第4話

 自分自身の魔術で胸を貫いた光景を見ている。何度も何度も。


 覚めない悪夢の中、違う映像が流れてきた。今までの色味までリアルなものではない。茶色く汚れた映像だった。所々に古びた血のような汚れが映像を隠している。


 「今回は、随分と派手にやられたな。まぁ、死ぬ程じゃない。アンタはタフな野郎だ。……少し横になってろ。こいつらは、俺が片付ける……アンタを連れて帰んなきゃ、姉貴にどやされちまうからな」


 「待て……」


 「心配すんな」


 失った記憶だろうか。そこで全てが途切れ現実の景色を目にしている。天井に埃。テーブルに蓋をされたカップ。古く汚れた包帯。


 「イーライ。アル……どこに。……かっ! 足が……んぅ!」


 側に立てかけた棒に手をかざすと、棒がひとりでに彼の手の中におさまった。


 「……びっくりだな」


 カップの側に紙が挟まっている。丸い文字でメッセージが記されている。東へ取引に向かってくる。家の事はアルの魔術をかけた道具がやってくれる。


 「家の事……」


 棒を捨てて歩き出し、テーブルの埃を指で掬った。


 「魔術の光……。えらく薄くなっているけど。……これが彼らの見る景色か」


 水かさの減ったカップに口を付け喉を潤し外に出る。変わった事と言えば、畑が草むしていることや、馬が居ないこと。中央に茶色く光る黒い岩が転がってる点だろうか。


 右腕から魔術の管が発生し、その岩を指し示した。


 「なんだ。調べてみろってか?」


 その岩に近づくと管が自ら隙間へと入り込むとともに、何かと繋がったような感覚に陥る。体から熱を持っていかれた様な感覚とともに膝をついてしまった。


 岩のひび割れが治り、人を模した人形の姿へと変貌する。手足に幅広の胴体。首は無く、胸に丸く光沢のある球体がはめられている。


 「いよう! 起きたか。まぁ、数日で戻れるだろうし。これを聴くことは無いだろうなぁ。イーライも反省してるってよ。また今度、歓迎会やって仕切り直そうぜ」


 「ー伝言は以上です。おはようございます。エイハブ」


 「……。今の伝言。いつのやつだ?」


 「1ヶ月前です。私の魔力が切れてから3週間が経過しています」


 「彼は死んだのか?」


 「不明です。ですが幸いでした。貴方が魔力を補充してくれたお陰で、周辺の術式設備を再稼働することができました。昇降機、除染設備、防衛設備が再度起動しました」


 「それは良かった。盗人が入り込んでも大丈夫か?」


 「えぇ。ご心配なく。それよりも魔力の量がかなり減少している様子で。部屋でお休みくださいエイハブ様」


 「そうしたいけど、食料はあるかい?」


 「塩漬け肉が保存庫の樽に。水やり用の個体には休眠命令を出しておりますので、今後眠ってる間に管を通されることは無くなりますので、給水はご自身で行ってください」


 「お。おお。わかった。自分に出来ることは?」


 「早る気持ちはわかります。しかし今は栄養を補充し、体力を戻す事を急務としてください。アルフレッドからの指示で、万が一があった場合に、貴方を鍛えるように言いつけられていますので」


 「わかった。ところで、君をなんと呼べば良い?」


 「名はありませんが、キーパーとお呼びください」


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