第四稿 ドラゴバスターの条件

私はナポリタンに慰められたけど、自分のせいだと思ってる。


だから責任を持ってカラアゲさんを看病した。


カラアゲさんはさすがの回復力だった。


村娘のアイも、助けて貰ったお礼と言って私やナポリタンと一緒にいることが多くなったけど、ナポリタンと一緒にいたいんだろうな。


カラアゲさんの体調が回復するにしたがって、私達の出発の日もだんだんと近くなる。


「ナポリタン?アイに気持ち伝えないの?」


流石に一緒に旅に連れて行くわけにはいかない。


私のラノベにもアイなんて人物は登場しない。


ここで背中を押してあげて、気持ちだけでも伝えた方がいいでしょ?


「あぁ。アイちゃん確かに可愛いよなぁー。」


遠くを見るような目でナポリタンが言う。


まぁ一般的に可愛いという部類に入るだろうね。


だからこそ、さっさと気持ちを伝えとけって思うんだけど、これって恋愛経験0の私が考えるダメな考えなのかな?


恋愛偏差値が高いナポリタンとアイの間には言葉なんて不要とか?


「てゆーかさ、アヤメはほんとに気づかないの?そんな見た目してるくせに。」


やれやれという感じでナポリタンが言うけど、何が言いたいの?


「ま、アヤメは恋愛経験0って言ってたもんなー。」


ぽんと頭に軽く手を置いた後、ナポリタンはどこかへ行ってしまった。


きっとアイのところに向かったのだろう。


そんなことを考えていたら、急にアイがやって来た。


「あれ?ナポリタンならあっちの方に行ったよ?」


あっちと言って、ナポリタンが向かった方を指さす。


「あ、そうですか…」


そう言いながらアイはうつむく。


お?赤くなってる。可愛いなぁ。恋愛経験0の私だけど、こういう姿を見ると可愛いって思うもんだねぇー。


「あの…勇者様…」


意を決したような表情をアイはする。


自分の気持ちを私に打ち明けるつもりなのかな?


「そろそろ村を発つって聞きました。」


「そ…そうだね。カラアゲさんの体調が戻ったら先を進むことになると思うけど…目指してるのは漁港が盛んな街だから…」


なんか、アイの圧がすごい。


アイが私を見つめる。


?何だろう?顔に何かついているのだろうか?


私が顔を両手でペタペタ触っていると、アイが笑った。


「ほんとだ。ナポリタンさんの言う通り。勇者様はこういう話には疎いんですね。」


アイがにこりと微笑む。


ん?話が見えてこない。


私が戸惑っているとアイが私にキスをしてきた。


…これは?ファーストキスに入らないよね?同性だしNPCキャラだし。


「私が好きなのは勇者様ですよ!」


え?何で?


そう思って思い返してみる…


だからご飯の時に私も一緒に誘った?頬を染めてたのは私に惚れてたから?


「でも勇者様はこの先の冒険を急いでいることを知っています。だから、この気持ちはここでおしまい。冒険の無事を祈ってます。もし、またこの村に立ち寄ることがあればその時には、他のどこにも行きたくないような女に成長してますからね!」


ウインクしてアイはその場を後にした。


突然のことに私は放心状態だ。


そんな私の前にナポリタンがやって来た。


肩に手を置かれた。


「どうだ?人生初の告白された経験は?」


言われて気が付く。


そうか!私人生で初めて告白されたんだ…


「なんか…実感わかない…」


そう私が答えると、そんなもんだ。とナポリタンが言った。


なんか恋愛経験の差を見せつけられた感じがする。


ナポリタンは最初からアイが私の方に気があることに気づいていたってことだ。


なんかそう考えると凄く恥ずかしい気分だった。



カラアゲさんはそれからすぐに回復した。


脅威の回復力だ。


私達は羊が多い村を出発することになった。


私はあれから全くアイと話せなかった。


私が避けてたからだ。


ナポリタンには、そんな見た目なのに恋愛経験値低すぎと笑われたけど、元の私を知らないからそんなことが言えるんだよ。


「勇者様!どうかご無事で!」


アイが駆け寄って来て私に何かを手渡してくれた。


何だろう?と思って手の中を見ると、そのスキにまたキスされた。


「えへへ。勇者様!大好きです!」


可愛く微笑まれた。


「あ、ありがとう。」


ドギマギしながら答える。隣ではナポリタンがニヤニヤしてる。


やや遠くでカラアゲさんが、行くぞーと声をかけてくる。


バイバイ羊が多い村。ある意味私の初恋の村だな。


手の中を見ると、羊の角を使ったネックレスだった。


何かの加護があるかもしれないから、首にかけておこう。


隣でニヤニヤするナポリタンは無視!


私達がこれから目指すのは、星が降る街。星降りの丘と呼ばれる丘の頂上にある設定だ。


私が描いた設定では…


「星降りの丘で、本当に星が降る夜に願い事をすると叶うって本当なんすかね?」


ナポリタンがカラアゲさん言う。


そう。星降りの丘に星は降らない。でも稀に星が降る夜があって、その夜に願い事をすると叶う伝説があるって設定。まぁありがちだよね。


「俺の昔の友人は、その伝説で宝剣<ドラゴバスター>を手に入れたらしい。」


「マジっすか?すげー!」


「実はな、その友人が星が降る街に住んでいるんだ。<ドラゴバスター>を借りればアヤメにばかり頼らなくても、ドラゴンの相手ができるだろう?」


そうだ。次の目的地では、<ドラゴバスター>を手に入れるんだ。


<ドラゴバスター>を入手するには確か条件があったような…



星降りの丘は私が描いたラノベ以上の急勾配なのではないだろうか?


こんなに登坂がキツいなんて…


転生して体力とかがスポーツマン並になっていると勘違いしていた私は、嫌という程、コンプレックスを思い出さされた。


デブスの私は運動が苦手だ。


そんな私は、運動会や球技大会ではクラスのお荷物だった。


今もほら。カラアゲさんがずんずん先に行って、私ははるか後方。ナポリタンが私とカラアゲさんの間にいる。


分かってる。体力がものを言うこの世界で、いくら勇者の体力や身体能力を得たとしても、現実世界で運動神経が良かった経験がなかった私には、どうやって動いたらいいのかその原理が分からない。


例えば上空に飛んだフライの球をキャッチするのはある意味感覚だと聞いたことがある。


どこに球が落ちてくるのか落下予測を立てると。


それこそ野球をやり込んだ習慣みたいなものだ。


私のようにただ運動神経を得ただけでは、この技術は習得できない。


走るのが早くなったり、いつもより疲れなかったり。その程度。


本当に使える運動神経は日常生活で培われるんだ。


それを私は知ってて無視してた。


ラノベ作家には不要だからって。


でもこうやって異世界に来てみると分かる。


そういったスキルが一番必要なんだって。


だから私は、すぐに転ぶしこういった坂道をなるべく体力を消費しないで登る術を知らない。


「あのなアヤメ?登る時は長距離走だと思った方がいい。短く息を吸って吐くんじゃなくて、大きく吸って吐いた方がオレは疲れない。」


ナポリタンの場所までやっとのことで登った私に、ナポリタンがアドバイスをくれる。


そういうもんなのか。


「オレの場合は、吸う吸う吐く。吸う吸う吐く。っていう一定のリズムで呼吸をしてる。」


「それと、腕の力も使え。腕を振る力を使うことで登るのが楽になる。」


カラアゲさんだ。


なるほど、疲れると思って腕の振りを小さくしてたけど、大きくした方がいいのか。


「あ、大げさなのはダメだよ?オレはあんま腕降らない方が登りやすいし。」


「バカな!腕を振る力を利用して登った方が疲れんだろ?」


「それ、筋肉量が多いカラアゲさんだから通用するんじゃないっすか?」


カラアゲさんとナポリタンが私のために色々アドバイスをくれた。


おかげで想像よりも早く、想像よりも疲れずに頂上まで登ることができた。



星が降る街――


特に何かがあるわけでもない街。


ただ星が降るというだけで観光名所になった街。


私がそう設定したんだけど、本当に何もない…


「なんもないっすねー。」


その通りだよナポリタンくん。私がそう設定したんだもん。


だって原作ではここに滞在しないし、<ドラゴバスター>をもらうイベント以外発生しないもん。


ポツンポツンと家が申し訳程度に建っている。


自分で描いておいてなんだけど、ここを街と呼んでいいのか?そして街の人たちはどうやって生活してるんだろう?


「あそこだ。」


理由は分からないけど、カラアゲさんが昔の友人とやらの家を発見した。


ドンドン――


カラアゲさんがノックすると、いかにもカラアゲさんの友人らしい大柄で毛深くて髭もじゃなのにハゲたおっさんが出てきた。


はい。私の設定ですよ。


「久しぶりだな幕の内。」


そう言ってカラアゲさんがハグする。


むさいおっさんとむさいおっさんのハグ…


ナポリタンが明らかに嫌そうな顔をしてる。ごめんよ。私が描いたシーンだ。誰得だよ?って思いながら。


そんなことを考えている内に、カラアゲさんと幕の内さんの懐かしいトークは終了し、<ドラゴバスター>を借りたいという話になっていた。


「<ドラゴバスター>か。いいけど、1つ頼まれて欲しいことがある。」


ほらきた。


「誰でもない幕の内の頼みだ。あまりにも無茶でない限り聞くぞ?」


カラアゲさんのお人好しにも困ったものだ。


「なぁに大したことではない。ここら一帯の観光名所だった星降りの丘が最近モンスターに占拠されているんだ。それを退治してほしい。」


「そんなことか。なんてことないな。」


簡単に引き受けちゃうカラアゲさん。


私たちの意見は聞かないのね。


私の隣でナポリタンがはぁ?とか言っているのも聞こえてないくらい2人の世界に入っている様子。


こんな風に描いたっけ?


まぁとりあえず星降りの丘に向かうしかなさそうね。



星降りの丘――


夜には晴れてさえいればいつでも満天の星空を見ることができる美しい場所。


星に近い場所とも呼ばれている。


別に標高が高いからとかそういった理由ではない。


いつでも星が見れるのは私が描いたこの世界では、ここしかないから。


まぁだからって何があるわけでもないんだけどね。


星が降る街もこの丘にあるんだけど、一番の星が見えるスポットが要はモンスターに占拠されてるってこと。


そこを占拠しているモンスターは確か…


「あれっすか?」


ナポリタンが指さす先には、天を仰ぐカンガルーのような獣がいる。


そうそう。天仰袋鼠って名前を付けたっけ。


「なんか弱そうっすね。」


そう言って意気揚々と天仰袋鼠に向かうナポリタン。


「ちょっと待って!」


と言った時には既に遅かった。


近づくナポリタンに警戒心を表した天仰袋鼠が、脅威の速さでピョンピョン移動した。


移動しながらナポリタンを蹴り飛ばす。


「いってぇー。カラアゲさん、アヤメ!気を付けて!こいつら結構やるっす!」


私にも注意を促すあたり、意外と優しい。


「集団行動を取っているようだな。」


カラアゲさんの分析通り、天仰袋鼠は集団で生活している。


私は実際のカンガルーを見たことはないけど、何となく集団で暮らしてるイメージだったからそんな設定にした。


そしてカンガルーは怒ると攻撃的になると聞いたことがある。だから天仰袋鼠も攻撃的なモンスターに設定した。


「ナポリタン。陽動しろ。」


カラアゲさんが短く指示を出す。


つまり囮になれってこと。


ナポリタンは、了解っす。と言って再び駆け出した。


今度はさっきみたいな反撃を受けない。一度スピードを見たから天仰袋鼠の速さが分かる。分かりさえすればナポリタンがモンスターに遅れを取ることはなかなかない。


さすがは勇者の仲間だねぇ。


ナポリタンに気を取られている隙に、カラアゲさんが数匹の天仰袋鼠をまとめて倒した。


残りは私の出番。


「2人とも離れて!」


私は片手を前に出して手のひら大きく広げる。


「はぁ!」


お腹にぐっと力を入れるだけで、残りの天仰袋鼠が消滅した。


ま、私だけでも十分なんだけどね。


私の描いたラノベだと、カラアゲさんとナポリタンの見せ場がここであるから仕方ない。


「ふぅ。」


息を吐く私の頭をカラアゲさんがポンと叩く。


「おつかれ!」


ナポリタンは私の隣に来て、片肘で私を小突く。


なんか、運動部っぽいノリだなー。


デブスの私には縁が全くなかったノリ。


でもこうしてみんなで力を合わせてってやつ、意外といいかもしれないね。



街に戻った私たちは、幕の内さんから<ドラゴバスター>を借りた。


幕の内さんがカラアゲさんの知人ということもあるけど、あまりにも大きな剣だったこともあって、カラアゲさんが扱うことに自然と決まった。


この街は本当に綺麗な星空が見れる。


多くない家々のおかげで、星の明かりはより煌めいて見えた。


「ほぁー。」


天を仰ぐとは正にこのことを言うのだろう。


星降りの丘で大の字に寝そべって星空を眺めるのは、意外といいものだ。元の世界に戻ったら、夜景が綺麗なところと合わせて星空も見に行ってみようかな。


空気も澄んでる。まるで冬場の空気のような、そんな感じ。


「アヤメ。」


ナポリタンが声をかけてくる。


私が1人の時いつもこの人が傍にいる気がする。


「空が綺麗でつい。」


そう言うとナポリタンも、ほんとだと言って星空を見上げた。


……うーむ。


もしもだよ?もしも今の私が女だったなら、これは実はいい雰囲気というやつなのでは?


もちろんナポリタンは私のタイプではないけれど、タイプかタイプじゃないかではなく、単純にこの状況はいい雰囲気に見えなくもない。


恋愛経験のない私にはよく分からないけど、普通こういう星空を見に来たりするのって男女のカップルがするものなんじゃないの?


クリスマスとかバレンタインとかそういうイベントと同じで、カップル限定的な感じじゃないの?


私たちは今男同士なわけで、男が2人して星空を眺めてたらどうよ?変だよね?BL好きにしかウケないよね?


「どうかしたの?」


何も言わずに、ただ隣で星空を見上げるだけのナポリタンに私は訊ねた。


理由が特にあるわけじゃないんだけど、何か話があるような気がしたのだ。


「あぁ…」


?何だろ?なんか珍しい気がする。


いつも誰とでも気さくに話すのがナポリタンのはず。


私が書いたラノベでも、こんな風に何かを言いにくそうにする仕草なんてしない。


何か大事な話だろうか?と言ってもストーリーには関係ないことは分かるけど。


「あのさ…アヤメって」


「ダメだって。」


「いいじゃん。」


ナポリタンが話そうとした時に、カップルの話し声がした。


「いや…何でもない。」


そう言ってナポリタンは去ってしまった。


なんだ?気になるなぁーもう。私に関することだよね?何だろう?


途中で話をやめられると凄く気になるなー。


あぁーもう!


それにしてもあのカップルが来なければ、ナポリタンが話しをやめることもなかっただろうにぃー。これだから空気を読めないバカップルはー。


そこでふと私は気づいた。


よく見たら周りはカップルだらけだった。


あぁ…ここもいわゆるカップル限定の恋愛スポットだったんだ…


これはひがみじゃない。


妬みでもない。


羨ましくもない。


でもね、私はやっぱりカップルが嫌いだ!


久しぶりの言葉かもしれないけれど…


リア充爆発しろ!

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