ブ男との流儀

 物心がついた頃には、男はみんなあたしのものだった。そう、父親さえが夢中になるほどに。


 でも、あたしにだってプライドがある。


 言いよる男は誰であろうとシャットアウト。でもそこがまた魅力だと持ち上げられて、同性からはいやらしい女だと蔑まれてきた。そう、母親にさえも。


 そんなあたしが出会ったのは、これまで見たこともないブ男だった。猫背で背は低く腰も曲がり、若いのに歯の手入れさえもままならない、ニキビ跡でボコボコの顔。


 彼を見た瞬間、あたしの心に火がついた。


 あたしに足りなかったのは、彼だったんだ。これまで生きてきた理由は、彼と会うためだったんだ。


 あたしは彼のことを探偵に調べさせた。住んでいる場所、行きつけの飲み屋、好きな食べ物。すべての資料を念入りに読んでもわからない項目があった。


 好きな女性のタイプ。


 ひょっとしてゲイ? そう思ったけれど、彼はこれまで誰ともつきあった形跡がない。それどころか、友達もろくにいなかった。


 あたしとおなじだ。ただ、美しいか、醜いか、それだけの差しかない。


 あたしは彼に猛アピールした。そしてついに、睡眠薬の力を借りて彼と初めての夜を過ごした。


 案の定彼は、責任を取るためにあたしと結婚してくれることになった。


 でもそこに愛情はなかった。


 愛されない孤独に背筋がゾクゾクした。そしていつしかあたしは、彼に愛されていない事実に快感を得ていた。


 周りからは美女と野獣なんて言われているけど気にしない。


 あたしは、これから先も彼に見合う女でいるために、ずっと綺麗でいなければならない。


 そうでなければ、彼に愛されてしまうから。


 彼に浮気の心配はない。だって、彼は人を信用していないから。


 他人に話せない秘密を共有するのって、なんだかたまらない気持ちになるのよね。


 これからもずっと、綺麗でいてあげる。


 おしまい

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ずっと綺麗でいてあげる 春川晴人 @haru-to

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