第九稿 魔王が支配する都市

霧に包まれていてやや不気味だけど、それでも活気があるのがわかる。


ここが…


「魔王が支配する都市…」


私の気持ちを読み取ったのか、ナポリタンが呟く。


思わず私はナポリタンを見つめる。


「あ、いや。だって魔王が支配しているわりにはなんだか活気がある感じだから…」


不思議そうに私が見たからなのか、言い訳がましくナポリタンが言う。


けど、私もそれが気になる。


本当に魔王が支配しているなら、住んでいる人たちはもっと悲壮感があってもいい気がする。


でも都市の人々は楽しそうだ。


笑い合って、モンスターとも仲良さそうに話しているし…


何だろう?今まで戦ってきた私たちがバカみたい…


「なんか…今までの街とは違って異質っすね…」


都市の異様な雰囲気に飲まれないように必死そうにナポリタンが言う。


そう。本当に異様だった。


「うむ…モンスターと人間が仲良くするなど考えたこともない…」


カラアゲさんも驚いている。


「…もしかして――」


ポツリとこぼした私の声に、2人が反応する。


同時に振り返り私の顔を見る。


カラアゲさんは何か言いたげな表情。


ナポリタンは、どことなく切なそうな表情。


「魔王は人間もモンスターも分け隔てなく扱っている…とか?…」


私が描いたラノベではそんな設定はないけれど、この人たちを見るとそう考えざるを得ない。


「反乱をさせないためにそうしている可能性はあるな…」


ふむ。とカラアゲさんが私の考えを肯定した。


「もしそうなら魔王はいい奴ってことになるんすか?」


「そうじゃないと思うな。人間を支配しやすくするために、懐柔しているだけってことだから。」


ナポリタンが困惑していたから私が正す。


「要は支配しようとしているのには変わらないってこと。いい奴ってわけじゃないけど、独裁者でもなさそうだね。」


魔王が私の想像とちょっと違ったから驚いたけど、ナポリタンは失礼なことに、現状を理解している私に驚いたようだ。


「ア…アヤメって実は頭がいいのか?」


失礼ね!確かに私は勉強とか出来なかったけど、腐ってもラノベ作家だからね。


こういう状況を読むことは何となく出来る。


ちなみに私みたいな人種は空気を読むスキルにも長けている。


だからこの都市に来てから、何となくカラアゲさんとナポリタンの様子がおかしいことにも気づいている。


何で様子がおかしいのかは分からない。


私がハングレに捕まったからなのか、この都市が異様だったのか、魔王を倒したら冒険が終わってしまうからなのか、それとも他にあるのか…


「ま。頭がいい悪いは置いておいて、とりあえず情報を集めよう。」


だから私は普段通りに振る舞うことにした。


とりあえず情報収集を提案して、2人の様子もそれとなく気にかけておこう。



「あぁあんたら勇者たちか。この都市は他の街と比べると平和だと思うよ。何せ魔王が守ってくれてるんだからなぁー。襲ってくるモンスターもいなければ、魔王に虐げられることもない。平和そのものよ。」


酒場のおっちゃんがそう言いながら隣のゴブリンに、なぁ?おい。と同意を求めている。


「ん?あぁそうだそうだ。本来ならオイラたちモンスターは人間に襲い掛かるんだけども、そんなことしたら魔王様に怒られっからな。この都市では仲良くやってんだわ。」


ぐびーっとお酒を一気飲みして、ぷはー!と息を吐く。


へぇ。ゴブリンって美味しそうにお酒を飲むんだぁ。


「でもよう。勇者は魔王様を倒しに行くんだろう?」


ゴブリンの横でジュースを飲んでいたトロールが話しに参加してきた。


トロールは甘いものが好きなのかな?あ、もしかしてお酒が飲めないとか?


「あぁ。まぁ、それがオレ達の役目だしね…」


気まずそうにナポリタンが答えるが、非難する者は誰もいなかった。


注意深く周りを観察していたカラアゲさんが、ナポリタンと私を店の外へ促した。


「先出てて。」


そう言って私はさっきのトロールに声をかけた。


「あの…何で僕たちが魔王を倒しにやって来たのに誰も怒らないの?」


「あぁ。魔王様がやられるとは思えないってのが1つ。」


ズズズとジュースを飲み干してトロールは更に続ける。


「これが運命ってこの都市に住んでいる人みんなが知っているってことが1つだな。」


運命?そんな曖昧なこと?


魔王を倒されたくないなら、今ここで私を襲えばいいのに…


「この世界に勇者が誕生したという噂が流れた瞬間に全員が悟ったよ。あぁ、運命が動き出したんだって。魔王様と勇者は相容れない存在だろう?どちらかが滅ぶまで戦いは続くはずだ。それをみんなが知って受け入れた。ただそれだけだ。」


私が困惑した顔をしていたからか、トロールは更に詳しく教えてくれた。


それでも私には理解できない…


運命とか受け入れたとか…


「つまりよぅ。魔王様が勝つって信じてるから今あんたらを攻撃しないのさ。魔王様のメンツをつぶしたくねーからな。」


がっはっは。と笑いながらゴブリンが大ジョッキのサワーを飲み干して言う。


ふーん。私達の負けを願ってはいるけど、それはあくまでも魔王の手によってってことなのか…



「大丈夫か?」


酒場での話をカラアゲさんとナポリタンにした。


ヘコんでると思われたのか、ナポリタンが優しく声をかけてきた。


「あ。うん…正直、もっとアンフェアだと思ってた。」


これが私の本音。


この都市の人たちは、私達に誠実すぎる程の対応をしてくれた。


宿も普通に提供してくれるし、ご飯も武器も提供してくれる。もちろんぼったくったり騙したりもしない。


嫌がらせもなければ、知りたいことは何でも教えてくれた。


それこそ魔王の城の場所も教えてくれた。


城にはドラゴンが守っているってことも。


「オレも思う。でもこれがこの都市なんだろうな。魔王を倒せるかもしれない<破邪のツルギ>も売ってくれたしな。」


大きな剣を見ながらナポリタンが私に言う。


正直、この剣で魔王が倒せるとは思えない。倒せるものをこんな魔王がいる目と鼻の先で売っているとは思えない。


まぁそれはいいとして、親切すぎるのがなんだか気持ち悪いとは思う。


「罠…かなぁ?」


「罠だとしても行くしかないだろ?」


親切全てが罠だった方が納得できるしね。


「行くぞ。」


準備に出ていたカラアゲさんが戻るなりに言う。


意外と軽装なのが驚きだけど、まぁこの都市に魔王の城があるんじゃ軽装にもなるよね。


ピンチになったり持ち物がなくなったら戻ってくればいいんだし。


ゲームみたいだけどまぁいっか。


私達は、都市のど真ん中に堂々と存在する魔王の城へ向かった。


「こーんなに堂々としてるって魔王すごいな。」


「ほんとね。見張りもいないもんね。」


ナポリタンが改めて感心して、私が同意した。


扉を押すと、ギィー。といかにもなドアが軋む音を立てながら開いた。


「鍵もしていないとは…舐められているのかやはり罠なのか…」


不安そうにカラアゲさんが言うけど、入り口で私達は鍵をせず都市のど真ん中に城があった理由が分かった。


「ドラゴン!」


ナポリタンが言い、カラアゲさんが<ドラゴバスター>を構える。


1階はそうだ…思い出した。ドラゴンの間だ!


3階から成るこの城の最初の守りが複数のドラゴン。


とはいえ本来ならこれが最大の砦なんだろうけど、私にとってはむしろ簡単な課題だ。


「任せて!」


そう言って私は色とりどりのドラゴンに魔法をぶっ放す。


多分、私が描いた時はそんな設定はしてないけど、今の私はきっとドラゴン特化型なんだと思う。


だからドラゴン相手なら余裕。


お、カラアゲさんもせっかく手に入れたドラゴバスターを使ってドラゴンを倒している。


ナポリタンは援護か…


んー!やっぱいいね!このメンバー。最近特に息が合ってきた気がするよ。


「片付いたな。」


ナポリタンが私の肩を軽く叩く。


上へ向かう階段が目の前に見える。


――あ…そうか…


何でこの都市に近づくにつれて胸がざわついていたのかやっと分かった。


3階の忘却の間だ…


しかも2階は天変地異の間。ありとあらゆる天災が起こる場所って設定だったな…


「ちょっと待って2人とも。」


ここで私は先を急ごうとするカラアゲさんとナポリタンを止める。


2人とも、私が制止するのを分かっていたかのような表情をしている。


「何を言われるか何となく分かる気がするけど、とりあえず言っておく。オレもカラアゲさんも何を言われても引き返さないからな!」


私が言う前にナポリタンに言われてしまった。


カラアゲさんも、うむ!とか言ってるし。


あぁもう!本当にこの2人は私のために体張りすぎなんだよ!


このままじゃ2人とも私を忘れちゃうんだよ?


強制。そんな言葉がピッタシなくらいの2人の言い方に私は何も言えずに2人の後を追った。


これから先何が起こるのかを知りつつ、すべきことを後回しにしているだけなのに…

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