第八稿 漁港が盛んな街

私が当初『自発ください#いいねで気になった人お迎え~お別れはブロ解で~←これのせいで異世界転生しましたw』を描いていた時に考えていた設定は、音楽都市を妬む芸術の町の住人が音楽都市に火を放つ。それと同時に芸術の町にはドラゴンが攻め込み、結局この2つの町は燃えてしまう。


というものだった。


確かにその通りになった。


けど体感すると後味が悪すぎる。


ドラゴンに魔法が効かなかった意味も、設定だから。でお終いだし。


つまんない上に意味もわからないし、後味も最悪。


カラアゲさんもナポリタンも私のせいじゃないって庇ってくれたけど、私のせいなんだよ!私がこういう設定にしたから。私が芸術の町に向かってドラゴンと対峙していれば、少なくとも芸術の町だけは助けられたのに…


「なぁアヤメ。その…気にするなってのは難しいかもしれない。けど、1人で抱え込もうとするなよ?オレたちは仲間だ!いつでも頼れ!」


ナポリタンが慰めてくれる。


ほんとにこの男はもう…


私が1人の時や辛い時はいつも傍に居てくれる。


こりゃモテるのも分かるわ。


「ありがと。」


そう言って微笑む。


確かにナポリタンの言う通り、ここで落ち込んでても何も始まらない。私達は魔王を倒さなきゃいけないんだし。


「カラアゲさんと話してたんだけど、町の復興は町の人達に任せようってことになった。どっちも互いの町を潰そうとしてたわけだし、喧嘩両成敗?みたいな感じ?んで、オレ達は先を急ごうってことになった。」


「町の復旧を手伝わなくて大丈夫なの?」


「大丈夫だろ?久しぶりにカラアゲさんがキレてさ。大激怒。両方の長が平謝りで、これからは手を取り合って仲良くこの地を発展させていくってさ。マジで怖かったんだからなー。」


そう言いながらナポリタンは和ませようと、カラアゲさんの怒ったモノマネをする。


「あんまり似てないね。」


力なく微笑みながら私はよいしょと立ち上がる。


ナポリタンが手を差し伸べて立ち上がるのを手伝ってくれる。


「ありがと。」


そうお礼を言った後に、カラアゲさんは?と訊くと、もう入口で待ってるよ。と返事が返ってきた。


うん。この感じ。前に戻ったみたいで嬉しい!


一時は私のせいで2つの町が犠牲になったと非難されるとビクビクしてたけど、やっぱカラアゲさんとナポリタンはいい人だ!


私達はは芸術の町、そして音楽都市を後にした。


次に目指すのは、元々船で行きつくはずの場所、漁港が盛んな街だ。



私にとってはそうだが、ナポリタンにとってもカラアゲさんにとっても芸術の町と音楽都市で出来た出来事はなかなかの苦い思い出となった。


私は自分が作った設定と自分が罠に嵌められた不甲斐なさが特に苦い思い出になった。


カラアゲさんはあの武器屋の娘のことを考えていたんだろうね。魔王を倒したら結婚するんだろうし。


ナポリタンは、芸術そのものが燃えちゃったんだもんね。


2人とも形は違うけどショックだよね。


そんなわけで私たちは妙に明るく、それでいて芸術の町と音楽都市のことは決して話題に出さずにしゃべり続け、気が付けば漁港が盛んな街に到着していた。


「うっわぁー!」


私が感動しているのを見て、カラアゲさんもナポリタンも面白そうに笑う。


「いやー。漁港とか漁船とか見たことないからさー。」


ちょっと子供っぽかった?


「この街では刺身が有名なんだ。まずは食ってみよう。」


カラアゲさんが、ガハハと笑いながらご飯屋を探し始めた。


お、お刺身かー。この世界に来てから食べてないねー。楽しみだなー。


何よりここでは何も起こらないから、気持ちが休まるよ。


「おーい。こっちだ。」


やや遠くからカラアゲさんが手招きしてる。ほんと、こういうところカラアゲさんも子供だよねー。


さすがは港町。


食堂のメニューも海鮮物ばっかり。


海鮮丼も捨てがたかったけど、私は刺身定食を注文した。


カラアゲさんは昼間だというのに、お寿司の盛り合わせを注文していた。なんて贅沢な!


ナポリタンは生魚が苦手なようで、魚のフライが蕎麦に入っているものを頼んでいた。


久しぶりのお刺身!最高!


「生きててよかった。」


思わず口に出しちゃったよ。


カラアゲさんとナポリタンに笑われた。


「勇者殿たち、大変な旅だったのかい?」


食堂のおっちゃんが私に訊く。


「そりゃーもう。一言では言えないくらい大変だったよー。」


ピンク色のサーモンを一気に口の中に入れながら私が応えると、おっちゃんがこの先のことを少し話してくれた。



この街より先は魔王が支配しているエリアになるらしい。


モンスターも活発だし、強いモンスターが多く現れるらしい。


ドラゴンも複数目撃されているみたいね。


「魔王が支配しているエリアのどこかに魔王が支配する都市があるの?」


ボリボリと魚の骨のフライをかじりながらナポリタンがおっちゃんに問う。


「あぁ。そうらしいが、何しろ支配しているエリアを進めば進むほど霧が濃くなる。誰もその都市の場所をしらんのだよ。」


はーん。そんな設定になっているとはねー。


「噂では、魔王が支配する都市には魔王の城があるらしい。」


とおっちゃんが続けた。


「そこが魔王の根城か。」


お茶を飲みながらカラアゲさんが言う。


まぁその通りだろうね。


おっちゃんも頷いている。


「魔王が支配する都市を目指すなら、この街の占い野郎に会ってみるといい。もしかしたら何か分かるかもしれんからな。」


そう言っておっちゃんは、旅に役立つ魚の干物を何匹かくれた。



占い野郎は名前とは裏腹にギャルだった。


「ウチになんか用?」


金髪ミニスカピアス濃いめのグロスにきつい香水、日焼けサロンに通ってるっぽい肌色。


私が苦手なタイプだ。


「オレ達魔王が支配する都市を探してんだ。で、あんたを訊ねれば何か分かるかもって言われてきたんだわ。」


おー。さすがナポリタン。こういう人との会話が弾んでる感じだ。


「あーね。ちょっと座って。」


私ら3人を目の前のイスに座らせたギャルは、いかにもな水晶を覗き見てお告げが来たと言った。


「お告げ?」


ナポリタンが不機嫌そうな声で言うと、しっ。黙って。と怒られた。


チェッと小さく舌打ちをしてからナポリタンは黙った。


「魔王が支配する都市は霧の中を突き進むと、突如晴れる箇所があるから、そこにあるらしいよ。でも気を付けた方がいいね。近くにはハングレってモンスターがうようよしてるから。」


「ハングレ?」


カラアゲさんが渋い声で聞く。聞いたことないモンスターらしい。


「知らないの?見た目は人間そのもので、仲間同士で勝手にチーム作っててさ、チーム同士で勝手に喧嘩してんの。近くを通りかかる他のモンスターにも問答無用に攻撃するほど好戦的だし、同じハングレ同士でも違うチームなら問答無用に攻撃してる。勇者みたいなヒョロいやつ、拉致られて監禁されるかもよ。」


そう言って私を指さす。女ってバラしてなくてよかったぁー。


そんな私の世界の不良みたいなモンスターがいるなんて!


「まぁ、アヤメはオレとカラアゲさんが守るから平気っしょ!」


なんてナポリタン言ってるけど、本当に平気?信用してもいい?私喧嘩とか無理だからね?


あ、でも魔法で一発かな?


そんなことを思って占い野郎が居る場所から立ち去ろうとすると、後ろから衝撃の事実が告げられた。


「ハングレには魔法が効かないからねー。」



ショックな言葉を聞いたけどとりあえず気にしないでおこう。


そう思っていたのに…


ハングレは本当に私が想像していた不良そのものだった。


「今日こそ夜叉を全滅させてやる!」


驚いた…人の言葉を話すモンスターなんて…


「話せるってことはそれだけ知能が高いということだ。」


とカラアゲさんが警告した。


「行くぞ野郎ども!夜叉を全滅させて悪名の旗揚げだ!」


5匹くらいのハングレは私たちに気づかずにずんずん進んで行った。


「戦闘しないに越したことはない。少しここで様子をみよう。」


そうカラアゲさんが提案した矢先、さっきの集団とは別のハングレ5匹に見つかった。


「悪名の連中がやって来るかと思ったが…勇者たちとはな…夜叉の名を上げるために死んでもらう!」


占い野郎の言った通りだ。


問答無用に攻撃を仕掛けてきた。


手に持つこん棒を振り上げて私に向かってくる。


そういえば私は魔法以外の戦闘方法を知らない…


「危ないアヤメ!」


私を突き飛ばしてナポリタンが盾でこん棒をガードする。


「てんめぇー!」


もう片方の手に細剣を握り、横殴りに振って1匹を倒す。


もう1匹もカラアゲさんが倒している。


さっすがはこの2人。強いね!


「おいおいおい。誰と遊んでんだ?夜叉さんよぉー。」


私の背後から声がする。


夜叉に所属する残り3匹のハングレの目つきが変わった。


「こんな時に悪名かよ…」


べっと地面に唾を吐いた3匹の内の1匹が私の背後にいる、さっき見かけた悪名に所属する5匹のハングレに向かった。


「夜叉の死神か…囲え!」


5匹の内の1匹が命令すると、突っ込んでいった1匹は5匹に囲まれた。


しかし1匹で攻撃を仕掛けた方が実力は上のようで、あっという間に2匹を殴り飛ばした。


飛ばされた1匹が私の近くで崩れた。


ハングレは完全に私たちを忘れているかのように、夜叉というチームと悪名というチームの戦いになっていた。


「いくぞ。」


私の手をカラアゲさんが引く。


そうだよね。私たちがここに留まる理由なんてないし。


そう思った瞬間、脇腹に鋭い痛みが走った。


「え?…」


一瞬何をされたのか分からなかった。


気が付いた時には私は地面に横たわっていた。


その時、さっき私の近くで崩れたハングレが私をナイフで刺したのだと気が付いた。


ナポリタンが何か叫んでいるけど私にはよく聞こえない。


カラアゲさんも鬼の形相をしている…


でも…何も考えられない。


そのまま私は気を失った。



「気が付いたか?」


聞き覚えなのない声がする。


目を開けて起き上がろうとすると、脇腹が痛んだ。


あぁそっか、私ハングレに刺されたんだっけ。


見覚えのない場所と聞き覚えのない声がするところを考えると、私はハングレにさらわれたんだな。


食糧にされるのか、拷問を受けるのか、それともカラアゲさんとナポリタンを呼ぶための人質か。


こんなこと私が書いたラノベでは無かったけどなぁ。


痛みに顔をしかめると、私に声をかけたのと同じ声がした。


「傷が開く。そのままにしてろ。」


「何で勇者を生かしておくんだよ!死神!」


「そうだぜ?こいつは俺らのチーム2匹を殺したやつの仲間だ。挙句にこいつが刺されたせいで悪名が旗揚げしちまった。俺らはこいつらのせいで悪名旗揚げのお膳立てさせられたんだぜ?いい面汚しだ!こいつを殺しとかないとチームの名が下がるぞ!」


そう言って私のお腹を蹴る。


こいつ~乙女のお腹を何だと思ってるんだ。


いや今は男だけども…


それにしても死神って名前だったのか…


「その通り。ここでこいつを殺したら勇者の仲間はやって来ない。こいつを人質に勇者の仲間をおびき出し、そこで正々堂々3人を倒す。そうしないと夜叉の名は地に落ちる。」


おお?他の2人が黙ったってことは、死神の意見を認めたということかな?


確かに『自発ください#いいねで気になった人お迎え~お別れはブロ解で~←これのせいで異世界転生しましたw』では、魔王が支配する都市にたどり着くまでにいくつか戦闘があったって書いたよ。


けどさぁ!こんな感じとは思わないじゃん?


「おいクズども!」


お。ナポリタンの声だ。


かなりお怒りのご様子。


「オレの仲間に手を出しておいてただで済むと思うなよ!」


「来たか…」


死神と呼ばれたハングレが私の近くから去る気配がする。


私はまだ痛みで目を閉じているけど、何となく分かる。


なんだろ?このまま目を開けた方がいいんだろうけど、何となく開けられない自分がいる…


きっと現実を見るのが怖いから。


私のために怒ってくれる人がいる。私を助けてくれる人がいる。


これはきっと嬉しいこと。


でも…私のせいでカラアゲさんやナポリタンが傷ついたり迷惑をかかるのは何か嫌だ。


たとえ私が作り出したキャラだとしても!


「カラアゲさん!ナポリタン!わ…僕のことは放っておいて!先に魔王のところへ行って!」


私は助けて貰った経験なんてない。だから自分のことは自分でできるし、人に甘えたり助けを求めることもしない。


でもやっぱりこういう返事が聞けると嬉しいね。


「馬鹿野郎!お前はオレ達の仲間だ!見捨てられるか!」


「うむ!アヤメが連れ去られたことに気付かなかった俺たちの責任だ。」


何なんだよカラアゲさんもナポリタンも!


私が作り出したキャラのくせに!かっこよすぎだよ!


「もぉーバカ!」


何でか分からないけど、この時は私が女だと知られても、この世界を作り出した張本人だと知られてもいいと思った。


ただ、ありのままの私を知ってほしいと思って自分を偽らずに作らずにそのままの自分を出した。



チーム夜叉のハングレ達はカラアゲさんとナポリタンによってあっという間に全滅させられた。


悪名も来る途中に倒したというのだから驚きだ。


「本当にありがとう。」


私が頭を下げても、2人は気にするな。だけで済ます。


分かっていたけどいい人だこの2人は。


この辺りを縄張りにしていたハングレは結局、夜叉と悪名、そして鎌射太刀の3グループだった。


鎌射太刀は10匹のチームだったけど、怒りのカラアゲさんとナポリタンの敵ではなかった。


こうして私達は魔王が支配しているエリアを堂々と進むことができた。


霧に包まれた地域だったけど、占い野郎の言う通り本当に突然霧が晴れた。


「これが…魔王が支配する都市…」


私の呟きは、晴れた霧と共にどこかへ行ってしまったようだ…

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