本当の私


それから半年後、南さんと恋仲になった。



南さんも、ぼんの姿は見えない。



でも、ぼんは南さんの頭の上が好きみたいで、よく乗っていた。

それがなんだか微笑ましい。



「マナって、すごく優しい笑顔だよね。」



ドライブデート中に寄ったサービスエリアの食堂で、南さんが言った。



「え、そう?」



「うん。すごく好き。」



「…!」



ボッと顔から火が出る。

南さんは、思ったことを口に出すタイプだ。



「…ね、き、今日マナの家行ってもいい?」



「え゛。」



「もももちろん無理にとは言わないよ!」



––家、今どんなだっけ…。

普段から綺麗にはしてるけど…

冷蔵庫は酒まみれ。缶のゴミも溜まってる。



「えーと…」



「どっぼ。」



ぼんが南さんの頭の上からこちらを見つめる。



––今まで、私はなんでも彼の趣味に合わせて、彼が嫌な思いをしないように完璧な私を作ってきた。酒なんて飲んだことない、みたいな私を作って、気を遣って…



「い、いいよ。ちょっと散らかってるけど…」



「ほ、ほんと!?やった!」



––ちゃんと、私を見てもらおう。



「ぼん、勇気くれてありがと。」



私は彼に聞こえないよう、小声で言った。



「きゅ!」





夜、私の家に着いた。



「おじゃましまーす!」



「へへ…ど、どうぞぉ…。」



緊張する。とても。

もしかしたら、今日、フラれるかもしれない。



「え、綺麗じゃん!散らかってるって言ってたのに!」



彼は剥き出しの空き缶のゴミ袋を見つけた。



––うっ。フラれる…



「あ、マナお酒飲むの?」



「え?あ…うん。ビールが好きで…。」



「え、俺も好きだよ!じゃあ、今度一緒に飲み行こう!美味しいクラフトビールが飲めるとこ知ってるんだ。」



「…え?」



「え、嫌だった?」



「違う!あの…引かないの?」



「え?なんで?」



「こんな…酒飲みの女…。」



「え、むしろ好感!マナって、お酒飲まなそうだったし、むしろそういうの嫌いそうだったから。」



「こ…これがほんとの私…です。」



「そっか。うん、好き。」



「…ぅぅ…ありがとぉ…」



「えっ、なんで泣くの!?」



私、こんな泣き虫だったのか。



「…これから、一杯どっすか?」



私は冷蔵庫を開けた。

ビールが6本。パック買い。



「あははっ!いっすね、賛成ー!」



私達は、缶ビールで乾杯した。



おつまみは、イカソーメン。

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