞いてふふんと満足げな笑みを漏らしたのだった。

「あの、最初から〈帝王〉は……」と緋色の怪物がそれでもまだ止めようとするので、それほど熱心に言うならよしておこうかなと鬼之面の心はややぐらついたが、それよりも早く懐刀が、こちらにおわす方を誰だと心得る、一騎当千いっきとうせん、向かう所敵なしの分隊長、鬼之面様だぞと鋭く叫び、緋色の怪物は鬼之面のことなどまるで知らなかったけれども、その勢いに気圧されてははーっと頭を下げたのだった。

「では、そちら様も〈帝王〉でよろしいですか?」

「いや、俺は〈小悪魔〉をもらおう」と懐刀はさらりと言った。「あと〈泡沫の夢〉と、この三種の盛り合わせのやつと、芋の堅揚げを大皿でもらおうか」

「かしこまりましたあ。それでは少々お待ちください」

 緋色の怪物がぺこりと頭をさげると、絶えずじゅうじゅうと音が鳴っている厨房から、少々お待ちくださいとたくさんの声が響いてきた。鬼之面と懐刀が〈泡沫の夢〉を飲みかわし、盛り合わせや芋の堅揚げをつまみながら次の遠征の計画などについてぽつぽつ話をしていると、やがて小さな黒い鍋に入れられた、ぐつぐつと煮えたぎる〈地獄の大釜〉が運ばれてきた。

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