第十八稿 人民掌握軍の実力

「まずい!退避しろ!」


敵の1人と戦っていたパクチー君が鋭く言う。


「てめーらは下がってな。俺がこいつらをまとめてやる。」


サレがそう言うと、サレと同等だと思われる他の2人は黙って下がった。


1人はレタス村に向かった人民掌握軍を呼び戻した奴で、もう1人はパクチー君と戦って引き分けていた奴だ。


少なくともパクチー君と引き分けた方はそれなりの強さのはず。


そんな奴が黙って下がるってことは、それなりの攻撃ってことじゃないの?


パクチー君の話し方からしてもそんな感じがする。


サレは大き目の箱を地面に投げつけた。


「チッ。おもちゃ箱が!」


パクチー君が悪態をつく。


箱が開くと中から巨大な鉄の塊が飛び出して来た。


…なんて言うんだろう?棒人間が鉄で出来た感じ?


「なんだこれは!」


パクチー君が絶句する。


「か…かっこいい…」


ルッコラ君は憧れの眼差しで観てるよー。


種族が違えど2人とも男子なんだねー。


私もアニメとか好きだけどロボットだけは理解できん。


そう。つまり箱から出てきたこれはたぶんロボット。


ただ、骨格が細い。多分この世界にロボットという概念がないからなんだろうね。


とはいえ、私たちでこのロボット?を倒せるのかは分からない…


「何なのあれ!?」


耳元でバジルちゃんがギャーギャー喚く。


「たぶん…ロボット…中に人が乗って動かすタイプじゃないかな?」


「ほう?さすがは勇者。この機人の秘密に気が付いたか。俺が発明した試作品1号だが、てめーらで試してやるよ。」


そう言いながらサレ曰く機人、つまりロボット?に乗り込んだ。


それにしても機人かー。名前よく考えつくものだねー。


「どうやって倒すのよ?」


バジルちゃんが怒りながら私に問いかける。


「このタイプは、人が乗り込むって言っても乗り込んだ人が鉄で覆われていないでしょ?乗っている人間を直接狙っちゃいましょ。」


まるでオープンカーにでも乗るかのような形でロボット?機人?を操縦しているサレ。


私の知識が正しければ、今の私たちの世界のロボットは中の人間、パイロットって言うのかな?をちゃんと守る設計になっているはず。


そこに思い至らないとはまだまだ甘いよサレ君。


ニヤリと笑って私は堂々とパクチー君に指示を出す。


「パクチー!外壁は無視してサレ本人を直接狙っちゃって!」


「!なるほど。そうか!さすがは俺と引き分けた勇者だな!」


だから引き分けてないでしょ!あんた負けたんだよ。


「この試作品1号の弱点がまさか俺自身だったとは…迂闊だったな…だが俺自身の強さは文句ねぇ!」


まぁ私のはカンニングみたいなものだけどね。


でも確かにサレが言うように、パイロットがむき出しでもパイロット自身の強さがある場合にはあまり関係ないんだよね…


パクチー君がサレに向かってジャンプする。それを迎え撃つようにサレは握器の鉄棒を構える。


「パクチー!それ矢を発射する飛び道具にもなるから気をつけて!」


すかさず私が指示を出す。


私の二の舞は踏ませないよ。


「…なるほど…」


そう呟いたサレは素直に巨大なロボットを箱にしまった。


「どうやら勇者は邪魔なようだな。」


その1言で後ろに下がっていた2人が前に出てきた。


さすがに多勢に無勢だと思ったのかな?


それにしても自分でもびっくりなんだけど、パクチーの戦闘力がどんどん上がっているのが自分でも分かる。


戦闘経験値が上がって的確な指示を出せるようになってる。


なんて言うんだろう。次はこんな攻撃がくる可能性がある。という警告が脳裏にぱっと浮かぶ。


これがスポーツ選手とかが言う、経験則ってやつなのかな?


前に進み出た2人と真ん中のサレに対して、私たちも横並びで対峙した。


「第2ラウンド、いや第3ラウンドか。始めようぜ。」


にやりとサレが笑って再び戦闘が始まった。



サレは相変わらず箱を取り出して放り投げてくる。


あれ、確か消耗が激しいとか言ってなかった?って思ったら中身はアイテムか!


「あの箱の中身って本当に何でも自由なのかな?」


ある程度回復していたクレソンちゃんに聞いてみる。


もしも、本当に何でも自由に中に詰められるなら、正直私たちに勝ち目ないじゃん?とゆーか反則するぎる。


「体力を著しく消耗する。というだけじゃ割に合わない偉才だもんね…」


クレソンちゃんも私に同意する。いつもののんびりおっとりとした話し方をしなくなった時は本気で物事を考えている時。


「中に入れる物には条件があるのかも…でも何だろ?ロボットまで出し入れ自由だったから中身の制限とかじゃなさそう…そういえばあのロボットはサレが自分で作ったって言ってたっけ?」


私がブツブツ言うと、クレソンちゃんが閃いたような顔つきをした。


それにしてもパセリ冴えてるなー。


自分が作ったキャラだったけど、こんなに状況を読めるキャラだったっけ?


「例えばなんだけどさ、箱自体は自由自在に出せるけど、その中身は自分で事前に用意しておく必要があるって力だったらどうだろ?」


サレが恐らく体力を回復するであろうアイテムをごくごくと飲むのを遠くから見てクレソンちゃんが言う。


「ありえるね。だとしたらあいつが用意した中身を全て使い切らせればこっちの勝ちなんじゃない?」


そう言った後に私は隣で話を聞いていたパクチー君を見た。


「任せておけ。」


そう言うとサレに向かって走り出した。


しかしその前にレタス村に向かった方の男が立ちはだかった。


ぱっと見、男は掌具も握器も持っていないように見える。


「邪魔だぁー!」


パクチー君は爪伸で伸ばした爪で前に立ちはだかる男を攻撃した。


「握器:指輪剣(リングソード)。」


男が呟くと、右手人差し指に付けていたシルバーリングが剣の形に変形した。


あれが形が変わるタイプの握器か…


そのままパクチー君の爪攻撃に応戦した。


「僕が行くよ!」


パクチー君が足止めされたことで今度はルッコラ君が走り出した。


「あ!待ちなさいよ!あんた1人じゃ無理に決まってるでしょー。」


バジルちゃんも付いて行ってくれるなら安心かな。


しかし、ルッコラ君とバジルちゃんの前にはもう1人の男が立ちはだかった。


「血祭、硬質化!」


ルッコラ君が両腕を硬くして立ちはだかる男にパンチを繰り出す。


こっちの男も何も持ってないように見えるけど、さっきのやつと同じように掌具や握器を使うのかな?


ちょっとぽっちゃりしてて戦闘向きの体型には見えないな…


「偉才、不思議な体!」


男がそう言うと、ルッコラ君のパンチをお腹で受けた。


「な、何だ?」


ルッコラ君が戸惑う。


そのまま前のめりに躓く。


よく見ればその腕は男のお腹のお肉に埋まっていた。


いくらぽっちゃりしてても、パンチを繰り出した拳どころか腕が肘の辺りまでお腹に埋まっているのはどう見ても異常だ。


さっきの偉才に関係があるんだろうね。


それにしても――


「あの2人がサレを守るってことは、それだけサレは重要人物ってことだよね?」


私のカバンから出てきてふわふわ飛ぶクレソンちゃんに言うと、クレソンちゃんも頷いた。


「小将軍だからねー。かなり高い階級だしあの偉才も厄介だからねー。掌握軍としては守りたい人物の1人なんじゃないかなー?」


またのほほんとした言い方に戻りながらも、クレソンちゃんは私に切れかかっていた浮遊の妖精魔法をかけてくれた。


「サレの守護者がいなくなったところで、私たちの出番だね!」


私はパタパタと飛びながらサレに向かう!



パクチーは掌握軍のヤイと戦っていた。


バンパイアの中でも特に高い身体能力と、数多くの血祭を覚えているパクチーの速度に反応したヤイの身体能力は、非常に高いと言える。


しかもパクチーの爪攻撃に指輪剣(リングソード)で十分に対応している。


「なるほど。俺は剣術に関してはそれなりの自信があったのだが、お前の前では俺の剣術もあまり意味をなさないようだな。」


ヤイがパクチーを賞賛する。


「握器:首飾りの重り(ウエイトネックレス)。」


そうヤイが唱えると、首に付けてた握器が反応した。


ヤイの首飾りが消えたかと思った瞬間、ヤイの上空から巨大な岩が出現した。


「!」


今ヤイの剣に爪を這わせるようにパクチーが近くにいる。


つまり、上空の大岩はヤイにだけでなくパクチーにもダメージを与える攻撃ということになる。


「この握器…自滅用なのか?」


岩に押しつぶされたパクチーが苦しそうに言う。


「まさか!俺の偉才に合ってるからに決まってるだろうが。偉才、傷の変換。」


ヤイが偉才を発動すると、ヤイのダメージが全てパクチーに移った。


「な…ん…だと…?」


ただでさえ大岩に押しつぶされたダメージはでかい。


その上、ヤイが受けていたダメージも背負うことになったパクチーは、単純に倍のダメージを受けたことになる。


ダメージでパクチーが動けないのを確認したヤイは、ふ。と小さな笑みを漏らして大岩をネックレスに戻して他の戦闘を確認した。


不利な戦闘に参加するつもりなのだ。



バジルとルッコラは掌握軍のルートと戦っていた。


ややぽっちゃりしたルートの偉才は不思議な体。


自分の体の特定箇所をブヨブヨにできる力だった。


ヤイとは違った形で攻撃が基本的に無効化される力だ。


「掌具:靴の羽(シューズウィング)。」


ルートが言うと、ルートの履いていた靴の左右から、天使を思わせる真っ白でフワフワの羽が生えた。


それはまるで、女児アニメに出てきそうなアイテムだった。


「私の羽に対抗しようっての?」


「お、おで…」


バジルが挑発するように言うと、ルートがどもる。


「「おで??」」


バジルとルッコラの声がハモる。


「おで、妖精さんと仲良くしだーい!」


そう言うなりルートは、羽の生えた靴で飛んだかと思ったらバジルを捕まえようと手を伸ばす。


「な!何なのよこいつは!」


そう言うバジルの顔はやや引きつっている。


しかしルートの動きは想像以上に早く、簡単に捕まってしまった。


「バジルさん!僕の友達をいじめるなぁー!」


バジルに攻撃をされたと思ったルッコラは激昂し、パクチーと同じ爪を伸ばす血祭を発動した。


「と、友達?」


ルートに捕まったバジルはがっくりうなだれる。


私とあんたは友達かよ。などと小さく呟いていた。


ルートはフェアリーを捕まえたことで満足したのか、両手で大事そうにバジルを持ちながらニコニコしていた。


「このぉー!」


ブヨブヨの体に打撃攻撃は効かない。しかし爪での斬撃なら効果はあると判断したルッコラは正しい。


加えてバンパイア特有の身体能力の高さはルッコラも例外ではない。


従って、並の人間ではルッコラのスピードに付いていけない。更にルートは他の人間よりも行動が遅いため、たとえ目が追いついたとしても体がついていかない。


そのまま素早くルートの腹部に伸ばした爪を突き刺そうとした。


ルッコラに誤算があるとすれば、ルートの持つもう1つの掌具だろう。


「掌具:邪悪な口(イービルマウス)。」


ルートのもう1つの掌具はベルトだった。


ベルトが巨大な口へと変わり、大きく開いた。


「!」


咄嗟の判断で攻撃を辞めて回避したルッコラは正しい。


邪悪な口(イービルマウス)は、ありとあらゆる物を飲み込む効果を持つ。


「おでの邪魔をするな!握器:腕輪石(ストーンバンクル)!」


ルートが右手を前に突き出すと、腕輪が光ってルッコラの上空からいしつぶてが降り注いだ。


ちょうどバジルが前に突き出されたような状態になっている。


ルッコラは上空から降り注ぐ石から片手を上げて顔を防いでいる。


「うぅぅぅー。バジルさーん。」


さっきまでの激情はどこへ行ったのか、いしつぶて攻撃で半ベソをかいている。


「なんで捕まっている私にあんたは助けを求めるのよぉー!」


キィー!とバジルが怒るが、ルートの手から抜け出すことはできない。


「邪魔者。排除ずる。」


縮こまっているルッコラのことをルートが踏み潰そうとした。



私たちはサレに向かって行った。


サレの手はもう読んでいる。箱の能力は使い切らせれば問題ないし、あの握器は直線上に居なければボウガンの矢に当たることもない。


クレソンちゃんの妖精魔法の効果はテキメンで、私は空を自在に飛べるおかげであの握器の攻撃はほぼ無効化した。



しかも、サレは上空への攻撃を予想していなかったのか、空にいる私とクレソンちゃんに対して上手く攻撃ができないでいる。


私達は優勢だった。でも他の戦場はそうではないようだね。


左右の戦場を見ると右の戦場のパクチー君はかなりの大ダメージを受けているようね。敵対していたヤイがこちらを見ている。


左側のバジルちゃんとルッコラ君の戦場は、ルッコラ君が今にも踏み潰されそうな状況。バジルちゃんは捕まりながらギャーギャー騒いでいる。



「握器と掌具は一長一短。そしてそれを扱う者との適正というものもある。偉才に至っては言わずもがな。俺の握器は俺とイマイチ相性が合わなくてな。パクチーの野郎に壊されたやつがお気に入りで相性も良かったんだよ。」


サレが言うと1つの箱を放り投げた。


その後、でもな。と続ける。


「相性が合わなくてもしっかりと戦えるのが優秀な戦士なんだぜ?俺は小将軍。優秀中の優秀だ。どんな状況でも覆せるしどんなに相性が合わない力や武具でも切り抜ける力を持っているんだよ!」


「ま。言いたいことは分かるけどそれには仲間の力ってのもあるんじゃない?」


私が言うと、ふ。と鼻で笑われてしまった。


確かにパクチー君はダメージを受けてるし、バジルちゃんは捕まってる、ルッコラ君はルートに踏み潰された。私の仲間の方が一見弱そうに見えるよね?


「けど、私たちの仲間はそんなにやわじゃないよ?」


私が言うと、こっちの戦場に来ようとしていたヤイをパクチー君が殴り飛ばした。


更に、踏み潰された。ルッコラ君はなんとルートを持ち上げてひっくり返した。


ほらね?あの2人がそう簡単にやられるわけないじゃん?


でも私は敵の仲間もまた、優秀であったことを思い知らされた。


「何を遊んでいるの?」


女の声がした…

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