第七稿 音楽都市、そして再び芸術の町へ
芸術の町を出発した私達は、ほぼ隣に位置する音楽都市へ向かった。
何の嫌がらせなのか、音楽都市は本当に芸術の町の目と鼻の先にある。
こんなことされたら、芸術の町の住人から嫌がらせを受けるのも当然だよ。
音楽都市は広さはそんなに広くないけど、人の多い活気のある都市だった。
「ここで次の町に行く方法を聞こう。」
カラアゲさんが言う。すぐ隣なのにここで聞かなきゃいけない設定にした私!バカぁー!
「何でこんな近くなのに、芸術の町では次の町の情報が出ないんすかね?」
もっともな疑問をナポリタンが出す。
それはね、私がそういう設定にしたからだよ。
「うむ。なにか大きくて深い事情があるんだろう。」
ないよ!残念ながらないよカラアゲさん!
顔が赤くなるのを感じるよ。
音楽都市っていうだけあって、色んなメロディが町中を流れている。
私達は優雅なクラシック音楽が流れる役場へと向かった。
しかし残念ながら案内役が今ちょうど、芸術の町に出払っているとのことで、ここでしばしの足止めを食うこととなった。
「とりあえず宿屋探しますか?」
私が聞く。それか芸術の町に戻るという手もある。
どうせ戻るんだしね。
「何でこの都市、出来たんだろうな?」
カラアゲさんがポツリと呟く。
「え?それは昨日アヤメが受付嬢から聞いた通りなんじゃないっすか?」
ナポリタンが何を当たり前の。みたいな言い方をする。
私もナポリタンの意見に賛成だ。そんなことよりも、今はこれからどうするかでしょ。
「いや、発展したから独立した。極論を言えばそうだろうが、これだけの人数全員が独立に賛成したと思うか?」
…言われてみればそうか。
音楽って一括りで言っても、ジャズにポップス、クラシックとか色んなジャンルに別れてる。
全ての音楽関係の人がみんな、この都市を作ろうとしたとは思えない。
「それはな。ある男女の物語があるんじゃよ。」
びっくりしたぁ。
カラアゲさんの言葉を聞いて、おじいちゃんが話しに割り込んできた。
「男女の物語?」
「ほぅ?」
「面白そうっすね。」
私達はおじいちゃんの話を、暇つぶしがてら聞くことにした。
●
遠い昔。
芸術の町がまだそこまで発展していなかった頃、音楽メンバーと絵画メンバーしかいなかったそうじゃ。
芸術の町を、色んなジャンルの芸術で発展させていこうと考えた音楽メンバーのリーダーだった男は、絵画メンバーの女リーダーにこう言ったそうじゃ。
「来年の雪が降る季節、俺はたくさんの音楽隊を引き連れて色んな演奏をする!君はその時にその音楽の演奏に合わせて絵を描いてくれ。」
それから男と女は色んなメンバーを集め、それぞれに芸術性を高めて行ったそうじゃ。
そんなある日、芸術の町をモンスターが襲った。
幸いにも被害は小さかったが、どうやらモンスターがやって来た原因は音楽の音に釣られて寄ってきたということが分かった。
これ以上町に迷惑をかけるわけにはいかないと、音楽メンバーはみんなで近くに音楽都市というのを作り、そこに住むことになった。
それから芸術の町はモンスターに襲われることもなく、色んなジャンルの芸術が集まった。
そして音楽都市には色んなジャンルの音楽が集まった。
音楽都市はモンスターに度々襲われたが、みんな一丸となってこれに立ち向かった。
全ては、雪が降る季節に、芸術の町で最高のコンサートをするために。
そして雪が降る季節。
音楽メンバーは芸術の町で最高のパフォーマンスをした。
絵画リーダーだった女と音楽リーダーだった男はこうして幸せに結ばれた。
そう思われた。
以降、2つの都市は友好な関係になっていると。
しかし、芸術の町の当時の町長が面白い顔をしなかった。自分の町よりも音楽都市の評価の方が上だと感じたのじゃ。
本来であれば、音楽も同じ芸術じゃ。どれが上とかそんなものはどうでもいい話だったのじゃが、とにかく町長は音楽都市のメンバー全員へ嫉妬した。
更に悪いことに、町長はなんと絵画リーダーだった女のことを気に入っておった。
それが町長からしたら、突然現れた音楽隊の一員に奪い取られた。そう感じたそうじゃ。
それ以来、音楽都市の音楽隊が来ることを町長は禁止し、将来を誓い合った若い男女は離れ離れになってしもうた。
音楽リーダーだった男は、音楽を彼女に届けるために町中を活気あふれる町にした。
自分の気持ちを伝えるために。
こうして音楽都市は誕生し、いつしか芸術の町の町長が変わった時に、音楽都市の一員を招き入れて音楽を演奏して貰うという風潮に変って行った。
音楽リーダーの男と絵画リーダーの女はこうしてようやく出会えたが、その時はお互い年老いており、別々の家庭を持っておった。
それでも何十年ぶりに出会ったにもかかわらず、2人は一目でお互いが最愛の人だと分かったそうじゃ。
絶対に叶わない恋を胸に秘めて、お互いに音楽を奏で絵を描いていたそうじゃ。
●
なんて悲しくていい話なの。
「ってことは、本当はこの2つの都市は1つになるべきなんじゃないの?」
ナポリタンが言うが、おじいちゃんが首を振った。
「もう無理じゃよ。何百年も昔の話じゃ。この真実を知っておるのもほんの一部の人間だけじゃ。」
こんな悲しい設定なかったのに…
「あの、おじいちゃん。最後まで結ばれなかった2人は、幸せだったと思いますか?」
どうしても聞きたかった。
何でか分からないけど、きっとこのおじいちゃんは音楽リーダーの子孫なんだ。そんな気がする。
「芸術家として生き、美しい愛を信じ続けた。実ることない愛だったとしても幸せだったじゃろうな。」
遠くを見るような目だ。
「やっぱり。わ…僕もそう思います。」
また私って言いそうになっちゃった。
でもそうなんだ。音楽リーダーにとってこの音楽都市は、愛する人への大切な気持ちを伝えた場所なんだ。
ここを破壊されていいはずがないし、芸術の町もドラゴンに攻撃させるわけにはいかない。
「カラアゲさんとナポリタンは芸術の町に戻って、案内役の人を探してきてください。僕はここで念のため待ってます。」
芸術の町のやつらを探して捕まえる。
たとえ私が描いたラノベとは違う結果になったとしても。
この都市は守りたい!
2人とも、頷いてくれた。
「何だか分かんないけど、気をつけろよ?」
「アヤメ…また会おう。」
何かを言いかけてカラアゲさんはまた会おうと言ってくれた。
何かを察してるのかもしれないね。
さてと…この都市を破壊しようとしている芸術の町の住人を探しますか。
●
広さはないけど人の数が多い音楽都市で、破壊工作をしようとしている人を探すのは困難だった。
私の感覚・予測では今夜やつらは動く。
なんてかっこつけてるけど根拠はないよ。ただの勘。
デブスな私も腐っても女!女の勘ってやつよ。
さてと。怪しいやつを探すには私の理論ではキョロキョロしていると思うんだよね。
とはいえそんなあからさまな奴がいるわけ…
居た…
明らかに挙動不審な男女2人組…
何でこんなに分かりやすいのかは分からないけど、今の私には理由は関係ない。
「ちょっとそこの2人。」
普段自分から見ず知らずの人に声をかけることなんてまずあり得ない。
でも今は緊急事態。
この都市を燃やされるわけにはいかない。
「?勇者殿ではありませんか!」
ではありませんか!じゃないよ!あんたら今この都市を燃やそうとしてるでしょ!
まぁそんなこと聞けるわけもないし…とりあえず
「こんなところで奇遇だね。何してんの?」
取り繕った笑顔も顔面に貼っつけてやる。このイケメンフェイスならキモくないしね。普段の私の顔なら吐き気を催すだろうね。
「何って散歩ですよ?」
男が答えて、なぁ?と隣の女に同意を促す。
促された女も、そうです。なんて言ってるけどそれがまた怪しすぎるよね。
慌ててるというかなんというかさ。
「そうなんだ?僕もこの町にさっき着いたばかりでさ、よかったら一緒にこの町を回らない?邪魔かな?」
見た目にはこの2人、デートに見えなくもない。念のために邪魔かどうかの確認も怠らない。
「邪魔だなんてとんでもない!ぜひご一緒しましょう!」
あ、いいの?もう少し断られるかと思ったけどよかったぁ。
なんにしてもこれでこの都市が燃やされることはないね。私がこの2人に巻かれなければ。
そう思っていたのに…何で?
私が今いる場所とは全く違うところから火の手が上がっている。
「行かなきゃ!」
それだけ言い残して私は火の手が上がった場所に向かった。
これが間違いだと気づけもせずに…
●
「やられた…」
火の手が上がった場所に着いた時に思わず私は口走った。
この炎上はいわば陽動。本当の目的が別にあった。
さっき私が遭った2人組。あの2人が私と別れた瞬間に火を放ったのだ。
町は燃えやすい木を使った街並み。
火は見る見る内に燃え移り、町を次々に飲み込んで行った。
私があの2人と行動を共にすればこっちの火が燃え移っていた。
カラアゲさんとナポリタンを芸術の町に向かわせたのが間違いだった。
犯人を捜して捕まえるよりも火を消すことを優先するけど、どう考えても火の方が早い。
やっぱり私が作った設定を変えることはできないのかもしれないね…
「芸術の町に避難しましょ!」
悔しながら私が音楽都市の住人に提案する。
なだれのように住人が隣の芸術の町に避難すると同時に、上空に黒い影が現れた。
やっぱり私の描いた流れのままね。
ドラゴンが芸術の町を襲った。
真っ黒い鱗に覆われた巨大なドラゴンのブレスが芸術の町を包み込む。
「消えろドラゴン!」
…私の魔法もここからじゃ届かないのかしら?それとも芸術の町が燃え尽きるまでドラゴンは無敵とか?
「勇者殿!」
走り出そうとする私を引き留めたのは、まだ都市に残っている住人たちだ。
私が困惑した顔を見せても動じずに住人たちは私に告げる。
「この町を見捨てるおつもりですか?」
いや。そうじゃないよ?違うけど今はドラゴン退治が先でしょ?だってあのブレスがあと数回吐かれたら芸術の町は完全に燃え尽きちゃうんだよ?カラアゲさんとナポリタンもいるんだよ?
「聞けば芸術の町には勇者殿のお仲間がお二人いるそうではないですか!」
そうだよ!だから心配してるんでしょーが!
「勇者殿のお仲間ならきっと大丈夫です。あのドラゴンも倒せますよ!勇者殿はどうか、この町の火を消したり住人の避難を手伝ってください。」
倒せないよ!カラアゲさんとナポリタンじゃドラゴンは倒せないの!
そりゃこの町の人達のことも心配だよ?でも被害を最低限に抑えたいでしょ?この先の展開を知ってるのは私だけなんだから。
「ドラゴンをさくっと倒してくるからさ、とりあえずみんなは火をくい止めておいて!」
そう言って立ち去ろうとすると、まだ引き留めてくる。
今度は私の腕をしっかりと掴んでいる。
一体何なの?そう思って引き留めてくる数人の人達の顔を見て私は気が付いた。
「君たちまさか!」
そう私が言うと、私を掴んで離さないこの人たちはにやりと笑って私を無理やり近くの納屋に閉じ込めた。
「申し訳ないですね勇者殿。我々としては、芸術の町は滅んで欲しいと願っています。今勇者殿にあのドラゴンを倒されるわけにはいかないのです。」
やられた!芸術の町が音楽都市を滅ぼそうとしていることは知ってたけど、その逆もあり得るのか…
ドンドン!
納屋の戸を叩く音がすると同時に、私を押さえつけていた腕が離れた。
「勇者殿。どんなお咎めも受けます。」
私を押さえつけていた数人の男がその場で座り込むけど、今はそれどころじゃない。
きっとさっきの戸を叩く音は合図。芸術の町が完全に焼け落ちたかなんかの。
必死に謝る男たちを無視して納屋の外に出ると、ドラゴンのブレスが広大な芸術の町をすっぽりと包み込んでいるのが分かる。
「消えろ!」
怒りのままに叫ぶと、それだけでドラゴンは消滅した。
やっぱ、芸術の町を焼き払うまで無敵って設定だったのね。
「急いで火を消して!水はバケツリレーで運んで!」
残っている人に指示を出して燃えている町の救出を試みる。
確か燃えやすいものを壊して炎上を防ぐ方法があった気がする。
「火の近くの家を全部壊して!これ以上火を燃え移らせないようにして!」
そう言って芸術の町の方を見ると、向こうからカラアゲさんとナポリタンの大声がする。
良かった。とりあえず2人は無事だった。
町の大きさが小さいから火の大きさも小さい。
ひとまずこの町は大丈夫そうだ。
私は後を任せて芸術の町へ向かった。
でも私は2人になんて謝ればいいんだろう…私のせいで2つの町がめちゃくちゃになったのに…
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